ガンダムイフニ

(2) 試練-2

 ビーッ! 鋭い音がコクピットに鳴り響き、イアンが隊の中の唯一の生き残りになったことを知らせた。ちっ、と舌打ちした。今回はうまくやったほうだった。前のシミュレーション訓練では、成績の悪い隊に、なんの反撃もできずに終わっていた。今回はトップの成績を誇るメッター隊相手に、3対1までもっていったのである。だが、所詮はこれまでだった。今度こそ、自分の後ろを守るものはない。ため息をついて、自分の機体をメッター機の前になげやりに差し出した。
 シミュレータのコクピットから出てきたイアンに、イグドール教官が近づいてきて、いきなり『修正』を食らわされた。殴れたのである。
「なんなんだ、そのやる気のない操縦は! 貴様、そんなことで天使隊が勤まると思っているのか!」甲高い声で罵声を浴びせられた。イアン隊のメンバーが冷ややかに眺めているのが感じられた。
 こういうときは、どう返事をしても追加で殴られるだけである。黙っていた。
「主と教皇の先鋭は、範となる態度をとらねばならんのだ! そんなことでは薄汚いスペースノイドどもにも劣るぞ! 主に全力で身をささげる覚悟のないものは、去れ! ばか者が!」
 この、くそちびハゲが。もぞもぞと、自分の脳がおかしな動きをしようとしているように感じる。落ち着けよ。今は、だめだ。
 さも、反省しているふりをして、大半を聞き流した。こんな芸ができるようになったのも、ここ1ヶ月くらいだ。
 なんでこんなことになったんだろう、とイアンはぼんやりと思った。
「隊長様よぅ、難儀だねぇ」イグドールの『指導』終了後に、グラーブがなれなれしく話し掛けてきた。イアンより頭一つ分背が大きい。ばしん、とイアンの背中を力いっぱい叩く。うめき声を出さないようにぐっとこらえた。自分の背中に赤く手の跡がついているところが想像できる。
「まあ、がんばろうぜ、なあ。なんなら、おれが代わってやったって、いいだぜ」
グラーブはだらりと開いた口にニヤニヤ笑いを浮かべている。「なあ、みんなよぅ」残りの隊員をグラーブが見渡す。3年生のドノバンが、ふん、といった笑いを浮かべたほかは、みんな視線を下に向けた。
 イアンはうんともすんとも言わなかった。無表情のままである。
 イアンの体は空腹といじめで傷ついた。心は、麻痺した。つらいとも、くやしいとも、思わない。もはや、なんとなく面倒くさく思うだけだ。どうやって終わりにしようか、考えていた。

 イアン隊は、現在のところ、最下位を巡って争っている最中である。メッター隊は一時2位に落ちたが、現在は再びトップの成績を収めている。メッター隊のエースだと自分で思っていたが、それほどたいした役割はしていなかったわけだ、とイアンは自嘲気味に思った。
 3年生のグラーブの嫌がらせは徐々に内容が悪化していた。同じく3年のドノバンもはじめは見ているだけだったが、参加するようになっていた。

前へ 次へ
トップ

ガンダムイフニ
 いじめとかの被害者にも加害者にもなったことがないので、この辺はたぶんに想像だけなんですが、まあ、何とか書けたかな。
 本当はもっと執拗で陰険な感じにしたかったんですが、あんまり物語が暗くなるのも困るし。