ガンダムイフニ

(12) <アーク>・マーシャル上空-3

 ハーヴェイはH2の望遠カメラで、敵艦から2機のモビルスーツが発進したのを確認した。一対二で同性能の機だとしたら、勝ち目はないわけだが、どうだろうか。ハーヴェイは、敵を侮ることはまったくないが、前回の戦闘でH2と自分の相性については自信を深めていた。
「戦闘は不許可、か。だが、敵の実力を測るには、全力を出させないとな」走り高飛びという競技がある。徐々にチャレンジする高さを上げていき、すべての競技者が最後には必ず失敗する、皮肉なルールの競技だ。どこからできないかを測らなければ、どこまでできるかも、わからないのだ。

「なんだ……?」敵のモビルスーツはデータにない機体だった。だが、ブラッドにはどこか引っかかるものがあった。ミノフスキードライブ機で、妙に人間的なそのスタイルと顔。右に軽くふかし、左に戻り、極めて自然な動作で、ビームライフルをまっすぐこちらに構え……。
「うわッ」正確な射撃だった。おまけに回避方向にすでにビームの火線がまかれている。ヴィクトールの身をねじり、機体からすれすれのところにビームをとおした。教則本にはない避け方である。びりびりと機体が震えた。メガ粒子が装甲にピンホールを作ったのだろう。
「大尉! やばいです、こいつ! やりますよ!」

「避けた……!」フェイントと伏線を巧みに織り交ぜた必殺の一撃だった。それをすれすれのところで避けたのだ。相当の力量の持ち主と見てよさそうだった。同性能機が2機あっていいパイロットが乗っているとなると、まさしく無茶は禁物だ。だが、ハーヴェイは、自分の何かに火がついてしまったのを感じた。もう1機のほうの実力はまだ測っていないのだ。そいつが撃ってきた。正確だが、素直すぎる。軽くかわして、牽制の反撃をした。こっちのほうが組し易そうだが、うまい方を背中にまわすのは得策ではない。
 V2ガンダムが初めて運用されて60年。それからミノフスキードライブ技術は長年封印されてきた。モビルスーツ史上初めてのミノフスキードライブ機同士のハイスピードバトルが始まった。

 ホートラングは背中に汗が伝うのを感じた。まずい、こいつはエースだ。さっきの攻撃でブラッドは落とされたかと一瞬思った。ブラッド――認めたくはないがこっちのエースだ――の実力があればこその回避である。
「ガンダムか? こっちと同じってわけだ!」ホートラングはヴィクトールの開発にも少し携わったので、一目見てわかった。ヴィクトールも、敵の未確認機も、同じベース――V2ガンダムコピー――の機体なのだ。少なくとも同じ程度の性能だ。それは動きを見ればすぐわかる。だが、未確認機の2つの目をもつ独特のフェイスを見てホートラングは懸念を抱いた。ヴィクトールはV2の量産を狙って開発した、<カチドキ>の改良型だ。顔は単眼のGM系である。一方、未確認機は二つの目を持つガンダムフェイス。量産ではない可能性が高い。ガンダムタイプは100年以上前から特別な機体だ。特に、連邦軍にとって。ザンスカール戦争で、リガ=ミリティアはガンダムタイプを量産したが、連邦軍はガンダムタイプをプロトかエース専用機でしか生産したことはない。
 不安を振り払い、きっちり照準を取って射撃した。ガンダムは、軽々とかわし、正確な反撃をしてきた。ダミーを数体撒き散らしつつ、フル出力で大きく回避した。ブラッドの援護に回ったほうがよさそうだ。

「味方が押されています!」
「見ればわかる!」フロストは珍しくいらいらした調子で言った。明らかに判断ミスだ。1機だから2機出せば済むと思った。4人のうちのうまい方の2人を出したのだ。だが、敵の1機に押されている。初めから4機出しておくべきだった。もはや手遅れだ。戦闘空域からかなりの距離が開いてしまっている。いまさらボウトとクリスを出しても、特にクリスの実力では、戦闘空域にたどり着いたときにはすべて終わってしまった後だろう。
 艦長としては、まだまだ訓練が足りないのだ。フロストは素直に反省した。だが、あの2人が帰ってこれなくなれば、いくら反省してももはや取り返しがつかない。

「くっ、誰なんだ、こいつッ!」ブラッドはほとんど泣き叫んでいた。間違いなく、連邦軍のエース中のエースにあたってしまったのだろう。有名人は数名いるが、そのうちの誰かかもしれない。牽制の遅い弾側のビーム、本命の高速ビームが交互に飛んでくる。ビームバルカンの細かい弾が機体をかする。ビームシールドの出力が持たなくなりそうだった。直撃を食らってない自分が不思議なくらいだ。
「大尉、なんとかしてくださいよッ」
 未確認機はこっちばかり狙ってくるようだった。やけくそで何発か乱射した。

 動きがだんだんよくなってくる、とハーヴェイは思った。もう一機の方の射撃はたいしたことはない。うまい方の撃墜に専念してみた。だが、こんなにも当たらないものなのか? 私の実戦勘が鈍っていたのだろうか。おまけにたまにくる反撃はハーヴェイをひやっとさせるのに十分なところに来たりするのだ。戦術上のミスだ。もう一機を先に落としておけばよかったかもしれない。そろそろ向こうも撤収に入るだろう。敵艦はかなり離れてしまった。

「頃合だ! 撤退する!」ホートラングは撤退信号を発射した。だが、この未確認機が帰してくれるだろうか? あと数分粘られると、こちらは<アーク>に帰れなくなり、敵艦が援護に届く距離にくる。あたれ、あたれ、一発でいい、数秒相手の動きを鈍らせれば。情けないことに、ホートラングの射撃はほとんど無視されていた。ブラッドに集中しているのだ。ホートラングはいらだった。だが、そこに少し油断ができたのだろう。未確認機がいきなりこちらに意識を集中したのに気づくのが一瞬送れた。一発何気ないビームがきて、ホートラングは直撃コースに入ってしまった。死そのものが美しい光を放ちつつ、こちらに直進してきたのを見た。ビームシールドを構え、衝撃に備える。

 ブラッドには、相手のプレッシャーが重い液体に感じられた。溺れる、という感触でパニックをきたしかける。が、急に圧力が弱まった。未確認機が相手を変えて、ホートラングを狙いだしたのを感じたとき、一瞬ほっとした。次の瞬間、ホートラング機が被弾したのを見た。
「きさまーッ」
ブラッドの血は沸騰した。さっきまでの恐怖も、撤退信号も、少しの安心も、すべて一瞬にして頭から消えた。ビームを乱射しつつ、ビームサーベルを抜き放ち、未確認機に突っ込んだ。
「ちッ」ハーヴェイは相手の意外な速さに驚きつつ、ビームサーベルを構え、刃を合わせた。
「うおぉッ」ハーヴェイは押し込まれたその一瞬、若者の逆上した声を聞いた。恐怖と、若さへの羨みとが入り混じった感情を覚えつつ、敵モビルスーツに蹴りを食らわし、その隙にガンダムを後退させた。敵にもこんなやつがいるのだ。
 いつかこの相手なら、ルチアとあわせてくれるだろうか? とにかく今死ぬことにはまったく意味がない。ダミーを撒き散らして、敵に背中を向け、ミノフスキードライブをふかした。

『くッ、待てよ、この!』
「よせ、もう終わったんだ。帰るぞ」左手は吹き飛んだが、幸い本体にダメージはなかった。ホートラングは生き延びたことに感謝した。今は逆上したブラッドをアークに連れて帰ることが年長者の仕事である。残った右手を広げてブラッド機の前に立ちふさがる。「あのガンダム相手に生き延びたんだ。誇りにしていい」
「くそ! あいつッ」激しく息を切らせながら、ブラッドはどなった。相手のガンダムが自分を見逃したように感じていた。ここまでコケにされたのでは引っ込みがつかない。決着は、どこかでつけねばなるまい。

「加速度を落としたのかな」
 イアンは自室で周囲の空気から圧迫感が消えていくように感じ、体を起こした。だが、そばの簡易ベッドで寝そべるビビアンの具合の悪そうな感じは変わっていない。

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 ハーヴェイVSブラッド、まずはハーヴェイに一勝です。経験の差ですね。ってこれ以降二人の直接対決はないんです、すんません。
 戦闘シーンって難しいですよね。なかなか手に汗握るような描写って、できるもんじゃありません。やっぱりアニメはすごいです。小説だと難しいですよね。剣豪物とか、いくつか読んでみたんですが、参考になりません(そりゃそうだ)。ここのシーンは、かなりがんばったほうだと、自分では思っています。
 ていうことで、以降も戦闘シーンは少なめです。好きな人、ごめんなさいね。