「私の作品は純粋なるフォノメトログラフィーによってつくりだされたものなのだ・・・ <冷たい小品>を書くためには、私はカレイドフォン=音響記録器を使用した。それは7分間を要した。」 この頃を境に、神秘の主義と中世の影響の時代から、ミスティフィカシオン(韜晦)とか奇行の時代へと作風が変わります。 サティの曲には変わった指示語がありますが、この作品にはこれまでになくユーモラスな 「独特なやり方で」、「しゃぶって」、「食べすぎないで」、「少し酔って」、「念には念を入れて」 など、音とは直接関係ないものになっています。まさに、新しい時代へと変わっていったのです。 <逃げださせる歌> 第一曲と第三曲は出だしの調性が、ハ短調とト短調という以外は類似しているのが特徴で、依然として和音や旋律は並列に 置かれますが、微妙な転調を繰り返しています。リズム感あふれる曲で、間違い無くサティの傑作の一つでしょう。 <歪んだ踊り> こちらは3曲とも一つのリズム型で一貫しています。また、サティ自身が出版した作品の中で唯一、アルペッジョによる 、そして絶えず奏でられる伴奏旋律をもったもののようです。 しばしばフォーレ(*1)の影響を指摘されますが、ジャン=ジョエル・バルビエは 「第3番の踊りの部分でのわずかな例外を除いては、アルペッジョはすべて完全和音によるものであって、アルペッジョを 構成する音符が次から次へと繰り出されるだけである。突然の転調が行われるのは並置されたアルペッジョの間であって、 アルペッジョの中で行われるのではない。要するに八分音符が綺麗に並び連ねられて旋律線が並置されていながら、 いつの間にか転調して不思議な気分にさせるという、デリケートな音の仕組みなのである。」 と、説明しています。フォーレの影響を受けつつも、サティの音楽として成っているということでしょうか。 最後に、バルビエはこうも言っています。 「端的にいってこの曲は美しく、内に秘めた優しさに富み、言葉に表せないほど魅力的であり、しかもこれまた不動の動の 曲なのである。」「たしかに[魅力的]以外の何ものでもなく、いわば静止の魅力、不動の動のもつ魅力だというべきであろうか。」 (「サティとピアノで」ジャン=ジョエル・バルビエ 訳者:相良憲昭 (株)リブロポートより) 「歪んだ踊り」ほど、私の心を揺さぶる曲は他に無いです。 *1 ガブリエル・ユルバン・フォーレ(1845〜1924)フランスの作曲家