ガンダムイフニ

(10) マーシャルダイヴィング-1

 イアンはフレイドの隣の席で、かなり緊張しながら座っていた。サンティアゴから出発した旧式核融合エンジン旅客機の今までのフライトは順調だった。父親が話した計画は素っ頓狂なものだった。そろそろ予定時間が近づいてきていた。イアンは父親の顔をチラッとのぞいた。音楽を聴いてリラックスをよそおってはいるが、やはり緊張しているようだった。それはそうだろう。イアンは軍隊の訓練を受けていたが、父親は研究者なのだ。こんなことになれているのは本来僕のほうだ。助けてやらねば。

『ターゲット確認!』ボウトのちょっと苦しそうな声がコクピットに伝わってきた。だが、発声はしっかりしている。アークのパイロットたちは全員生粋のコロニー育ちである。地球の重力環境もなれないし、空気があるところでモビルスーツを飛ばすのもあまり経験はない。だが、けなげにも任務を果たそうとしていた。
「了解、こちらもキャッチした」ホートラングは答えた。ボウトも少しはましになってきたようだった。ブラッドとミイナはお留守番で、ホートラングとボウトの2機の<ヴィクトール>――<カチドキ>の改良型で、ジェネラルが主導して量産したモビルスーツである――が出ている。
「よし、後ろからゆっくり近づいて、無線で呼びかける。前に出たり、近づきすぎて旅客機の周りの気流を乱すなよ。モビルスーツと違ってすぐ壊れちまうからな」
50m近い旅客機の後ろ100mくらいの位置に、15mちょっとのヴィクトール2機がくっついて飛ぶ格好になった。
「聞こえるか、アトランティス234。こちらはエウーゴだ。貴機はこちらの支配下に入った。こちらはモビルスーツ2機で、ビームライフルで武装している。こちらの要求をこれから伝える。繰り返す、アトランティス234……」ホートラングが無線で呼びかけた。
『……こちらアト…ティス234。聞こえた。そちらの……は何か』ヴィクトールはミノフスキードライブ機である。これだけそばでも通話状態はあまりよくない。だがデリケートな旅客機に<お肌のふれあい通話>をやるわけにもいかなかった。とにかく、意図は通じたようだった。それに、機長はパニックになっている様子ではなさそうだ。たぶん連邦軍出なのだろうとホートラングは思った。
「乗客にフレイド=ランドーという名前の男性がいるはずだ。彼の要求に従え。繰り返す……」

 もう、いまどきハイジャックなんて、どうして起こるわけ? スチュワーデスのアンナ=ロドニーは声を抑えてぶつぶつとののしった。相手が言ってきたフレイド=ランドーという客は、24Aに席を取っていた。乗客にパニックを起こさせるわけにはいかない。慌てているように見えない範囲の全速力で、アンナは席に向かっていた。どんなやつなのかしら。アンナはサスペンス小説が大好きだった。ひげを生やした大男のテロリストを想像した。テロリストといってもちゃんとした思想を持ってる手合いならいいけど。いきなりいやらしい行為を要求したりしませんように。
 24のA。ここだわ。アンナは拍子抜けした。線の細い、そうね、学者さんかしら。しかも、親子連れらしかった。どっちも結構いい男。どうみても、スチュワーデスに乱暴をしそうなタイプには見えなかった。

「来たらしいな」スチュワーデスが近づいてくるのを見て、フレイドが言った。声が不自然に高かった。
「父さん、コントロールしろ、だろ」イアンがフレイドの肩に手を置いていうと、フレイドはおや、という顔で息子を見た。
「そうだ。いかん、いかん」普段の声に戻っていた。よし。フレイドが立ち上がって手荷物を取り出した。
「フレイド=ランドー様ですか?」スチュワーデスが問い掛ける。
「ああ、すまないが、機長のところに案内を頼みます」フレイドが答えた。

「高度を6000フィートまで落として。スピードも150ノットに」約2000m、時速240km。地球人はいまだに分野によってはメートル法以外の単位を使うのだ。
「了解」パイロットはプロだった。フレイドの要求に簡単に答え、すぐにスピードと高度を落とし始めていた。
「何が目的なの……?」あら、あたしったら何を言い出すのかしら。アンナが自分で言ってから思った。こういう時は犯人を刺激しそうな言動は避けるべきだと小説にも書いてあったのに。
 気持ちに余裕の出てきたイアンは、胸の前に手を重ねて不安そうに聞くアンナを観察する。どうも勘違いされているような気がした。思わずにやりとした。危害を加えるつもりがないことを納得させても、別に反撃してくる雰囲気でもなかったので、ハッチを指差して、説明した。「何もしやしませんよ。そこから出て行くだけです」だが、言ってから思った。これは、ハイド氏が頭を出しかけているのだ。
 スチュワーデスはびっくりしたようだった。がっかりしたのかもしれないな、とイアンは思った。

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 結構作者お気に入りのシーンです。アンナの天然ボケが素敵ですね。
 前の章もそうですが、作者は18禁小説は書けませんが、ライトエッチな感じは大好きです。ライトエッチといっても、方向性が二つ。
・ことに及んでいるんだけど、「やっちゃいました〜」的な軽い描写。
・なんかエッチな感じなんだけど、ことに及ばない、お子様エッチ。
 前の章は前者で、この章は後者。ここで言っておきますが、この作品、徹頭徹尾、へヴィーエッチに行くことはありませんので、期待しないでください。
 それでも期待する人に言うと、後の「お子様エッチ」の方は結構出てきますね。あはは。