ガンダムイフニ

(12) <ヘスティア>包囲-3

 ごみ領域から船のサイズの光が出てきた。あれに間違いない。減速しながらハーヴェイはターゲットを絞ろうとしたが、H2のヴェスバーといえど、まだ射程外である。その光から、また小さな光が分かれた。蜘蛛が子供を産むかのようである。モビルスーツが出たようだ。こちらが気づかれたのか、あるいはごみ領域から出ればどうせ見つかると踏んでモビルスーツを出したのか。どちらにせよ、ミノフスキードライブ機が近づけばレーダーの効きが急激に悪くなるので何かがあったのはすぐわかるはずである。簡単には行きそうにないな、と覚悟した。案の定、モビルスーツと見られる光はこちらをマークするように遠まわしに動く。

「どこから出てきたのか?」「ギニア外の空域からのようです」
 予想に反して、敵と思われるモビルスーツが早いタイミングで出現してきたことに、キニケンは焦りを覚えた。出てきた方向も予想外である。そして、接近してくるスピードも。<アイガイオーン>4機を迎撃に出す。残る直援は2機で、さらに、エースのマリリーとパットは外出中だ。
「パットかマリリーから連絡は?」ないのをわかっていて、キニケンはオペレータに聞いた。脂汗が額ににじむ。

「たかが一機、蹴散らしてくれる!」ディリーナはアイガイオーンのコクピットでいきまいていた。だが、操縦はその言葉とは裏腹に慎重である。一気に近づかず、残りの3機を待った。
「自分で落とそうと思うな、4機で落とす。いいな」通信に乗った言葉はさらに慎重であった。接近スピードから見て、最新鋭機だろう。アイガイオーンもすばらしいマシンだが、機種不明機に突っ込むのは単なるばか者だ。ディリーナの顔がくっと引き締まった。痩せ型で酷薄そうな感じもするが、美形には違いない。
 出撃した時には、パットとマリリーからまだ連絡はなかった。パットなどいざというときには役に立たない。男などそんなものだ。私がマリリーのところに派遣されるべきだったのだ。マリリーが死にでもしたら、私がパットを殺す。ディリーナはガイアの教えに忠実だった。男は未だかつて寄せ付けたことがない。幸いにしてその手の技術が要される任務にもついたことがない。男の代わりにマリリーと付き合った。マリリーはその点柔軟であった。マリリーを独占できない点はつらくもあったが、それでもマリリーへの愛情は薄れはしなかった。
 とにかく、ここで私ががんばらねば、マリリーが帰ってくるところがなくなる。こちらの戦力は限られているのだ。消耗は避けて最大の戦果を上げねばならない。

「とぅるるるるるる、とぅるるるるるる……」停止したイフニのコクピットの中で、イアンは旧式の電話機のベルがなるような音を口で立てていた。目線は下のほうに落ちて動かない。目線の先には他のモビルスーツに比べるとコンパクトにまとまったインフォメーションパネルがある。だが、それを見つめているわけでもないのは明らかだった。
 パネルの端が点滅し、通信が入っていることを知らせようとしている。
 イアンの視線に、その点滅が捕らえられた。「つーっ、つーっ」イアンの口から出る音は、電話が切れた音に変わった。リズムはパネルの端の点滅に合わせられている。ちょっと楽しげである。

「イアン、イフニが無事なのはわかっているんだ。出てくれ!」
 フレイドがうめくようにコンソールに向かって語る。
「さあ、ここは撤退です。ランチが来てます。アークに行きましょう」ドースン技師長がフレイドの肩に手を置いて、やさしく言った。「あなたの身はあなただけのものではない。そのことはわかっておいでのはずです。さあ、急いで」
 フレイドは聞き分けよくコンソールを離れた。息子が気がかりだ。さっきの様子はただ事ではなかった。アークで船医のラブ先生とした会話を思い出した。強化人間。情緒的にさまざまな問題を引き起こすという。「そんなことあるわけがない……」私が信じなければ、誰が息子を信じてやれるのか。

「ほう、速いな」ハーヴェイは意外に思った。丸みを帯び大型で鈍重そうなその機体はチームワークを発揮し、かつかなりの加速/減速を繰り返し、巧みにごみに身を隠しながら、こちらに迫ってきていた。だが、どこかに自信のなさも感じられる。それは、実際に死線をくぐったことのある人間にしか語れない感覚だ。フェイントを織り交ぜつつ、囲みの外側に出る動きをする。まだ射撃をする距離ではない。そう思った矢先に相手の一機が辛抱しきれずに撃ってきた。回避運動をするまでもない。
「おやおや、それでその機体の性能のすべてを見せて貰えるのか?」ふ、と笑った。余裕である。
 それより気になるのは敵艦の目的のほうである。動き出して、どうしようというのか。姿をあらわしてまでどこに向かうのか。私が敵艦の艦長ならば――という考え方は、ここでは通用しない。敵はまっとうな軍人ではないからだ。いきなり民間人に向かってメガ粒子砲をぶっ放す連中である。狂人の思考法をしろといっても、それは土台無理な話で、時間の無駄だ。特に数キロメートル向こうに敵のモビルスーツがいて、ビームをこちらに向かって撃って来ている――まあ、狙っているつもりなのだろう――場合は。ならば、ここは単にやつらは民間人を殺すのは何ともない、ということだけを前提に、何をすれば彼らは生き残りの可能性を高められるのか、考えよう。すぐわかった。コロニー一基、もしくは複数を丸ごと人質にする。そして交渉の材料にするのだ。吐き気を催す下種な連中である。この爆撃されているコロニーの住民には申し訳ないが、ここから移動させるわけには行かない。このレベルの相手なら、何とか食い止められるだろう。さっきから動きのパターンは単純である。例の、どっちの方向が下か仮に決めて動く、魂を重力にしばられている動きだった。

「こいつ、まじめにやってんのかッ」
 ディリーナは絶叫した。アイガイオーンのデータベースに、相手の機種は登録済みだった。ガンダムH2、というらしい。連邦正規軍の最新型モビルスーツ。総合能力はアイガイオーンと互角。
 ガンダムはぼんやりと考え事をしながら、それでもこちらの放ったビームを的確にかわしつづけている。そんなふうに見えた。その動きはディリーナの癇に障った。その時、ディリーナの隣にいたアイガイオーンが、直撃を受ける。一発は、Iフィールドで防いだが、一瞬間があって、立て続けに二発のビームに貫かれた。
「なんだって……?」見えてなかった。自分がターゲットになっていたら、落とされるまでわからなかっただろう。あるいは落とされたことさえ気づかないままヴァルハラへ旅立ったかもしれない。
「まずい、いったん距離を取れ!」
 こっちだってミノフスキードライブ機だ。単に逃げるだけならそれなりに速い。艦の砲撃と、残り2機のモビルスーツの戦力なくして、戦える相手ではなかった。

「Iフィールド装備だと? テロリストにしては手の混んだモビルスーツだな。しかし……」
 ハーヴェイはいきなり撤収をはじめた敵モビルスーツをみて、ますます唾棄すべき連中だと思った。とはいえ、あの機種不明の高性能マシンに戦艦の戦力まで加わるとなると、そうそう一人で全部相手できるものでもない。ここは敵艦の周りをうろつき、前進の邪魔をしつつ、フローリアたちを待つぐらいしかできない。フローリアが来るまで、5分くらいかかるだろう。これは長い。先に、軌道上で戦った、あの若者が出てくるかもしれない。彼の目の前にこのH2の姿を見せれば、彼は連中を放ってこちらに挑みかかってきそうな気がした。となれば、今は一歩引くべきだ。すでにかなり遠くに逃げ去った重モビルスーツに向かって、当たらないとは思ったが牽制射撃を行って、自らはごみ領域に身を沈める。

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 戦いはあくまで格調高く・・・がモットー? の、ハーヴェイ単騎がけです。何度も言っちゃいますが、モビルスーツ戦闘って書くの難しい・・・。