(2) 試練-1
朝5時に起床。2段ベッドが4つ並ぶ狭苦しい部屋に起床ラッパが鳴り響く。もう少し心臓にやさしい音を鳴らせばいいものを。ベッドの中で体の節々や筋肉のこりをほぐしながらイアンは思った。10分後には集合なので、きちんとしたストレッチなどできるはずもない。だが、これをやらなければ、今日という日が、いやな一日から、地獄の一日になってしまう。1年の経験でイアンにはわかっていた。
訓練隊7名が同じ部屋で寝起きする。2段ベッドが4つ。ひとつあまった寝床には、訓練生に与えられた装備品が置かれた。手早く身に付けていく。本来の慣習であれば、隊長であるイアンが先であるが、隊員たちは各自勝手に身支度をしていた。「おっと」わざとらしく、グラーブという上級生の隊員が着替えをするイアンに体をぶつけた。イアンは無視を決め込んだ。
まずミサだ。眠気と空腹に耐える儀式だとイアンは思っている。教官のほかに司祭がいて、延々1時間半に渡り、教典を朗読し、教義についての講話があり、主と教皇に感謝と賛美をささげ、霊の段階を踏んで高いステージに上がることの価値がくどくどと説かれ、聖戦士の殉教とヴァルハラに迎えられる名誉が何べんも繰り返され、士官候補生全員の我慢の限界が来たタイミングで朝食となる。こいつはパブロフの犬だ、とイアンは思う。主と教皇のおかげで食えるのだ、と刷り込まれていく。
食事は訓練隊ごとである。チームの成績で、食う順番が決まる。成績の悪いチームにはろくな量が残らない。以前は腹いっぱいには遠いものの、ある程度食べられた。だが、今は一日をどうにかしのぐのにも、最低限度の量しかない。それも、情けないことに、脇からかすめとられていく。グラーブなどの上級生がイアンの皿に手を出していく。今やイアンは常に空腹であった。ミサで供される<主の肉>と言われているまずいビスケットでさえ、貴重な食料である。
その後は訓練隊ごとのスケジュールで、戦術・戦略論等の座学、運動・実戦訓練などが行われた。中には爆弾の作り方などの講座もある。が、天使隊訓練生たちの生活の中心を占めているのが、<模擬戦>である。くだらない戦争ごっこだとイアンは思っていたが、結果で近い将来の配属先や、今日明日の食事や睡眠時間の長さまで変わってくるとなれば、訓練生たちも必死である。
<模擬戦>では、普通2つの訓練隊が対戦する。たまには他のチームと合同作戦をやらされる場合もあった。やり方は2つ。レーザー模擬銃を持って体を動かすものと、モビルスーツシミュレータを使ったもの。後者の方が、もちろん人気がある。特に腹をすかせた若者たちにとっては。
訓練は昼食をはさんで夕食まで続く。夕食は7時で、その後は自由時間、という建前である。だが、訓練隊ごとのフォーメーション確認などの独自訓練は、この自由時間を割くしかなかった。訓練場は限られているので、訓練隊の成績順に優先的に割り当てられた。おまけに、成績不良の訓練隊には、他の訓練隊の洗濯物などの雑事もやらされる。
自由時間なのだから、隊の訓練をやるやらないは本来は自由である。実際、メッターの隊は週に1日程度休みを設けた。だが、成績不良の隊には、そんなことは許されない。そういうムードがあった。そして、他の隊が訓練完了後の訓練場を使う。部屋に帰りつけるのは日付が変わった後になるのはあたりまえになった。
そして、部屋に戻っても、寝るだけである。翌朝も5時起床なのだ。成績不良チームの部屋の空気は重い。グラーブが隊長そこのけの大きな態度をとる。そこかしこで小突かれる。ベッドで泣くのは珍しいことではないが、ここの所頻度が多すぎた。


イアンの訓練風景です。某、私の弟から聞いた防衛大学校の生活が元になっています。ゲームのところを除けば、こんな感じらしいよ。きっつ〜。ガンダムってリアルな軍隊物、みたいな紹介されることありますが、きっと本物に比べればちゃんちゃらなんでしょね。