(13) デブリーフィング-1
「これはこれは。すごいデザインだな」ノートンが感嘆の声をあげた。望遠でH2が捕らえた<アーク>の姿が解析されて、指揮デッキの3Dディスプレイ上に映し出されている。確かに画期的な姿である。円棒に羽がついて、ところどころくびれがついたような感じだ。モビルスーツ発進デッキも上下お構いなしに付けられている。
「スタイルが奇抜だからといって、性能が高いとはいえない」ウィルガムの発言はみなに無視された。
「見方が間違っていると思います。中は、おそらくこっちが上で」ハーヴェイはホロスコープを回転させて、棒を塔のように上に向けた。「あの加速です。1G加速を続けていれば、地球上と同じになる」
「しかし妙だな、メガ粒子砲がケツのほうを向いてますね」ピアースが素直に口にした。
ウィルガムが何かを口にしようとしたが、サトウ副長が先に発言し、さえぎった。
「これは簡単だ。戦闘に入る際に、この船は減速中なのが普通になる。戦場に向かって加速しているときは上方向に戦場を見る」サトウ副長が少し間を開けた。「戦闘に入る際には減速しておかないと、あっというまに通り過ぎてしまう。それでは意味がないから、減速しつつ、戦闘に入る。180度回頭して、敵のいる方向が下になる」
「カタパルトデッキも考えられていますね」ハーヴェイが後を継いだ。「加速中に発進する際は、真上に打ち出される。減速中は、何も考えずに、下にモビルスーツを落とすだけでいい」
「とにかく、こりゃあすごい艦です。連邦に太刀打ちできる船はありませんね」サーディン機関長が惚れ惚れとした口調で言った。
「サーディン機関長、この中ではおまえが一番戦艦のプロだ。もっと詳しく感想を言ってくれ」ノートンが引き取る。
「イェス・サー。ミノフスキードライブは既知の技術です。モビルスーツで実用化されたのは70年前ですが、戦艦サイズでは例がありません。その理由は3つあります。一つは船体の強度の問題。1G加速なんぞ加えられれば、今の連邦の船の半分はすぐぶっ壊れちまいます。二つ目はクルーの問題。進行方向を今までの艦みたいに『前』と思っていたら、加速は3時間と続けられません。体が参るし、気が狂うやつも出かねません」じろり、とウィルガムを見て続けた。「3つ目は先入観ですね。戦艦は海に浮かべる形でないとだめだとか、そういうくだらない話です。連邦のえらいさんはいまだにそう思ってるんじゃないですか。ですが、この艦はとにかく全部クリアして、2G加速を実現してます。もっといけるかもしれません。技術、発想、すべてにおいて、最高です。こちらを大きく上回っています」
「エウーゴの実力はヤマト工業とジェネラルプロダクトの実力です」サトウ副長が引き取った。「両社とも技術力には定評が前からあった。特に、民生部門。だが、軍事はそうでもなかった。どうしてこんなに急にキャッチアップできたのかな」
ハーヴェイが続ける。「それは相手のモビルスーツを見ればわかる。H2とそっくりだ。H2の量産型といってもおかしくない。先にアナハイムで開発に入ったガンダムH2の技術が、ジェネラルに流れたんだろう。モビルスーツの技術供与を受けたことで、もともと技術力の高かったヤマトとジェネラルは、一気にアナハイムに追いついた」
「サトウ副長! これからのグリーンランドの行動方針を具申しろ」ノートンは締めを促した。
「あの艦を追うべきです。敵はきわめて高い技術を持ち、こちらの鼻先から重要人物を誘拐しました。目的はわかりませんが、間違いなく危険な意図をもっているでしょう。やつらは本気です。ですが、あのタイプの艦が何隻もそろっているとは考えられない。あるなら、陽動部隊もあのタイプが出てきて、逃げ回るだけで済んだはずです。エウーゴのフラッグシップはあの艦です。現在の戦力では沈めることはできませんが、1隻しかないんです。ウサギがぴょんぴょん跳ねているのを亀が我慢強く追い回す格好になりますが、その間、ウサギは眠るわけにはいかなくなる。追うべきです」
「他に何か意見は?」ノートンが全員を見回した。特に反対意見はないようだ。一人を除いて。
「私は連邦軍本部に報告に戻らねばならない。ハーグ少将のご意志です。ですが、今後も本艦はハーグ少将の指示で動くべきだと思います。一度ハーグ少将と連絡をとって……」おどおどとウィルガムが言った。
「シャトルを手配しましょう。われわれはまだ独立第9戦隊です。別行動を取ります」ノートンが待ってましたとばかりに言った。やれやれだ。もちろん連絡などとる気は全然なかった。ミノフスキー粒子で無線が使えず、レーザー通信の同期も外れているこのうちだ。第9戦隊はドレル=ハーグの指揮下に入ってしまったが、連絡不調の場合は独自行動が認められる。わざわざ指揮を仰いで面倒にはまることはなかろう。


冷静に<アーク>を分析する<グリーンランド>スタッフたち。一人浮くウィルガム。これが書きたかったんですよ、ウィルガムの登場理由はこのシーンにすべて凝縮されます。いや、会社にいるんですよ、こういう人。きっと、どこにでもこういう人っていますよね。あんまりばかにしすぎないで、大事にしてください。ある日、突然駅で身を投げちゃうかもしれません。投げちゃったほうが世の仲良くなるかもしれませんが、あなたの心の中に一生澱になって残っちゃいます。