(6) <グリーンランド>-2
暗黒の中に、まぶしく光るコロニー<フロリダ>。ハーヴェイ隊は最前線で、フロリダ反乱軍のモビルスーツ隊と火線を交えた。フロリダのモビルスーツ隊は旧式に見えたが、動きはよかった。チューンされていたのだろうが、それよりも練度と勇気で連邦軍に優っていたのである。連邦軍側は初陣のパイロットが多い中で、自然とハーヴェイ隊が前線へ押し出され、孤軍奮闘する格好となってしまった。味方が次々と撃墜されるなかで、ハーヴェイは神がかり的な働きを見せ、生き残った。
だが、自分の隊の機まで守り切れはしない。そして、その瞬間、見てしまった。ルチア機を、ビームが陵辱するかのように、貫いていた。そこには、死神のマークをつけたモビルスーツ。死神ハロルドとあだ名された、<フロリダ>のエースパイロット。
ルチア。だが、最愛の女性を失ったことに涙を流している余裕はなかった。"死神"の機体を追う。だが、"死神"は巧妙に逃げ回り、そして、ルチアの声を聞いた。あの男は、重要ではない。戦いを勝利に導くなら、"死神"はおいておくのだ、と。
全天視界モニターが敵だらけになり、文字通りビームをかいくぐる中で、ハーヴェイは不思議な感覚を覚えた。敵モビルスーツ隊の中心点を感じたのである。そこにいたモビルスーツ撃ちぬいた数秒後に、敵部隊は総崩れとなっていた。なぜあの時、あの距離のモビルスーツを狙撃するような技ができたのかはわからない。だが、ハーヴェイは思っている。ルチアが指し示していたと。ルチアが言うとおりに撃ったのだ。
ハーヴェイの透視力は、そのとき味方にも働いていた。右後方でこちらの戦い振りを眺め、最小限の被害で最大限の戦果を上げようと機会をうかがう部隊。存在を感知し、ハーヴェイはコクピットの中で意味もなくわめいた。なぜだ、と。
結局、敵が総崩れになった後にその部隊は前進を始め、戦火をほとんど交えないまま、<フロリダ>を占拠した。死神ハロルドの機体は、早々と姿を消していた。
戦闘中にフロリダ所属のモビルスーツを13機落とし、動乱終了後、フロリダの大統領は銃殺刑となり、他の指導者たちも終身刑になった。もっとも死神ハロルドは、行方不明である。
敵のパイロットやスタッフたちを恨む感情はない。むしろ、あの時は賛嘆の念を禁じえなかったものである。あまりにも少ない人的・物的資源をフル活用して、巨人地球連邦の圧政に立ち向かった姿勢は、立派だったと思う。
無駄に戦いを長引かせ、両軍の犠牲者を増やし、資源を浪費させ、そして、ルチアを宇宙にさまよう存在としたのは、あのときのドレル戦隊の躊躇であった。
「ふふん、よっぽど恨んでるらしいな。フロリダの一件か」
ノートンは興味深そうな表情をした。半分疑問形である。横に座っているフローリアがちょっと動揺しているようだ。
単に典型的な豪放磊落型の指揮官と思っていた。だが今は、こちらの表情を読むような意外な面を見せていた。また、フロリダの件を口に出したところを見ると、下調べも万全のようだ。彼がここに呼ばれたのは1ヶ月前だが、単に定期異動の時期だっただけだ。あなどれないな、という思いと、思った以上にいい艦に来たようだ、という満足感が交錯した。<ラムセス>の件は、やはり偶然ではなかったらしい。
「ま、いいたくなければ今はいい。気が向いたら話してくれ。では今後のことを話す」あっさり興味を失ったようにノートンがいった。細かい気配りもできるらしい。
「まず、ハーヴェイ、君は少佐になった。フローリア中尉もおめでとう」
しばらく、あっけにとられてノートンのがっしりしたあごを呆然と見つめた後、やっと「ありがとうございます」と口にした。この艦にきてからずっとこの調子でやられっぱなしだな、と思った。ノートンが手を伸ばしてきたので握手した。がっちりした手である。痩せ型ではないが、怠けていないことが手から伝わってくる。
「これから、ツインローズ=5に接触し、ヴィガン5機と、新型1機を受領する。その後、機密だから詳細は言えんが、特別任務にあたることになる。まあ、お偉いさんの指揮下に入るというのも、一長一短ってことだな」にやにやしながら、ノートンが言った。「おまけに、そばにいれば、でぶの鼻っ面を明かしてやる機会もあるかもな。なあ?」にやにやは、凄みのある笑い顔に変わっていた。
苦笑を浮かべながらも、ハーヴェイはノートンへの評価を上げた。たいした艦長である。
「ああ、それと、ハーヴェイ、君が少佐になったんで、副長に代わって君がこの<グリーンランド>の副指揮官だからな。あとは頼んだ」
本当にこのノートンという男は食えないやつだ、とハーヴェイは絶句した。ノートンはにやにや笑いに戻っていた。


ここも、今読むと後悔だらけだなあ・・・(汗)。
まず、ルチア。フローリアとの間で、ハーヴェイが逡巡しっぱなしな予定だったんですが、全然存在感が薄くなってしまいました。
あとは、”死神”ですね・・・。ええい、ばらしちゃおう、ここは拾い切れなかった伏線です。死神の正体はサンターナなんですが、結局本文中でそのことは明らかにされません。だってさ、結局、ハーヴェイVSサンターナが実現するのが、最後に近くて、もうみんな忘れちゃってるよ〜ってとこだったんですよ。こりゃむりだっぺ、ってことで。
ああ、日々精進だねえ。