ガンダムイフニ

(2) 試練-5

 しばらくして、隊員の誰もが少しおかしいと感じるようになった。通常模擬戦は総当たり戦で順に行われる。だが、イアン隊の対戦相手はだんだん上位のチームばかりになってきた。また、抜き打ちの模擬戦は前からたまに行われたが、夜中にいきなりたたき起こされて戦うようなことが急に増えたのである。
「目をつけられちまったみたいだな」ドノバンが自由時間の打ち合わせで、ついに発言した。
「僕らはこんなにがんばっているのに。なぜですか」補充でやってきた新兵がいった。彼も15歳の少年に過ぎない。これは誰でも思っていたことなのだ。
「やはり、トリックプレイが教団の意思にそぐわないのではないのでしょうか。卑怯だ、正々堂々と戦え、ということではないですか?」
 サイクスがいいにくいことを口にした。教団の意思に関しての発言だけでも危険な面があるが、副隊長としての責任を果たしてのことである。
「だったら、そういえばいいんだよ。いってくれりゃ、トリックプレイは封印する。それでもおれたちは今やそこそこ戦える。そうだろう? 隊長」ドノバンも、今や隊の中心メンバーとして欠かせない。
「ドノバンの言うとおりだよ。トリックなしでも僕たちなら立派に戦えるだろう。だけど、こういう姑息なやり方でそれを僕らに伝えたいんだろうか? そんなことをガイアの指導者たちがやるだろうか?」やるだろう、とイアンは思っているが、それを口にすることはもちろんできない。彼の身が危なくなるし、士気を維持する必要があった。
「ガイアは僕らに期待している。大きな試練を与えることにより、より僕らに強くなってほしいんだと思う。これを乗り越えれば、僕らの前途は揚々たるものさ。みんなの働きには感謝する。明日が終われば1週間の定期休暇だよ。今日はもう寝よう」
 ドノバンはちょっと疑わしそうな顔をしたし、サイクスは心配そうだ。演説は十分ではなかった。だが、これ以上は教団への反逆の気配が出てきてしまう。どうしようもないとイアンは思った。

 2時間後、眠りについたばかりのイアン隊に点呼がかかった。模擬戦である。身支度をしながらドノバンがぶつぶつと毒づいていた。ドノバンの遠慮のない物言いは、調子のいいときには隊を活気づかせたが、今はまずい。だが、イアンも眠い目をこすりながらで、適当な演説などぶてそうになかった。ドノバンの肩に手を置き、目を合わせながら顔を横に振った。僕だってこれが嫌がらせだってことはわかっている。だけど、それを口にして士気を下げるわけには行かない。ドノバンは口をつぐんだ。通じたようだった。
 戸外の廃墟を使ったいつもの訓練場につき、月明かりのもと、戦闘に入ったすぐあとに、イアンは違和感を覚えた。敵は前方から素直に撃ち掛けてきた。遮蔽物は豊富なので、効果がない。あまりにもひねりのないやり方だった。前方がおとりで、側面から奇襲がくるのだろうか。そう思ってまわりに気を配った瞬間に、右後ろにプレッシャーを感じた。だが、それは2〜3人の気配ではない。前方からくる火線も、あきらかに7人程度でやっているようだ。まさか! そこまでやるのか? やつらは!
「くそっ!」思わず毒づいてしまった。「敵は2隊だ!」イアンがいった言葉が全員に理解されるのを待った。新兵がパニックになりかけている。すばやく指示を出さなくては。
「サイクス! すまないがここに残って囮をやってくれ! 2つ銃を使って前方の隊を撃ちまくれ。僕らがもう一隊を叩きに行ったのを気取られるな。ジョーンズ、君の銃をサイクスに!」のどがからからだ。ごくりとつばを飲み込んで続けた。
「サイクス! 君が考えた『ひも』を使うんだ。無駄にやられるな!」サイクスが決意に燃えているのがわかった。大丈夫だろう。前方の隊には本気で攻める気が今のところないと見た。『ひも』とは銃を据え付け、ひもを使って離れたところからトリガーを引く手だ。サイクスが考えついて以来、全員の銃のトリガーにはひもが邪魔にならないように巻きつけられている。単純だが効果的な囮になる。
「もう一隊はあっちだ。ジョーンズ、君は、あそこに」――もう一隊がいそうな方向の、遮蔽物になりそうな瓦礫を指差して――「隠れて小石を投げつづけろ。君も囮だ。精一杯敵の気を引け!」
 ジョーンズもこっくりとうなずいた。こっちは心配だ。前方に攻め気がないのだから、こっちは本気でくるはずだ。では、こちらを先に叩く。
「よし! 残りのメンバーは僕について来い! 静かに走れ! 以後会話は厳禁だ! いくぞ!」
 全力で――足音が響かない程度の全力で――右後方の敵の、さらに右側面へ回り込む位置へ移動した。この作戦に勝ち目があるとしたら、敵の油断だけだ。敵は、相手が自分たちの半分しかいないと思って、ゆっくり攻めてくることに期待するしかない。一気に攻めかかられたらおしまいだ。だが、大丈夫だろう。イアンは思った。2対1のイレギュラー戦とはいえ、敵の隊にもポイントはつくはずだ。危険を冒さず、最低限の損害で勝利の果実だけを手にしたいと2隊とも思っているはずだ。
 案の定、ジョーンズのところで、敵はまだ引っかかっていた。だが、ここで一息つくわけには行かない。しばらくすれば、敵が小石を散漫に投げるだけで、レーザーを撃ってこないことを不審に思うことは間違いなかった。
 隊員の顔を見渡した。敵の位置を把握したことを確認してから、ゆっくりと前進した。敵に気づかれずに、一歩でもそばによって、一人残らず瞬時に片付ける。だんだん近づいてきた。いいぞ……。
 ぱき、という音がすぐ後ろでした。誰かが小枝でも踏んだか? 敵の一人がこちらを向いて、顔が驚愕にゆがむのが見えた。その一瞬後、イアン隊が一斉射撃した。一発反撃が来て、一人やられたが、敵も全員ゲームオーバーとなった。
「申し訳ありません、へまをしました」隊の若い少年が一段落した後、謝った。正直と反省する気持ちは誉めてやるべきだ。だか、時間はかけられない。後丸々一隊残っているのである。「気にするな」簡単にしかいってやれなかった。
 疲れた体に鞭を打ち、残りの隊の後方まで再び走り、なんとか始末した。終わった後、疲れ果てていたが、過酷な試練を乗り切った喜びで隊員は歓声を上げた。

 そして、その15分後から、再び模擬戦が始められた。しかも、また相手は2隊だった。あきらめムードが隊員の中には漂った。イアンも投げ出したかったが、サイクスが必死にみんなを説いたので、一計を案じた。今度は二隊とも攻めかかってくる気配だったので、真中に『ひも』の銃を2丁残して、脇に伏せた。狙いどおり敵二隊は同士討ちの格好となり、残敵を叩くだけで済んだ。
 夜中の抜き打ちで、2対1の模擬戦を2連続でこなして勝利したのである。だが、もはや隊員にも喜びはなく、イアンも疲れて口もきけない状態になった。
ありがたいことに、三度目の相手はたった一隊だった。主よ、感謝します、とイアンは皮肉たっぷりに思った。メッター隊だった。
 ――おれが全部片付けてやるぜ。おまえは引っ込んでろ。おれならやれる。そうなれば、天使隊の伝説だよ。
 蠱惑的、といっていいほどの魅力ある提案だった。意識を失い、疲れを忘れられる。しかも、勝利を手にできるのだ。だめだ、コントロールしろ。完全に制御を渡すわけにはいかない。もう二度と元の僕に戻れないかもしれない。
 イアン隊は15分とたたずに手もなく全滅させられた。だが、イアンには満足感があった。とにかく、ハイドは退けたのだ。
 四度目はなかった。朝のミサの時間が来たのである。

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 再び追い詰められていくイアンです。(7)への伏線になります。
 イアンがイグドールから見てどう見えるかというと、卑怯なやつ、です。イグドールには、ルールの隙を突くイアンの頭のよさは、不愉快なものです。イアンをそういう発想にいたる境遇へ追い込んでいるのが、当の自分であることには思いもよりません。
 自分の後輩が自分より優秀な成績を上げたとしたら。それも、自分には思いもよらないような方法で、です。それを、卑怯だ、と思ってしまったら、イグドールと同じ、狭隘な人格です。そうならないように、注意しよう・・・(自分に言い聞かせてます)。