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偽書「プロブナンス(軌跡)」
原書は2007年の7月、セバスティアン・フォークスがイアン・フレミング生誕百年記念の小説の著者に選ばれた頃に発行された本であり、フレミング版「ダビンチコード」という評価であった。
祖父の遺産を受け取りに貸し金庫を空けたらフレミング未発表原稿があった。それを手にしたとたん命を狙われる羽目になった、と。物語は命狙われる主人公エミーの話と、フレミング未発表原稿「プロプナンス」の本文がほぼ交互に展開される。
書体を変えてあるので、てっとりばやく未発表原稿の中で活躍するイァン・フレミングの勇姿を堪能したい人はそれ目安に読んでいけばいいのかもしれない。その未発表原稿とは、近代英国史上最大のスキャンダルに、自分がいかに加担したかを告白したフレミングの手記なのであった。
イァン・フレミングが小説家としてデビューできたのも、元スパイがスパイ小説をかいた・・・といった「売り」があったのが最大の武器だったように、フレミングの前歴を素材に、夢多き小説家達が過去に執筆、そして発表した「物語の主人公として登場したイァン・フレミング」は、颯爽とした海軍情報部の将校で、特殊部隊を率いて作戦を立案して英国を救い、あるいは単身敵国に潜入しジェイムズ・ボンドそのものの活躍をしてナチス・ドイツをやっつける。
それが、伝奇小説にフレミングを登場させる最大の「売り」になるのだ。たとえ実際のフレミング先生がデスクワーク専門の情報部将校付の秘書官だったとしてもだ。
いわゆるミス・マニペニー・ポジション。
ところが、フィクションの中のイァン・フレミングはスーパー・スパイであってほしいけれども、荒唐無稽なジェイムズ・ボンドもどき勘弁だ。この偽書の著者にはそういう意志があるようだ。
だから舞台は第二次世界大戦前。もちろんフレミングは海軍情報部には「就職」していない。民間人として登場する。民間人が知らず知らずの内にスパイに仕立て上げられていくそういった時期の最大の冒険といったところだ。
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イァンはその素行の悪さから上流階級のフレミング家の財閥一族から鼻つまみ者扱いされている。しかしその奔放さは逆に人を引きつけるものでもあり、つねに社交界の華であった。この誰とでも親しくなれる特技、特に女性に対してのは、諜報にうってつけの特性だ。しかもフレミングが舞う社交界の場はそこらのサロンじゃない。フレミングの名付け親がチャーチル英国首相であったように、財界、政界のみならず王室の家族も集う場だ。
チャーチルは言う。
ソロモンという名の褐色の猫を膝の上であやしながらチャーチルは言う
「わたしが名づけたイァン、ちょっとオーストリアの皇太子となかよくなってくれないかね」
そして夜を明かしてグラスを乾す仲になった頃、チャーチルは言う。
ドイツ対策の決議の場でも一心同体の猫、褐色のソロモンを愛でながらチャーチルは言う
「私に名づけられたイァン、ところで皇太子はドイツとロシアについて何かいってたかね。とくに今のドイツの政党についてはどうだい、可能ならば奴らは危険だと皇太子に吹き込んでくれないか」
チャーチルの要望がだんだんエスカレートしていくうちに、イァンにとってそれらがスリルのある冒険になっていく。
ひとりのスパイの誕生だ。
チャーチルと褐色の猫は言う
「次期英国国王になるだろう王子様と友人になってくれないかね」
そこから始まる英国政府の大陰謀の結末は歴史が語ってる。
エドワード王子は国を捨て、女をとった。
そしてその歴史のページのウラにはこう書かれている
ヒトラーとナチスに心酔していた王子が、英国の国王でありつづけることは、なかった。
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