ガンダムイフニ

(3) 策動-1

「それで、今は軌道艦隊から通信中というわけか! 与えられた任務をほっぽりだして!」ローランドは完全にあきれきった様子でモニターに向かって手を振った。
『いえ、しかし、とりあえずご報告をと思ったものですから、大佐。彼らは大変良く働いておりましたし……』もごもごとウィルガムがレーザー回線経由で言い訳をしている。
「第9戦隊が優秀なのはあたりまえだ! そういう人材を集めていたのだからな。中佐には彼らが暴走しないように監視をしろと私ははっきり命令したはずだ。彼らの能力査定を求めたわけではない。誰かが降りてこいといったのか?」
『ハーグ少将のご命令です』ここだけははっきりという。ふん、無能なごみ虫やろうが。自分の責任じゃないことだけははっきりと主張するのだ。手元のコンソールで今のやり取りが間違いなく記録されているのを確認した。
「もういい、地球に降りてくるんだな。キトでデスクワークが待ってるぞ」通信終了のボタンをクリックしてウィルガムが言い訳をしかかるのを断ち切った。まったく、何であんなのしか手駒にいなかったのか。冷静に考えると、ドレルの手元の人材を優秀な順に<サイクロプス=アイ>だの<血の災い>だのに当ててしまい、役付きで監査役ができるようなのがウィルガムしか残っていなかったというのが事実だ。
 第9独立戦隊は他の部隊のエースパイロットなど、優秀でありすぎて組織になじめない人員の掃き溜めである。他の部隊に有効に散らせばいいものを、連邦政府は軍の力が強くなりすぎることを恐れて、一箇所に集めて老朽化した装備を与え、朽ち果てるがままにさせることにしたのである。そんな愚案を思いつくもの、ずいぶん長い間本格的な戦争がなかったからだ。だが、いよいよ<ギニア>のジャック=ブレナンを中心とする<エウーゴ>の活動が活発化すると、急に連邦政府の高官たちは自分を守る軍が堕落しきっていることに不安を覚えた。手っ取り早く強化するのに、人員は精鋭に違いない第9独立戦隊に新鋭のモビルスーツを与えるという安直な方法をとることにしたのだ。
 確かに、最優秀の人員に最新鋭の装備があれば、真の精鋭たりえよう。現にエウーゴの陽動部隊3隻を手もなく全滅させ、本隊のほうの追撃をやって見せるという余裕まで見せている。敵艦の性能が圧倒的過ぎて取り逃がしたが、貴重なデータを収集したようだ。
 だが、もともと彼らは獅子身中の虫である。それも、ダニの類の力を大きく超えて、獅子を食い殺しかねない力を手にしている。だから、ローランドとしては歯止めを掛ける意味で、獅子身中の虫の体内に、さらにトロイの木馬を置きたかったのだ。だが、ウィルガムでは "ドレッドノート"ノートンの老獪さの前にまったく役立たず終わってしまったようだ。
 まあいいだろう。予想しなかったではない結果である。結果として、たまたまではあるが、もう一人トロイの木馬は置いてある。ローランドはにやりとした。
 通信コンソールから自分のオフィスに戻ると、秘書役のカリンが待っている。ウェーブのかかった金髪にかわいいたれ目、長身にメリハリのついたボディ、道を歩けば誰もが振り返らずにいられないタイプの女である。しかも胸のでかい女は頭が空っぽという俗説を打ち破るのに十分な事務能力がある。
「メールが、来ております」カリンがあえて口にした。当然、<サイクロプス=アイ>計画の総責任者たるローランドには、日に100を下らないメールが来る。それの大半はカリンが一度目を通し、決済する。ローランド自ら判断が必要なものはあまりない。判断が必要なものは、カリンが別に分けて取っておくので、言われなくてもローランドは目を通す。今日は、それ以外にも、あえて目を通して欲しいメールがあるのだ。
 意外な人間からである。バレイユ=ヨンキエ少将、第六軍、南極方面軍付きの将官である。スペースコロニーに対して融和策をとなえる穏健派であり、今のご時世にそぐわないので、極地に左遷されている。キトにくるので食事でもどうかなどとのんびりした内容だ。ローランドはヨンキエと個人的に話したことはほとんどないといっていい。自分より官位は上だが、無視してもいい人材だ。だが、何か引っかかる文面だった。
 食事をともにしていただけると幸いだ。夜に、そら宇宙でも眺めながら。星は見えないかもしれないが、月は美しかろう。ことに、オリエンタル盆地の光景などいかがか。
 月の盆地など、どう鑑賞しろというのか。望遠鏡でも使わなくては無理だ。変な内容である。
「オリエンタル盆地は月の裏ですわ」ローランドのすぐ後ろに来て、カリンが補足した。タイミングも、申し分ない。彼女が来たのはほんの半年前である。それに、ここまで息が合うようになってから、3ヶ月もたっていまい。それまで、俺はどうやってこのハードワークをこなしていたのだろう? 不思議に思う。まさに一家に一台、司令官一人にカリン一人だ。いや、変な方向に考えが走った。彼女は俺だけのものだ。
 考えを元に戻す。オリエンタル盆地は地球からは見えるはずはない。キーワードは、月の裏側。
「月の裏側といえば、グラナダ」ローランドの首に手を回しながら、カリンがいう。
「そして、その向こう側のラグランジュポイントの<ギニア>だ」ローランドが応じて、顔をカリンのほうへ寄せた。カリンが頬擦りしてくる。
ヨンキエは、何か重要なことを伝えようとしているのだろうか。ここのところ睡眠時間も十分に取れないローランドではあるが、食事くらいなら、時間が割けよう。
「とりあえずスケジュールを空けておいてくれ」
「はい。場所は追って指定してくるそうですが、こちらで、適当な店を探しておきましょうか」
 微妙な問題だ。ローランドももちろん完全防諜の店をいくつか知っている。そういったところへ、行くべきだろうか? 会談の内容も見えていないが。
「いや、いい。虎穴に入らずんば虎児を得ず、だ」

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 ローランドの恋人にして愛人、カリン=ラドラム登場です。かわいそうな運命が待っていますが、大好きです、このコンビ。ハーヴェイ〜フローリアコンビより、思い入れとしてはありますね。なんといっても、本作品の一番の美女、ってことになってます。それもあるけど、ローランドの男っぷりもあるかな?