〜 タイ人から受けた親切・愛情へのお返しがしたい 〜

私がAMDA国際医療情報センターでタイ語の相談員として働き始めたのは、ちょうど1
年前のことです。直前まで5年間タイで生活をしていた私は、日本へ帰国したら是非や
りたいことがありました。それは、日本に住んでいるタイ人の助けになる仕事をするこ
とです。私はタイでの5年間、数多くのタイ人の優しさに支えられて生活してきまし
た。特にその有難さは病院へ行くとき強く感じました。ただでさえ病気になると不安で
す。ましてやそれが外国となれば相当のストレスを感じます。日本に住むタイ人のそん
な不安を少しでもやわらげることができたら、とセンターで働くことを選びました。
働き始めた当初、タイ語の相談は殆どありませんでした。しかしたくさんのタイ人が
東京で働いているはずです。確かに、朝センターへ行く道すがら、時折タイ語が耳に飛
び込んできます。夜の仕事を終え、帰宅の途につく彼らとセンターの近くでよくすれ違
います。これほどタイ人がいるのに、何故相談電話が少ないのだろう?不思議に思いま
した。皆病気にもならずに健康なのだろうか?しかししばらくすると、日本に住むタイ
人の多くがオーバーステイで、警察に通報されることを恐れて日本社会とは接触しない
ようにしているということがわかってきました。タイ人の力になりたいと思いながら、
その方法もわからないまま半年以上が過ぎた頃から、少しずつタイ人からの相談電話が
増えてきました。そしてその内容もエイズに関するものが中心です。
その中で11月に私が受けたケースは以下のようなものでした。その時、エイズプロ
ジェクトで来日中のタイ人看護婦プラパポンさんは外出しており、私が相談に応対する
ことになりました。
回答として、エイズ検査は通常感染したと疑う日から3ヶ月以上たつと正確な結果を
得ることができることをまず伝え、2年前の性交渉のあと、彼と関係がなければ6月の
結果通り陰性(-)であろうと答えました。ただし、心配ならばと、再検査のためにタイ
語で検査できる新宿保健所を紹介し、さらにセンターではエイズに関する電話相談をタイ
人看護婦がタイ語で行っていることを伝えました。この相談者のように、一緒に住んで
いる人や、以前性交渉を持った人がエイズを発症し、初めてこの恐ろしい病気が自分の
身にふりかかって来ることもあります。また、他人に相談できず、1人で悩んでいる人
が多く、HIVに関する無知が、恐怖感、絶望感をいたずらに大きくしてしまいます。ケ
ースによっては、電話口で泣かれたり、相手が動揺してこちらの説明をきちんと理解して
くれない場合もあります。この相談の時も心配しなくても大丈夫だと伝えた上で、保健
所を紹介しました。タイ保健省の発表によると、タイ国内には現在85万人のエイズ患
者がおり、今後3年間でその数は400万人に達するそうです。
私はタイでの生活でエイズを発症した知人は一人もいませんでした。従って、エイズ
大国タイと言われている国に住んでいても、その実感は全くありませんでした。こうし
てセンターで働き始めて、実際相談電話を受けるようになり、その病気が現実味をおび
てきました。先日タイ人男性から、口のなかに白いかびのようなものができているとい
う相談を受けました。私はその症状からどのような医師を紹介したら良いかわかりませ
んでした。プラパポンさんに相談すると、彼女はてきぱきと彼に症状を尋ね、速やかに
エイズ検査をすることを勧めました。彼自身もエイズではないかと思っていたそうで
す。エイズ発症と一言に言っても、実に様々な症状があることを知りました。
もちろん全ての相談をエイズに結び付けることは間違っています。こちらの数少ない
知識で推測したりすることは決してあってはならないことです。しかし、こうして相談
電話を受けているうちに、エイズに限らず、その他の病気の名前や症状を知識として知
っていることが大切だと実感するようになりました。私は外国語が話せるだけではな
く、広い範囲の知識を身に付けた相談員でありたいと思っています。それが私が今まで
受けてきた数多くのタイ人の親切、愛情への恩返しになれば幸いと思っています。
(AMDA国際医療情報センター NEWSLETTER NO.23より)
『2年前にある男性と数回に亘り性交渉を持った。その後その男性はエイズを発症し
た。びっくりして自分ももしかしたらと心配になり、6月に血液検査を受けた。結果は
陰性(-)だったが心配で心配でしょうがない。本当に大丈夫だろうか?』

お問い合わせはamdack@nifty.comまでお願いいたします。