ガンダムイフニ

(7) 里帰り-1

 イアンは、父親のフレイド=ランドーとサンティアゴの雑踏を歩いていた。1週間の休暇で、里帰りしたのである。イアンは、サンティアゴがあまり好きではない。チチカカのような高地と違って、外出するのにわずらわしい格好をしなければならない。紫外線よけフェイスクリームに大きな帽子、サングラス、それに簡易的に大気汚染を除去するマスク。旧世紀の人間が見たら、芸能人が大げさに変装をしているかのように思うだろう。
「私は宇宙に戻る。おまえはどうする?」雑踏のまんなかで、父のフレイドは息子のイアンに向かって、唐突に口にした。
「え? ……そらへ?」
 暗黒の宇宙。きらめく星。太陽の光をまぶしく反射して白く光るコロニー。母。……
 声が大きい、という顔をフレイドがした。
「地球は腐っているし、ガイア教団も暴走し始めた。私は必要な技術を手にした。もはや地球にいる理由はないんだ」フレイドは歩きつづけながら、ぼそぼそとしゃべった。「だが、おまえにはおまえの考えがあるだろう。まかせるよ」
 フレイドは、決していい父親とはいえない。研究者バカであり、子供に割く時間は短かった。だが、方針は徹底していた。ガイアは信じるな、自分を信じろ。そして、フレイドはほんの子供のときからイアンを一人前として扱った。
 やせていて童顔で、いたずらっぽい笑顔がベースになったような顔である。
「考えさせてよ」
 宇宙か! 正直、心が躍った。やはり自分はガイアの子ではなく、薄汚いスペースノイドだったのだろうか。宇宙へいけることがこんなに魅力的だとは、今の今まで気がつかなかった。しかし、天使隊の生活もある。メッターのアドバイスで、隊の状況は改善して、連帯感が生まれていた。上層部のいやがらせは気になるが。このままうまくやれれば、確かに教団での将来は赫赫たるものである。そして、何より、メッターとラキーナを置いて、宇宙へいっていいものだろうか。
「2週間後に、私はハノイへ行く。もし宇宙に出るなら、同行すればいい。連絡はするな。盗聴される。家の中でも、この話はできない。自分でゆっくり考えるんだ」父親の童顔がちょっと真剣な表情になった。
「わかった」家に盗聴が入っているのか。外で歩きながらの方が逆に安全という判断があって、今この話をしたのだろう。父さんはただ宇宙に行くのではない。ガイアの手から逃げるのだ。思ったより、事態は切迫しているようだった。
「大気汚染は激烈だ。低地の戸外ではマスクをつけなくては、すぐに肺がんになってしまう。それに、100年前には、こんな帽子も必要なかった。オゾン層が破壊され、紫外線が多くなり、幼児が裸で一日直射日光にさらされると、場合によっては死んでしまうほどになった」
 フレイドは急に話を変えて、まるで講義をするような口調で淡々と語った。
「海辺や低地は以前は人の活動の中心だったが、汚染され尽くして住むのに適さなくなった。海水も川も毒と一緒だ。南アメリカの北東部には広大な森林が広がっていたが、今や砂漠も同然さ」地球に住む人間にとっては、常識である。父さんは何を僕に伝えようというのか?
「私は、地球をまともにしたかった。自分の研究でね。今もあきらめていない。だが、それは地球にいてはできないのだ。それがこの10年間で得た結論だよ。おまえにも、宇宙へ来てほしい。私の仕事を手伝ってくれないか」
 回りくどかったが、父さんは僕にいっしょにこい、と伝えようとした。適切なアドバイスは常にくれる父ではあったが、イアンに要請をかけるのは珍しい。父さんが僕のことを考えていてくれる、その感覚は、心地よいものであった。
「よくわかったよ。……よく考えるから。約束するよ」イアンは父のひじをつかんで、いった。

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ガンダムイフニ
 イアンのお父さん、フレイドの初登場、です。言及はされていましたけどね。彼については、べたなパターンを踏んで、優秀な研究者です。ただし、モビルスーツ関係ではなく、ナノマシン工学の超スペシャリストという設定です。あああ。本当は、もっと私の実の父親に近い名前だったんですが、直前に差し替えました。
 地球環境の悪化、という意味で、このガンダムUC0215の厳密なモデルはありません。ナウシカなんかはかなり参考にしているんですが、リアルに迫ってこないんですよね。
 ただ、ひとつ思うのは、こういう人類と地球環境の行ってしまいかたって、どうも私の経験からしてありえないような気がします。生まれ故郷のどぶ川、小学生の頃はホントにどぶ川で、流れが急なところでは、洗剤がシャボンになって沸き立ってましたもん。
 今見ると、洗剤のあぶくなんてないし、鯉が悠々と泳いでいたりします。消費者団体だの、環境保護団体関係の人は、俺の成果だ!みたいなことを言いたいのかもしれないですが、最終的には、企業努力が環境を向上させている、と私は思います。
 市場経済が、環境に悪い製品と企業を駆逐していく。そうじゃないと長続きしないし、誰にも幸福をもたらさないと思うんです。だから、個人的に、環境保護団体の人、私は嫌いです。ちゃんと企業に勤めて、その中で環境保護に気を使う人のほうが、数万倍もきっと社会に役立ってます。
 次の次の小説あたりで、この辺書きたいな〜なんて。