ガンダムイフニ

(9) <グリーンランド>出撃-1

 ノートンはマナーに無頓着らしかった。ひさびさの本物のステーキをバリバリとむさぼっていた。ハーヴェイはきれいに食べていたが、ああいう豪快なのもいいなと思った。多少マナーがどうあれ、うまそうに食っているから、周りには好印象を与えている。だが、ツインローズ=5を出港し、士官会食に初めて同席したウィルガム中佐はいやそうな顔をしていた。
 派手にげっぷをした後、ノートンはウィルガムに言った。「いや、うまかった。で、ぼちぼち次の任務の内容をご説明をいただけるんでしょうな。地球上空でエウーゴ艦隊と戦闘すればよろしいか?」
 ウィルガムの顔の変化は見ものであった。ふっくらとした顔から、常時張り付いていた微笑が消えた。そして、驚きから疑いへ。
「そ、それは……? そう思われる理由を伺いたいですな。艦長」認めてしまっているようなものだった。
 いかにもばかばかしいというアクションの後、ノートンは言った。
「月からエウーゴと思われる艦隊が地球に向かっているのが観測された、という情報がある筋から流れてます。こいつを阻むのに、ドレル少将は手元の戦力を使いたくない。で、ひまそうにしていたグリーンランドにお声がかかったんでしょう」いったん切って、肩をすくめてから続けた。「おかげでまともな戦力を手にできて、少将には感謝してもしきれませんよ」
 驚いたことに、ウィルガムは皮肉と思わなかったようだ。ハーヴェイは、ウィルガムという人間の評価を固めた。理性も感受性も鈍い。「ドレル少将はグリーンランドを高く評価されております。光栄に思ってください」薄くなった金髪の毛を横に撫で付けてフォローしている。ドレルとローランドの腹心といううわさだ。いや、コバンザメといったほうが適当ではないか?
 ウィルガムは、これから任務に向かうグリーンランドに『軍事アドバイザー』という名目で乗り込むことになっていた。実際ウィルガムに実戦経験はなく、アドバイザーもなにもない。ドレルから派遣されたお目付け役であることは明らかだった。
 ガンダムH2は確かにいい戦力だ。ハーヴェイはテストしてみて、すぐ気に入った。ミノフスキードライブの加速力はすばらしいし、ヴェスバーの破壊力もだ。隊員に支給されたヴィガンもまずまずの能力だった。抱き合わせでウィルガムが乗り込んできた。艦長と同じ中佐の階級。そして、任務の内容を指示する暗号メールの解除コードを唯一知っていて、中身は直前まで艦長にも伝えない。おまけに指揮系統にも口出しをし、グリーンランドに混乱を巻き起こしだしていた。いない方がいい人間というのがいたら、これだ。
「グリーンランドが地球に向かうというのは極秘です。クルーには内密に願いますよ」いかにも秘密めかし、もったいぶってウィルガムが口にした。乗組員の全員が推測している事実だった。この会食で同席した士官とパイロットの決定的な軽蔑をウィルガムは得たわけだった。

 下部デッキで宇宙を眺め、ハーヴェイはリラックスしていた。会食での不愉快さを忘れるのに必要な儀式である。それに、明日にも戦闘になる可能性があった。
 一般的に、宇宙戦艦にはリラクゼーションエリアがあって、だいたい森の光景が再現されていた。ストレスを感じたスタッフが来て、ピクニック気分を味わう。だが、ハーヴェイはフォログラフィーで作成された光景ではリラックスできなかった。艦で見る事のできる自然の光景は、宇宙しかなかった。それに、宇宙にはルチアの魂が漂っていると思える。
 闇の中に、星々が散らばる。地球で見る星空と違い(もっとも地球では星空など見えない地域のほうが多かったが)、星はまたたかない。
 ハーヴェイを探しに来たフローリアは例によって下部デッキでハーヴェイを見つけ、どうしてこんなところで彼が気持ちをほぐせるのかいつものとおり不思議に思った。宇宙は人を拒絶する空間である。真空、宇宙線、そして、暗黒。初期世代モビルスーツの全天視界コクピットは宇宙をそのまま表示していたという。結果、方向感覚を失って撃墜されたり、下に向かって落ちつづける感覚に陥って気が狂うパイロットが続出した。宇宙世紀100年以降は、すべてのモビルスーツで宇宙は青く表現された。暗黒は、人に悪影響を及ぼす。
 ハーヴェイは、心を落ち着かせるときには、宇宙と闇に対面した。今日もそうだ。心配になってそっと近づいた。

 フローリアが後ろにいた。自分の宇宙を眺めるくせは、周りからは正常とは思われないようだ、とハーヴェイは心の中で苦笑した。フローリアもそう考えているようである。
 ここは無重力エリアである。窓に手をつき、後ろを振り向いた。フローリアを見てにっこりと笑う。笑いは心が健全であるサインだ。「どうした、フローリア中尉?」体をフローリアの方へゆっくりと流した。

 大丈夫なようだった。フローリアもにっこりとした。これから、ハーヴェイの部屋へ行って、愛をかわそう。闇に向き合う男の暗い情念を私の体で受け止めよう。吐き出された情念が私の中で新しい生命となって芽吹いたときは、暗黒色の葉を茂らせるかもしれないが、そうでもしないとこの男は狂ってしまうだろう。ハーヴェイの力は、人の命を救う。5年前、フロリダ=コロニーでその力を発揮した。狂わせるわけにはいかないのだ。それに、私はこの男を愛してしまった。

 フローリアは、いつものとおり素敵だった。黒い髪を振り乱して、愛情行為に没頭した。だが、ハーヴェイはいつものとおり、もだえるフローリアの裸体の向こうに宇宙を見た。絶頂のとき、自分のどず黒い部分を、宇宙に向かって吐き出した気分だった。
 フローリアもいつものとおり、オルガスムの瞬間に、自分の体が宇宙になった気がした。ハーヴェイの前につきあった男たちと比べて、ハーヴェイは抜群に良かった。ごくまれに、ハーヴェイがセックスの最中に、どこを見ているのかわからない感覚を覚えることもあった。だが、いつも快感の波にそんな感触は押し流されてしまうのだった。

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 豪快、かつ内に繊細な感性を秘めたノートン、心のうちに闇を秘めたハーヴェイ、それに情熱的なフローリア、と、連邦正規軍ながらはみ出し者軍団<グリーンランド>の面々再登場です。とくに、フローリアについては、いままで一切触れられていなかったので、こんな素敵な人がハーヴェイの恋人ですってことで、我慢してください(・・・)。
 この作品全般に言えることだと思うんですが、書くの初めてなんで、力みすぎなんですよね。<グリーンランド>の人物+α程度で、普通の小説一個かけてしまうくらい、それなりに個性のある人物が出てきてしまいます。特に、ウィルゲムは我ながら、傑作なんですが、あっさりと退場しちゃいます。こういう人物を残しとかないと、小説の最後に立派な人だらけになっちゃいますからね。反省。
 まあ、思うんですよ。これから、いくつかネタあって、小説書きたいんですけど、きっとこのガンダムUC0215に出てきた誰かが、別の舞台で生まれ変わるんだろうなって。それならそれで、意味はあるのかな、と。