
(5) イフニ
パイロットのブラッドはいつもにもまして機嫌が悪い。二週間の任務をこなし、地球から帰ってきてみれば、自分のテスト機が前からちっとも改善されてない、ともなればそれも当然だろう、とミイナは思った。
それにしても、だ。あまりにも機嫌が悪いような気がした。まったく、軍のブルーカラーの癖して、世話を焼かせてくれるものだ。前と比べて、単に怒っているというより、何かに呪いでも掛けているような凄みを、レーザー回線越しにも感じるのである。そこまでわかっていて、コロニーのモビルスーツ収容港とパイロット専用ロッカーとの間で、ブラッドをいつものとおり待ち受けたのは、ミイナの判断ミスである。
「ああ、先生かい」
「今日も、あんまり変わらなかったようね?」
「……ようね、だと? ミイナ先生、あんた本気でモビルスーツのこと、考えてんの?!」
若く長身で力の強そうな男にこれだけすごまれれば、誰でも多少なりともドキッと来ようが、ミイナにとって核心をつく言葉でもあった。
「あのねえ、ドクター=ランドー、おれたちが連れてきた人、あの人はテスト前にモビルスーツのところに来て、コクピットに座って操縦をためしたんだよ。全部見習えとは言わない。だけど、ミイナ先生、あなたはジェネレータさえ動けば何でもいいわけかい?」
「そんなことないわ……」
「そういうふうにしか見えないけど。おれはモビルスーツに自分の命を預けなくちゃいけないんだ。ジェネレータじゃなくてね。おれは自分の命を掛けるなら、あなたじゃなくて、ドクター=ランドーに預けるよ」
くるっと背を向けると、ブラッドは歩み去った。
ランドー博士がブラッドとすでに接触しており、さらにイフニを操縦しようとしていたなどと、まったくミイナは知らなかった。あのすまし顔の男は、思いもよらないほど勤勉なのか。あるいは単に子供なだけか。
今度の世界は広い。おまけに、どういう状況なのか、エネルギー資源は信じがたいほど大量に供給される。物的資源は乏しいが、なんとかなるだろう。だが、今度の世界が一番興味深いのは、どうやら閉じた世界でないことだ。そして、この世界は別の世界と激しく生存競争に当たることをやっているらしい。この世界が周囲の環境に対して強い存在であることが自分たちの繁栄の必須条件であることを理解した彼らは、早速貪欲に活動し始めた。



勘違い女ナンバーワンのミイナ=クリントです。正しい感性を持つブラッドに、いきなり叩きのめされています。僕は勘違いな人、嫌いじゃないんですが、戦争となったらそうも行かないでしょうね。
勘違い振りが徐々に調教されていくのも、実は結構この小説の軸だったりします。調教好きなわけではないんですが、ね。