ガンダムイフニ

(1) 天使隊-2

 イアンが<天使隊>に入って一年。先に天使隊訓練生となっていたメッターに誘われて入隊した。メッターは異例の2年生の訓練隊隊長となるにあたり、副隊長に1年生のイアンを指名した。
 最初から順調だったわけではない。だが、イアンは訓練の過程でめきめきと実力をあげた。メッターの指導が良かったこともあるが、イアンがメッターを目標としてまめに努力をしたのが一番大きい。イアンの動体視力、未来予測能力等、その他兵士としての数値は訓練生の中でもメッターと並んでトップレベルになった。
 それでも、リーダーとしての資質は、メッターの方が圧倒的であった。それに、ハングリーである。メッターには燃えるような使命感と立身への欲望がある。<天使隊>で優秀な成績を収め、<ガイア聖霊隊>の士官となり、功を遂げ名を成し、ガイア教団の幹部となって、地球を再生させる。まじめなのである。
 イアンはそれほど、まじめに考えていなかった。天使隊の訓練生になったのもメッターとラキーナに勧められたからだ。訓練を続けられるのも、メッターとの友情が大きかった。メッター隊のエースの立場に甘んじ、メッターを常に立てた。昔からわかっている。自分にリーダーシップはない。少なくとも、メッターに匹敵するリーダーシップは。
 二人のチームは、とにかく、無敵だった。メッターが指揮し、イアンが落とす。他の訓練チームに負けることは、なくなっていた。成績は食事の内容や、休み時間の取れ方に影響する。メッターに流されて入った天使隊ではあったが、負けるのはいやだし、メッターに認められたくて、イアンなりに工夫して訓練をこなした。
 たとえば、メッターの指示は的確ではあったが、それでも鈍い訓練生にはとおらないこともある。そんな空気を察すると、イアンはわざとぼけた質問をメッターにして見せたりするのである。
 イアンの愛情と忠誠心はひたすらメッターに向かっていた。アイドル。カリスマ。なんと呼んでも良い。イアンが、自分がこうなれたらいいな、と思う理想像である。だが、おそらくこの優秀すぎる友人に追いつくことは永久にないだろう。それも自覚している。

 コンピュータ合成されたリアルな全天視界の3D画像に、本物と同じスティック、フットペダル、リニアシート。右上からビームが飛んでくるのが視界に入るや、イアンはぐいっとスティックを押し込み、モビルスーツの仮想機体をひらりと舞わせ、ビームを回避した。だが、と思う。こうやって敵が見えさえすれば何とかなるが、このシミュレータでは、後ろから撃たれるとまったくわからない。フィールドの体を使った訓練では、その正体が音なのか、空気の流れなのか、とにかく何かがくるという感覚が伝わってくるので、集中さえしていればいきなりやられるということはないのだが。
 訓練生の中には、モビルスーツシミュレータさえやっていればいいと思っている者もいる。確かにこの宇宙世紀0215年に、自動小銃を持ってのゲリラ活動では、戦力とはいえない。モビルスーツ全盛である。だが、訓練内容は、フィールドバトルと同じだとイアンは思う。今撃ってきた前方右のモビルスーツをロック。シュート。当たった。動きながら、次のターゲットを探す。新型高性能機<アイガイオーン>のシミュレーションは、その太目の外見にもかかわらず、非常に動きは軽い。回避、索敵、ロック、シュート。撃墜。ほらみろ、同じじゃないか。
 敵は残り2機。『俺がそっちに追い込む。イアン、しとめろ、逃がすなよ。他の者はもう1機を遠巻きにして泳がせておけ。無理して落とすな』メッターだ。本来のモビルスーツ戦と同様、無線はよほどそばによらなければ使えない。今は、シミュレータ内でレーザー通信していることになっている。
「了解」
 メッターには逆らえない。子供のころからずっと一緒だった。メッターは活発で、優秀、女の子にももてる男だ。僕のどこが気に入ったのかわからないが、とにかく目を掛けてくれて、僕は金魚の糞みたいに後を追いかけてきた。この天使隊まで。モビルスーツシミュレータも、フィールドバトルも、勉強も、一対一なら、負けないようにがんばってきた。テクニックは身につけた。だけど、勝てる気はまったくしない。何か決定的なところに差があると思う。今も僕は神経質に回避行動とロックオンを繰り返しているが、メッターのモビルスーツの動きのなんと奔放なことか。
 こっちの手元にメッターが敵機を追い込んできた。慎重にロックした。ここで逃がしたりしてメッターを失望させるわけにはいかない。
 モビルスーツ戦闘のロックオンは絶対ではない。ビームに誘導性能はない。より確実にヒットできるポジションへ、機を移動させる。相手の動きを予測しろ、右、左、左、右。
「そこッ」ヒットした。シミュレーション空間内に、仮想の光が乱舞する。
 残りの1機の撃墜も、時間の問題だ。早速メッターが味方を監督しに行った。コンピュータグラフィック上のメッターのバーニアの光が、まぶしく見える。

「よくやってくれたよ、イアン」シミュレータから降りてきたメッターは、イアンのところに歩み寄ってきて、軽く体を抱くようにして、イアンの頭に手を置き、髪の毛をくしゃくしゃにした。
「よせよ、メッター」イアンは笑いながら答えた。もちろん、本気で嫌なはずがない。メッターのために、天使隊にいるのだ。メッターに認められるために。
 イアンの栗色のしなやかな髪を、メッターは好きだといったことがある。うらやましいとも。イアンはイアンで、メッターの男らしい剛毛が好きだったが、確かにくしゃくしゃにできるような質の髪ではない。
「ありがとう」さっと手櫛で髪を整えてから、メッターと硬い握手をした。

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 イアンとメッターが、苦しいながらも幸せだったとき、です。どこかすれ違っていながらも、友情を感じているとお互いに信じあっている間柄の二人。
 その時はつらくて耐えられないように思えたことが、後で思い出すと、結構楽しく思えたりすることってあると思いますが、今のこの二人がそんなときを過ごしているイメージです。僕も、この文章を書いているその時は、この境遇が、それでも二人にとって幸せだったと後で言えるとは、とても思えなかったんですが。
 人生は、小説より奇ですから、今人生つらいと思っている、皆さん。僕も含めてですが、後で思い出すと、結構楽しいときなのかもしれません。