ガンダムイフニ

(13) レスキュー-2

「何かできること、あるでしょう!」イアンはブラッドとホートラングのヴィクトールに接触しながら、必死な声をあげた。
「何もできるわけがない。モビルスーツのコクピットは3人も乗せれば身動きが取れない」ホートラングは吐き捨てるように言った。もちろん、ホートラングとて、コロニーの人を助けたい気持ちはある。だが、所詮モビルスーツは兵器である。救助には中途半端な用しかなしえない。
「だけど、そんなことって。千の避難所が窒息を待つ状態なんでしょう! 30万人が、ただ死ぬのを指をくわえてみてるなんてこと! ねえ、ブラッド中尉!」
「うるせえよ、ギャンギャン言うんじゃねえ。おれだっていらいらしてんだよ」言葉はぞんざいだが、口調は静かに、ブラッドは答えた。
「私たちは例のガイア教団船か? あれを沈めた。放っておけばもっと被害は拡大したのだ。それを防いだ。これ以上はできることはない。そもそも、イアン君、そのモビルスーツはエウーゴの最高機密だ。君がイフニに乗り込んだことも偶然の産物だし、事情が事情だけに処罰はないだろうが、君にはそのモビルスーツからすぐ降りてもらいたい」
 問題のすり替え。大人のやり口だ。我ながら、いやな言い方だ。だが、他にどうしようがある? ホートラングは仕方がないのだ、と思おうとした。
「我々はアークに帰投する。ついて来なさい」
 こんなパワーのあるマシンなのに、何もできないのか。イアンはホートラングの後を追いかけようとしながら、考えつづけていた。所詮、天使隊の教育など、こんなものだ。人を殺すことはできても、救うことはできない。このモビルスーツもそうだ。戦力はあるが、こんなときには役に立たない。別の意味の力が欲しい。切実に。力が。
「いや、待って。力はある。電力だ。ホートラング大尉! 聞いてください!」

「両手のひらに、武器に電力供給するための口はある。ビームサーベルの予備を分解して電力ラインを引っ張り出せば、モビルスーツを動く小型発電所にすることはできるでしょう」
 ドースン=ウィルキンズがアークのモビルスーツデッキで考え考え言った。
「コロニー公社の技術部に問い合わせて、コロニーに電力供給するための口の仕様を確認! 急げ!」すかさずフレイドが近くのスタッフに命令した。「ですが、時間がありません。作れますか?」フレイドは口調を変えて、ドースンに聞いた。
「まあ、職人芸の見せ所ですね。何とか3時間ぐらいで1本作ってみましょう。1つできれば、後はもっとスピードを上げられるでしょう。何もしないよりはずいぶんマシです。実際これで少なくとも何百人かは助けられるでしょう。ひょっとしたら何千人か」

 ホートラング他、ブラッド、ボウト、クリス、そしてイアンの乗るイフニはアークに帰投していた。約3時間の休息後、コロニーへの電力供給のため、出ようとしていた。
何か、引っ掛かりがある、あのイアンという少年には。仮に、おれがニュータイプだとして、何か引っかかってるんだから、彼もニュータイプなのかもしれない。何にせよ、彼の操縦テクニックは確かで、ボウトなんかの横で戦っているよりよほど安心感がある。
 ブラッドはイフニのコクピットにいた。ブラッドは思う。イアンは17歳だ。数ヶ月で18なのだが、エウーゴの規定を満たしていないのは間違いない。このままでは、彼は降ろされ、ただの子供になってしまう。
「おっかしいなあ、サイコミュの設定じゃないかなあ。さっきまで、イアン君が乗ってんで、癖がついたんじゃ。動かないんすよ」
 ブラッド用にカスタマイズされたヴィクトールのほうがイフニよりぴったりくるのは事実である。とにかく、実際はブラッドはイフニを動かせたが、コクピットの中で肩をすくめた。この緊急時にサイコミュのシンクロ率を計ろうなどと言い出す奴はいない。
「イフニの出力が一番あるんだろ? だったら、出さないわけにいかないでしょうが。彼でいいでしょ。イアン=ランドー君で」

 イアンの乗るイフニは47の避難所に電力を供給していた。これで、約1万人に酸素を供給した。そして、他のヴィクトールも含めると、約2万人の命がイアンのアイディアに救われたことになる。だが、それは、全体から見れば、一部の避難所である。

「高校生くらいの女性が、子供と母親を優先して宇宙服を着せて外に出そうって言ってくれたんです。避難所にいた人の一部はかなり殺気立っていたんですけど、抑えてくれて」
「男の人から殴られたりしてましたけど、強い人だったんですよ。その女の子」
 砲撃から8時間後。第7501番避難所にコロニー公社のランチが到着。273名が収容されていたが、120名あまりがその時点ですでに死亡、残りの市民も重態。3番地のハマダ記念病院へ収容されたが、合計で211名がすでに死亡。残りの62名は未だ二酸化炭素中毒で重態である。何らかの後遺症が残るのではないかと懸念される。
 だが、合計で50万人あまりが命を失った騒動の中で、これは小さな事件に過ぎなかった。

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 こういう目にあって冷静でいられるか? というのは結構重要だと思うんですが、あんまり自信がなかったりします。
 セティアがパニックになりつつも耐えられたのは、最初はビルがいて、ビルが死んだ後はみんなの、イアンの無事を祈ったからだと思うんです。自分の大事だけを思っていたら、どう見たってパニックに陥るに決まってます。
 自分が本当に窮地に追い込まれたときでも、他人を気遣う余裕をもてるのか。それが、強いって事のひとつの答えかもしれません。