ファリアスティアの神話と伝承
<天約葉(創世記)>
―光と闇―
初めに光があった。
その輝きはあまりに強すぎて、
己の姿を見ることも出来ない程だった。
ある時、何処よりか闇が現れた。
その瞬間、視界が開け、
光と闇は初めて、
お互いの姿と自らの姿とを知る事が出来た。
それまで、
光と同じように闇もまた、
光なき暗黒の中で
辺りはおろか
己の姿を知る事すら叶わなかったからである。
光は白い綿毛のようにやわらかな髪を持つ少女の姿、
闇は絹の帳のように艶やかな漆黒の髪を持つ少年の姿をしていた。
そして、この時ふたつの存在は気が付いた。
この世に彼ら以外のものが存在していない事を。
―最初の創造―
おのずと、
光と闇は共に在るようになった。
ある時、彼らは互いの力を合わせる事により
今まで存在し得なかったもの……すなわち
新たなるものを生み出す事が出来る事に気付いた。
それまで彼ら以外には何もなかった空間に、
彼らは物を造る事を覚えたのである。
初めに生み出したのは
植物だった。
姿かたちの違いを楽しむために、
様々な種類を次々と造りだしていった。
次に、それらを根付かせるための
大地が。
それから、それらを動かしゆらして楽しむための
空気と風が。
――しかし、この瞬間、
決して後戻りする事のできない
大きな変化への選択をしてしまった事に、
彼らは全く気付かなかった。
この選択から生まれたものと
それがもたらす悲劇が明るみに出るのは
もっと後になってからの事である。
彼らはそれから、
翼やひれを使って空中を自在に滑空する鳥や魚、
大地を踏みしめ歩き回る動物たちなどを
次々と生み出していった。
植物たちは大地に根を張り大きく伸び栄え、
動物達は次々に新しい動きを覚えてゆき、
鳥や魚は風が吹くたびにその滑空に巧みさを増していった。
彼らは自らが生み出したものの素晴らしさに
夢中になり、
それらと楽しく過ごすうちに、
初めて 「感情」 というものを覚えた。
それは、それら全てに惜しみなく注がれる
慈しみの心だった。
しかし、その満ち足りた幸福の背後には、
それも彼らが全く気付かぬうちに、
悲劇が息を潜めて静かに忍び寄っていた。
動物たちの動きが徐々に鈍くなっていく事に
彼らが気付いた頃……、
既に悲劇は全てのものに
その痛々しいほどにやせ細った無慈悲な黒い腕を伸ばし、
その中にしっかりと抱いて離さなかった。
動物達はやがて一匹残らず動かなくなり、
植物もいつしかひとつ残らず枯れていった。
塵となった亡骸は風に飛散し、
再びそこは彼らだけの空間に戻っていた。
造り出した全てを失い、彼らは虚無感に襲われた。
彼らは失う事への悲しみを覚え、
ただただ泣き暮らした。
ようやく、
いたずらに嘆き続ける事にも飽きた彼らは
顔を上げて互いの姿を見、
驚愕した。
彼らは大人の姿になっていたのである。