(11) キト上空軌道-3
ええ、くそ、ハーヴェイめ、やりすぎだ。ノートンは感嘆しつつも、思った。これでウィルガムがこの艦の能力を上に報告したら、最前線に放り込まれるのは間違いない。望みはウィルガムがモビルスーツ戦をこんな程度のものと誤解してくれることだが、どうもさっきから感動もあらわに戦術スクリーンを眺めている。この戦果が生半可じゃないことはさすがにわかるらしい。これ以上戦闘を続けたら、また伝説ができかねない。それに、ノートンの考えが正しければ、本命の敵部隊が今にも発見されておかしくない。目の前にいるのは所詮囮のはずなのだ。
ノートンはインカムをとって機関室のサーディンに呼びかけた。サーディンはグリーンランドの機関士である。
「なんだと! こんなときにまたエンジン不調か!」ノートンはさもいらだたしげに怒鳴った。
『……! はい、申し訳ございません!』一瞬間があいたが、すぐにサーディンから応答があった。長い付き合いだ。ちょっと面白がっている風が感じられたが、応じるわけにはいかない。
「やむをえん。艦が沈められる危険は冒せない。撤退命令を出せ!」ノートンがオペレータに命令した。
同じ撤退をやるのにも、こうやって演技をしてからでないとできないとは。ノートンは心の中でウィルガムを呪った。
「やむを得ませんな。まずまずの戦果です。残りの艦とモビルスーツ隊は軌道艦隊でも叩けましょう」ウィルガムが仰せになりやがった。まずまずだと! 冗談じゃない。ノートンはまさに狙っていた印象をウィルガムに植え付けられたのがわかったが、それでも腹が立って仕方がなかった。
その時、オペレータが怒鳴った。
「味方軌道艦隊から暗号電文です! 太平洋マーシャル海域上空で、エウーゴ艦が、民間航空機をハイジャック、至急そちらに向かわれたし。繰り返します、太平洋マーシャル海域上空で、エウーゴ艦が、民間航空機をハイジャック、至急そちらに向かわれたし」
「受信確認」
ノートンは静かに言ってから、ウィルガムになんと言ってやるか考えた。追って来た隊が囮だというのは何度もウィルガムに伝えた。無視したのはウィルガムである。バカが一番手に負えないのは、自分がバカであると自覚していないときである。ウィルガムがちゃんと自覚できるようにしてやるのが、本人およびグリーンランドのためだ。そう思ってウィルガムを見ると、顔面蒼白で、手が小刻みに震えていた。何かにおびえているようである。過剰な反応ではあったが、一応わかっているようなので、残念ではあるが、ウィルガムに精神的とどめを刺すという個人的な欲求は抑えることにした。
「モビルスーツ、全機収容急げ! 収容後、太平洋上空に移動する」ノートンは一息切った。ここがポイントである。「サーディン機関長! 一時的でもかまわん、艦の出力が出るように計らえ!」
『了解、応急修理にて対応します』サーディンがしらっと機関室から応答した。
OK、これでまた艦はのっぴきならぬ事態に飛び込むわけだ。もともと艦のジェネレータは故障も何もしていない。本命艦の上に出て、宇宙に出るのを抑える位置にはつけるはずだ。問題は敵の戦力がまったくわからないことだけだった。


ノートン、大人です。僕だったら、ウィルガムに「だからおまえはあほなのだ」ぐらい言っちゃいそうですが。
次回、いよいよ<グリーンランド>VS<アーク>の予定!