(1) 天使隊-3
「非常に優秀だな。ん? ブラザー=メッター」
サンターナがメッター近づいて声をかけた。<導師>と呼ばれていて、天使隊の校長にあたる。メッター隊の成績が抜群であることを受け、特別表彰にメッター隊全員を導師会見室に呼んでいた。
やせた長身、黒い長髪、浅黒く精悍な顔つきに少しあごひげを伸ばし、微笑を浮かべている。が、その目は笑っていない、とイアンは思った。メッターの度量を測っているようだ、とイアンは思う。
「ありがとうございます」
メッターがはっきりと、声に出して返事をした。イアンからは後姿なので表情はわからないが、幼友達でもある。本当によろこんでいる様子に思える。メッターは優れた友人であるが、ガイア教を心から信じ、権威を受け入れている姿を見ると、いつもちょっと幻滅する。
サンターナが脇にいるちびの教官に目で指示し、イグドールが例の甲高い声でメッター隊へのご褒美について、説明した。特別休暇3日、わずかながらも懸賞金。ないよりはましだ。ラキーナに会いに行くこともできる。行くとなれば、メッターも一緒ということになるだろう。
立ったまま物思いにふけっていたイアンははっとした。前方に立っていたメッターを通り越し、二列目に並んでいる自分の前に、サンターナが注目している。視線はまだこちらには投げられていなかったが、わかってしまった。動悸が早まった。サンターナがこっちにくるくらいで、格好悪い、と情けなくなった。必死に感情をセーブしようする。
ゆっくりと、サンターナが、イアンの正面に立った。頭ひとつ、サンターナのほうが背が高い。
「イアン=ランドー君だね。メッター隊のエースにして、補佐役というところかな」じろじろとこちらを覗き込むようにしながら、サンターナがいった。
「はあ」気圧されていた。メッターのようにはっきりした返事ができなかった。口の中が急に乾いたように感じる。自分は自分が思っているほど度胸があるわけではないのだ、とふがいなく思う。他の訓練生のようにガイア教に心酔しているわけではない。それでも権威に屈するというわけだ。
いや、違う、と心のどこかが感じた。権威に屈して、怖気ているわけではない。サンターナ個人に、呑まれようとしているのだ。この感覚。
――「さあ、主の前で隠し事はいけないよ」
そういって、神父はやさしく、愛情を込めて、左手で少年の頭をなでた。右手は少年の頬をなでさすっていたが、首から、胸へ、そして徐々にもっと下へ降りていった。
神父は愛撫をやめると、落ち着いた手つきで聖職服を締めている帯を解いた。――
何だ、今のは? とにかく、こいつは敵だ。動悸は急激に治まった。イアンは両手を握り締め、体をリラックスさせ、周りから見たらそれとわからないように、いつでも殴りかかれる姿勢になった。
――やっちまえよ。低俗ホモやろうなんかよ。
「君にも、天使隊の将来の指揮官となれるだけの資質があると思うのだよ。次回の隊の再編で、イアン君はメッター隊から離れ、新たな隊を指揮してもらう。私の期待にこたえてもらいたい」ゆっくりと、やはり口元に微笑をたたえたまま、サンターナが言った。
戦闘モードに入っていたイアンは、最初相手が言っていることが理解できなかった。再び自分自身の意識が制御下に入り、言葉の意味を改めて吟味して、慌てふためいた。まさか、こんなことが! これほど迷惑なご褒美はない。1年かけて、イアンとメッターは隊を今の地位に引き上げたのだ。それが、ご破算になろうとしている。そして、指揮官としての苦労の日々が始まるのである。目の前が暗くなる感じがした。隊員が別の隊の隊長に抜擢されるのは、元の隊の隊長への、最大の賛辞とされている。予測してしかるべきだった。
答えを期待して、じっとりと、サンターナがこちらを見つめていた。返事をしないと、まずい。
「ありがとうございます」強く、男らしく。今度は言えた。パニックになるな、と自分に言いきかせる。
「……期待が裏切られることはないと確信している」サンターナが、一瞬怪訝そうな表情になったのは、気のせいだろうか? だが、サンターナは改めて微笑を浮かべてから、背を向けて、歩み去った。イアンは、周りにわからないように、大きく息を吐いた。表彰式はやっと解散になった。
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暗転していくイアンの運命・・・のさきがけって感じです。
副長の艦長への昇進は、艦長への最大限の賞賛の表現。これは、ホーンブロワーからの受け売りです。ナポレオンに立ち向かった英海軍艦長の物語ですが、絶対面白いです。まずは読んでみてから。
サンターナに関しては、モデルは・・・。はっきり言うと、シロッコです。北アフリカに吹く風のシロッコ、南米に吹くサンターナ。ひげを生やしたシロッコだと、僕のイメージから近いです。