(9) <グリーンランド>出撃-2
「なめられたものですね。こんなまっすぐなコースをとって地球に向かうとは」サトウ副長が感想を口にした。ウィルガムがありがたくも教えてくれたターゲットになるエウーゴ艦隊の動きが、3Dディスプレイに表示されている。
戦艦3隻らしいという情報だった。味方の地球連邦軍の艦はグリーンランドだけである。新型モビルスーツが入ったからといっても、まともに相手をすれば艦を沈められるかもしれないし、モビルスーツを何機か失うのは間違いない。だが、ウィルガムはこれを断固として阻止するつもりらしかった。「どうします?」言外にいろんな意味が入った質問である。
「囮だな、これは。動きがストレートすぎる。軍事アドバイザー様の耳にも、入れておこう」ノートンが言った。
サトウは感嘆のため息を吐いて、改めて3Dディスプレイを確認した。確かにそうに違いなかった。過去の戦争のごみや、空域に散布されたミノフスキー粒子のおかげで地球圏のレーダーはあまり信用できない。本命のエウーゴの艦がステルスとなって潜んでいるに違いない。
ノートンは考えを進めた。これが囮だとしても、本命がどこにいるかはわからない。意見を言ってもウィルガムは本部の命令だけをやろうとするだろう。しかし、囮と正面からあたって戦力を消耗するのはばかばかしい。
「グリーンランドはエンジンが不調なのだ」大まじめな口調でノートンは口にした。
サトウはにやりとして、返した。「正面に出るのには間に合いませんね」
「そのとおり。地球の戦力に出てもらう必要が出てしまうな。はなはだ遺憾ではあるが」あくまでまじめな顔でノートンが言った。
「どうしてエンジンが不調になったのです?」吹き出しそうになるのを抑えつつ、ノートンに調子を合わせてサトウもまじめな口調で言った。
「反乱分子が艦内に巧妙に隠れて、破壊工作を行っているらしい」それは不穏な設定だ、とノートンの言葉を聞いたサトウは思う。さすがにクルー全員で口裏を合わせることはできない。実際にそういううわさを流すことになれば、クルー同士が動揺しかねなかった。本当にまじめな口調でサトウは聞いた。「いったい誰が犯人なんです?」
「これまで本艦にそのような工作が行われたことはない。となれば、最近乗り込んできた人物が疑わしいだろうな」
サトウはついに吹き出してしまった。ウィルガムの秘書ということで二人乗り込んできていた。実際はウィルガムの手足となるスパイ役であろう。その動きを封じるという意味でも、いいアイディアだった。
「まあ、確証はないがな」
これで、艦の中での動きは概要が定まった。次は、エウーゴ艦隊にどう対応するのか、きっちり決めておく必要がある。正面からあたらないのは決まっている。
「この後、どこを目指して動きますか?」サトウは聞いた。これでも最初の質問に比べれば、かなり絞られた質問だ。エウーゴ艦隊の後を追っかければ、間違いなく戦闘には入れないだろう。グリーンランドとエウーゴ艦のスピードに大差はなく、慌てて展開された連邦軍と、エウーゴ艦の戦闘がとうの昔に終わったところで戦場にたどり着くはずである。ましてや、今回はエンジン不調をよそおうのだから、全速で後を追いかけるわけには行かないはずだ。しかも囮で出てきた艦が、いつまでも戦場に踏みとどまるはずはない。
「キト上空を防衛できる位置へ向かう」簡単にノートンは言った。キトでなにやら怪しげな大規模建設が行われているのは公然の秘密であった。そこを狙うと読んだのである。連邦の首都テヘランなど、他にもターゲットになりそうなところはあったが、キトを選んだ根拠は説明しなかった。たとえ勘が根拠だろうと、艦長が決断を下したのだから、サトウにとってはどうでもいいことである。
「では、詳細なプランをまとめてくれ。後ほど報告頼む」ノートンが言って、席を立った。
ノートンとサトウがコンビを組んで3年ほどたつ。サトウが質問し、回答の形でノートンがアイディアをまとめ、詳細はサトウがつめるという役割分担は、当初から変わらない。早速サトウは頭の中で、大雑把な方針を具体的な行動や命令に因数分解していく。機関士のサーディン中尉との口裏あわせが必要だ。うわさを流すには、話し好きで陽気なピアースの協力がいるだろう……。


今度は、豪快な船長ノートンのアイディアを、誠実にこなしていくプロ、サトウ副長の登場です。いや〜、<グリーンランド>、つくづく有能な人がそろってます。ほんとに、なんでこっちに主役を乗せなかったんだろう・・・ってネタばれです。
日本人名の人は何人か出てきますが、ほとんどがヤマト工業関係の人ばかりで、他はサトウ副長のほかいないような気がします。サトウ副長も、もっとふくらませられたらな〜って思える人物です。あ〜でももう詰め込みすぎ。別の作品で、違う名前で甦るでしょう、彼も。