ガンダムイフニ

(13) レスキュー-1

「外壁列車は使えないって? 歩くしかないのか」
 リンカーは他の生徒たちと避難所のコンソールを確認して、がっくりきていた。
ここを襲った敵は撃滅された。ここの避難所の空気はあと1日は持つ。だが、座って待っていても助けは来ない。この7番地には、同じような避難所が五千もあるのだ。そして、そのうちの千は砲撃により地下通路が壊されたおかげで、歩いて港に行くこともできない。コロニー公社とエウーゴが全力を挙げて救出活動を行っているが、この千の孤立した避難所に対してでさえ、すべてには手が回らない。ましてや、歩いていける避難所に対して何かできるわけはない。
 本来であれば、この学校は外壁列車の駅まで200mのところである。そこまで地下通路をたどっていけば、外壁列車が港まで運んでくれたはずだ。だが、列車のラインはめちゃめちゃに砲撃され、動かせない。港までの約8kmの避難用の地下道を、歩くしかなかった。
「フレデリカ、行こう。2時間も歩けば、つくよ。がんばろう」
 リンカーは座り込んでいたフレデリカの手を取って立ち上がらせ、軽くキスしたあと、手をつないで避難所の奥の地下通路へと進んでいった。薄暗く、すれ違うことも困難なほどの狭い通路。避難所に据え付けられていた懐中電灯を前方に向ける。
 そうさ、これでも運が良かったほうだ。ビームの直撃を受けて、自分が死んだって気づかないうちに体が蒸発しちまった奴もいるだろうし、穴から吸い出されて宇宙空間に投げ出された奴も多いだろう。孤立した避難所に行ってしまった奴は、救援がくることを祈りながら、窒息を待つことになる。

 セティアは冷たくなっていくビルの体を呆然と抱いていた。もはや涙も出ない。死ぬ間際にビルは、セティアのことを自分の母親だと思って、うわごとを繰り返した。セティアは、ビルの母親を演じ、手を握ってやさしく語りかけた。泣きながら、笑いかけた。
 ビルの魂は、天国へ行っただろうか。もし、私が生き延びられたら、必ず、ビルの本当の母親に会いに行こう。ビルの体を横たえ、自分の上着をかけてやった。私が生き延びなければ、ビルのことは誰にも伝えられない。生き延びなくてはならない。
 避難所のコンソールは孤立していた。ウェブにつながらない。
 外の気圧は0.1となり、もはや人が呼吸できる状態ではない。地下通路のほうはもっとひどい。0になっている。ここに閉じ込められたのだ。
 さらに悪いことに、電気も来ていなかった。避難所への空気の供給はバッテリー頼みである。避難所には酸素が大量に蓄えられているわけではない。人が吐いた二酸化炭素を炭素と酸素に分解し、再び供給する仕掛けである。電力がなくなった時点で、ストックされた酸素を提供する。そのあとは、二酸化炭素中毒で死ぬ。
 考えただけで、息苦しくなったような気がした。ここはかなりぎゅうぎゅう詰めだが、6時間は持つはずだ。その間に救援がくるだろうか? 孤立した避難所がここだけなら、あと5分もすれば確実にくる。仮に五千の避難所のすべてが同じ状態だとしたら。輸送ランチが港や救援船と避難所を往復して、一つの避難所の救助を行うのに、何分かかるだろう。30分? そして、ランチは公社とエウーゴで、いくつ出せるのか? 50? だとすると、1時間に100の避難所が回れて、8時間なら800だわ。だが、200人乗りのランチなんてあるはずがない。せいぜい100人だ。だから、救える避難所の数は半分。6時間に300? まったく無理。約17分の16の確率で死ぬことになる。
 まさか、五千全部がだめということがあるはずがない。めちゃめちゃにやられたとはいえ、そんなことあるはずないわ。じゃあ、いくつ? 600なら、2分の1。1200なら、4分の1。もっと多いかも。
 自分の命を確率で計算していくなんて。もうだめ。限界。
 神様、お願い、助けて。お父さん、お母さん。
 うろたえていても、事態は好転しない。セティアは、大きく息を吐いて、気持ちを落ち着けた。私のほかにも、たくさんこんな目にあっている人がいる。それに、イアンは、無事なのかしら。そう、イアンは、コロニーについて、十分知らない。セティアは、祈りだした。両親、イアン、リンカー、フレデリカ、他の友達。彼らの無事。

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 こういう目にあって冷静でいられるか? というのは結構重要だと思うんですが、あんまり自信がなかったりします。
 セティアがパニックになりつつも耐えられたのは、最初はビルがいて、ビルが死んだ後はみんなの、イアンの無事を祈ったからだと思うんです。自分の大事だけを思っていたら、どう見たってパニックに陥るに決まってます。
 自分が本当に窮地に追い込まれたときでも、他人を気遣う余裕をもてるのか。それが、強いって事のひとつの答えかもしれません。