
(3) 策動-3
「どうなのです、ああいう男は?」ローランドが去った後、店に戻ってヨンキエとヒデイエの話が続いていた。
「ふふん、私から見れば、君と同じだ。わかりやすい。目的が自分の栄達だけ、というのは、ある意味扱いやすい」
「ずいぶんな言い草ではないですか、少将」苦笑しながら、ヒデイエが答えた。
「失礼した。私は誉めているのだよ、誉め言葉には聞こえないかもしれないが」丁寧にヨンキエが謝った。
「あの女を本当に手懐けているのでしょうか? 万一ローランドの見間違えだとすると、深刻なことになりますよ」
「ふふん。まさか今日つれてくるとは思わなかったな。あの男は、彼女を逆に利用している立場にある。問題ないだろう。……そう噛み付くな。君らは似ている。だから、反発を覚えるのだろう。彼がヤマト工業にいれば、君のライバルとなるだろう。あるいは油断ならない腹心の部下か」
「そう。そうかもしれませんね。まさに諸刃の剣だ。私たちにとっても」
「少なくとも、我々側だけを向いた刃ではない。そして切れ味は抜群だ。野放しにはできん。手は打たねばならん。そして、我々の味方になれば、大きな戦力だ。<サイクロプス=アイ>の事を置いておいてもな」
「<サイクロプス=アイ>。どうして、人は極端なことをしたがるのですかね」
「変革というものは、破壊を伴わなくてはできないという民衆の思い込みだよ。だが、実際の世の中は徐々に変わるものさ。何かを変えるのに、いちいち廃墟の上から作るのでは、効率が悪すぎる」
それについては、ヒデイエは違う意見をもっていた。確かにすべてをぶち壊して一からやりたい人間などいない。だが、そうせざるを得ないところまで追い込まれるのだ。まあいい、こちらはリスクヘッジ、あちらは投資。頭の凝り固まった老人に、わざわざ時間を割いて教えをたれてやる必要はないのだ。
「どう思った?」官邸に戻って、一回愛し合って、まどろみそうになりながら、ベッドの中でローランドはカリンに聞いた。
カリンもまどろんでいたのだろう、ふう、と軽く息を吐いてローランドに向き合った。
「ヨンキエは掛け値なしの清廉潔白な一徹者ね。信じてもいいと思う。ガイアのターゲットリストからも漏れていたし」
「信念のほかに、あの爺さんが決起を思い立った理由は何かな」
「他には何もないと思うわよ。立派な方だわ」
「おやおや、カリンは惚れっぽいんだな」
「妬いた?」「妬けるね」「光栄だこと」
「爺さんの決起の理由。本当にそうか?」まじめな口調に戻ってローランドが言った。
「どうして信じてあげないの」
「不安なんだ。俺は政治的な信念とか、理念だけを理由に人が動くことを信じない。利益目的、とかっていうほうが、信じられる。特に、自分の人生を賭けるとなると」
カリンはちょっと考えた。「人は利害だけで動くものではないわ。私だってこうして危険を冒してあなたに尽くしているもの」
「カリンは快楽が目的だろ。俺のセックスがいいんだ」ローランドは冗談めかして言った。
「もう。じゃあもう一回きなさいよ」カリンは挑発的に身をくねらして、ローランドの下半身を手で愛撫した。
「よせ、冗談だよ。もう無理だ。勘弁してくれ」
「恨みというのはどうかしら。3年前に、息子さんを失っているのを思い出したわ」
来た。それだ。こういうデータマイニング能力もカリンはすばらしい。
「詳しく話してくれ」
「カマロ=ヨンキエ。バレイユ=ヨンキエの一人息子。連邦軍に勤め、第5軍に所属していたが、3年前に死亡。死亡時には少佐、32歳」
「死因は?」
「酔っ払ってキトの町でゴロツキに殺されたとか」
「穏やかじゃないな。もっと詳しいデータを調べられるか」
「無理ね。カマロ少佐についてのデータは、かなり抹消されていたわ」
「ますます怪しいな。だが、これでヨンキエの動機は理解できた。カマロは殺されたんだろう、やつらに。真相は無理して調べなくていい。ヨンキエがそう信じていれば、十分だ。いいだろう、怪しげだが、あの連中に賭けてみるか」
「あなたもそんなことで悩んだりするのね」
「それは悩むさ。どうしてだ?」
「悩みが解決してきたら、こっちは元気になってきたみたいよ。心因性の不能にならないうちに、早くこんなことから引退したほうがいいわ」
「まったくだ」


こ、濃いですね、ローランドとカリンの間。いやもうこれだけです。いいなあ、彼女欲しいなあ。なんて。