
2003/6/13 浅草「大黒屋」
2003年6月13日(金)19時
「大黒屋は、蕎麦好きにとっては楽園であり、日本に住み 日本の食文化を満喫できる幸せに浸れることに感謝の 気持ちがもてる店である」
前回、木曜日に予約を入れたら満席だったので、今回は水曜日に予約を入れ、万全の体制で望んだ。
N氏、M氏が同行する。今日は、我々のインターネットサイトのオフ会(毎月第2金曜日)である。
地下鉄浅草駅から、夕暮れですっかり人通りが減った仲見世浅草寺を通り抜け、言問い通りを越える。店はまばらになり、会員制の札を貼ったスナックや高そうな料理屋が並ぶ。一見の客は足を踏み入れ難い地域だ。
その一角に「大黒屋」はあった。小さい日本料理屋といった趣である。
戸を開けると、左手に待合の椅子がある。後で、そこが喫煙所であることを知った。ガラス戸で店内を仕切ってある。
トイレは右手で、TOTOのビデ付き洋式トイレが鎮座しており、きれいだった。
蕎麦畑の写真や、なぜか「あいだみつを」の色紙が飾ってある。
店内は細長で、右手は座敷(4人席×4、2人席×2)左手は椅子席(2人席×2)である。純日本風の造りでテーブルも木製だ。全体に高級感が漂う。
「ここは、1g当たり8円で最も高い店です」とM氏がどこで仕入れたか、薀蓄を語る。真偽のほどは定かではないが、思わずN氏と頷く。
「今日はキャッシュは1万円ちょっとしかないけど大丈夫かな」などと、一瞬心配してしまうのが情けない。
畳は薄っすらと青く清々しい。座布団は緑(抹茶色に近い)で、初夏を感じさせる。
初老の白髪の奥さんが着物に白い割烹着をまとい接客を担当する。僕らが店に入った時にはお客は2組であったが、直ぐに満席になった。奥さんの仕事は次第に忙しくなり、小走りになっていく。石だたみに、ゲタの音が響く・・・。
僕らの後ろには、言葉遣いは丁寧で態度も悪くないが、目と頭部は怖く、服装に特徴があるおそらくテキヤ関係者が3人座っていた。アルコールは飲まず、なかなか出てこない蕎麦を待っていた。苛々している雰囲気が、僕らを緊張させる。
ここは日本だ、浅草だ。外人に見せたい店である。
さてビールで乾杯。一口のグラスで一気に飲み干す。
予約時にお願いしていた鴨鍋の鍋が鎮座してあった。薄く広い鉄鍋で、期待が募っていく。
まず、「たたみいわし」「板わさ」「そばみそ」を頼む。
「たたみいわし」は2段重ねの箱で出て来た。1段目には炭が入っており、2段目のたたみいわし(丁度3枚)を少し暖めてあり、香ばしさが引き立つ。箱蓋の裏には焼きごてで「大黒屋」の刻印があった。
こういった小道具にめっぽう弱い3人は、「たたみいわしはなぜ出来たか」という高尚なテーマを巡って、「日保ち」説、「交易説(遠くに運ぶ)」と論議を深めていった。こうなると止まらない。
「板わさ」は、とてもプリプリした食感で、ほのかに甘さ感じられる。
さて「鴨鍋」だ。奥さんが白いスープを鍋に注いで下さる。
スープはゆっくりと熱をおび、ブツブツと煮え立ち出す。
そこに、大きくスライスした鴨肉(冷凍8枚)、豆腐、キャベツ、小松菜、太い糸コンニャク、えのき、椎茸、ほうれん草、かぼちゃ、大根、長ネギ、ニンジンを次々に入れていく。
火が通ったところで、大根おろしをいれた汁(柚子ポンズ風)をつけて口にほうばる。美味い、美味い。箸はとまらぬ。
鍋であるが、大満足しているため、お互いの箸を譲り合う気持ちの余裕がある。人より多く鴨を食べたい(3人で8枚では割り切れない)などと言う邪悪な気持ちは微塵も湧かない。
文化は人の心を豊かにする。
なんと奥さんは「饂飩はいつにいたしますか。めしあがる5分前に声をかけて下さい」と僕らを誘惑する。
おもわず3人は目を合わせ葛藤する。「ここで饂飩を食べたらせいろが食えなくなる。それは困る」一番体重が少ないM氏が「一人半でいいでしょう」と一見提案に聞こえるが、事実上その場をしきる。二人は素直に従う。
「この蒸し暑いのに鍋?」と思われる方、あなたの疑いは一口で晴れるでしょう。饂飩も美味い。
酒に突入、止まらない。
日本酒の造詣が日々深くなるM氏が、日本酒を入れてある冷蔵庫に遠征する。
まず「獺祭(だっさいと読む)」。この酒は、今夜のオフ会を欠席したH氏が大好きな酒だそうな。
休むと幸せは訪れぬ、オフ会を欠席してはいけない。
冷えた鉄瓶から酒を注ぐ。美味いに決まっている。
「そばがき」好きのN氏がオーダーする。
「普通挽きですか、荒挽きですか」と問われ、予想外の質問にしばらく自問自答する。答えは荒挽きに決まっているのだが、こういう時は、なぜか悩むのだ。誰にもあることだ。
陶器の手鍋でそばがきは出て来た。香ばしい匂いが漂う。
ねっとりとしていて少し甘い。絶品だ。
ちょっと醤油をつけたり、きな粉をつけると、また違った味わいがある。
3人は感動の海を彷徨う。荒挽きのそばがきをN氏は一生忘れられないであろう。いつか自分で作る日が来る。
3本あけてから次は「東一(あずまいちと読む)」へ。この酒はすっきりとした味だ。
最初にオーダーした「そばみそ」が遅まきながら出て来た。
小ぶりのしゃもじに、ふっくらと盛られている。表面はカリカリであるが、中は中トロで、味噌に混じった蕎麦の実が、プチプチとして食感にアクセントをつける。
「最後に出てきてよかった」とM氏はフォローする。
時刻は21時半を回っていた。暖簾もおろされた。
「せいろ」は、箱盛で出て来た。下に長方形のざるが敷いてある。その上に、小さく盛られた蕎麦の山が3つある。見た目に美しい。細めで濃い灰色の蕎麦はこしがあり、香りが強い。
汁をほとんどつけなくて、美味い。
汁はだしの旨味に満ちている。ネギとおろしダイコンを入れると味が一変する。わずか数分の時間で、味の万華鏡を楽しめる。
湯桶の蓋を開ける。中で「ジュ〜」と小刻みに蕎麦湯が鳴っている。なんて素敵な光景なんだ(このシーンは先日のTV放映でみたから目の当たりに出来た。ジャーナリスムの責任は重い)。3人は、至福のラストを迎えた。
薄く白濁した蕎麦湯で汁を割る。ネギの香りがのぼりたつ。
「何も足さない、何も引かない」
「踊らず奢らず」
心と体を優しく包む。
ご馳走様でした。感謝の気持ちに満ちてます。
奥さん(僕らは勝手に思い込む)の話では、店はご主人と二人できりもりされているそうだ。普段はバイトの学生がいるが、今夜は試験とか用事があり出ていないらしい。休むなバイト!
店を開けて25年。弟子はいないという。こんな素晴らしい職人の腕が継承されないとは、日本の不幸である。
せめて僕らが通い、この経験を後世に伝えていこう。
贅沢は止まらない、止め様も無い。普段は質素に行こうと誓う夜であった。
鶯谷からタクシーでワンメーター。暑い日、寒い日はタクシーで行こう。
< 本日のお会計 >
エビスビンビール大 ?円 × 3本 = ?円
獺祭2合 ?円 × 3本 = ?円
東一2合 ?円 × 1本 = ?円
鴨鍋 ?円 × 2人前 = ?円
たたみいわし = ?円
板わさ = ?円
そばみそ = ?円
そばがき 1,600円 = 1,600円
せいろ 1,100円 × 3人前 = 3,300円
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合計 20,108円
台東区浅草4丁目39−2
電話:03−3874−2986
以上
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