
(5) イフニ-2
レイモンド、ジミー、ミイナ、そしてフレイド、さらに他の技術スタッフも入ったミーティングが、モビルスーツドックのすぐ隣の会議室で始まっていた。メンバーには、今まで呼ばれたことのないブラッド=ハイアール中尉も参加していることにミイナはすぐ気づいた。前回のミーティングでフレイドが主張したことである。この<ターン=プロジェクト>がもともとリーダーシップ不足なことはミイナも感じていたことだ。ジミー=キャルバートはリーダーにしては性格が暗すぎる。レイモンドは経験と押しが足らない。そして、(遺憾ながら)ミイナは女である。挙句、最終意見調整は技術者でもなんでもないオットー=ラインバルトにゆだねらることさえあった。その結果、かなりエキセントリックなデザインになったターンAタイプとBタイプ、そしてろくに動きもしないターン=イフニの3機のモビルスーツが残った。
フレイド=ランドーが<ターン=プロジェクト>ミーティングに初参加したのは昨日。立場は単にターン=イフニに投入できるナノマシンを持ってきたオブザーバーであった。だが、発言を重ねるうちに、プロジェクトのリーダー格として、その会議のうちに全員から認められるようになっていたのである。フレイドのいたずらっぽい笑顔の童顔を見ながら、ミイナは思う。私こそ、今までオブザーバー気分でいたのだ。イフニの調子が悪くなるたび、ブラッドにしつこくヒアリングしたが、それは単に自分の担当のジェネレータに責任がないことを確認する作業だった。自分がイフニの武器系や駆動系統はおろか制御コンピュータ系さえもろくに知らないことに考えがいたったのが今日のことなのだ。それにくらべ、フレイドは今日イフニの操縦さえ試そうとしたという。
「さて、今日のトレーニングバトルだが、皆さんからご報告いただいたとおり、戦闘が激しくなるとイフニはパワーダウンした。この現象について、今までの皆さんのレポートは見せていただいている。新たな内容を付け加える方がいらっしゃれば、発表をお願いします。ドクター=クリント、何かあるかな」フレイドが早速口火を開いた。
「いえ、特には」ミイナは最初にふられたことを意外に思いながら答えた。
「他には、特にないかな、ジミーとレイは? そうか、ならばいい」フレイドはジミーが原因究明ではなくぐだぐだと言い訳をはじめたのをすばやくさえぎった。
「実は私は原因について、報告を受けているんだ」にやり、としながらフレイドはいった。「ナノマシンが今回のテストで300は死んだ。全部で1万弱だったから、少ないとはいえない。死んだナノマシンの遺言だよ。ナノマシンが死んだ場所はジェネレータ近辺に集中している。死因は高温だ。1000度Cになっていた。誰の設計か知らんが、制御用のメインフレームの近辺も800度Cになっていたよ。コンピュータの熱暴走とは、どえらい初歩的な原因だが」
最初、それでもミイナは自分の関係のないことのように思っていた。フレイドに一喝されるまで。
「熱はエネルギーの墓場だ。ジェネレータの温度が上がるということは、それだけ効率が悪いということだ。違うかな、ミイナ?」
戦闘の最高潮時に、サイコミュからの刺激により、ジェネレータの出力は上がった。だが、それが無駄に熱になって逃げている。サイコミュをはずしたり、リミッターをかけて取り繕うのではなく、エネルギーへの変換効率を高めて、熱を出さないようにしろ。一週間で。ジェネレータが本来の出力を出せれば、イフニは最新鋭機にふさわしい性能を発揮するだろう。フレイドはそうミイナに要請――実際はほとんど命令――した。
ミイナは、反発しながらも、ジェネレータの効率アップの手をいくつも頭の中で思い描き始めた。解散後、自分の個室に戻ってアイディアをまとめ始める。
「制御系メインフレームがモビルスーツの腰の部分に仕掛けられるのは一般的だ。それはそれでいい。そして、ミイナがジェネの効率をアップしてくれるだろう。だが、これに全部の望みを託すわけじゃないだろうね」ミーティングが一応解散になった後、フレイドはレイモンドとジミーを呼び止めた。
「え」
レイモンドとジミーは、問題の解決はミイナにゆだねるというフレイドの発表を聞いたばかりである。自分が何かできることがあるだろうか? 制御系を今からポジション変更するなど、無理である。4機目のモビルスーツ設計に入ったほうが早い。そんな言い訳をジミーはぼそぼそとしだした。
「そんなことは求めてない。エネルギー生成時に、熱が多少生じるのは避けがたい。ミイナがどんなにがんばっても、だ。だから、熱を外にくみ出すんだ。そうすれば、問題なくなる」
熱を外にくみ出すのにエネルギーを使うのか? まさに無駄の極地だな、とレイモンドは思った。モビルスーツは豪華宇宙客船と違うのである。
「いいや、熱を外にかい出すエネルギーは無限にあるんだよ。忘れたわけじゃあるまい。問題は効率よくかい出す手段だよ。人間が汗をかくように」宇宙は真空で、寒いところだと思われている。真空という場所は物質の濃度が低い。そういう意味では寒いところでもあるが、地上の寒いとは意味が違う。例えば、空冷式のエンジンは、表面をぎざぎざに刻み、面積を増やすことにより、より多くの空気に、エンジンの余熱を持っていかせる仕組だ。だが宇宙には余熱を持っていかせる物質がない。だから、温まった物体を冷ますのは意外と難しい。
「だから、汗をかくように、自分から熱を出す媒体をだすんだ」フレイド。
「汗……」ジミーが唖然としている。モビルスーツに汗をかかせる図を頭の中に描いて、あまりの滑稽さに口もきけなくなっているようだ。
レイモンドがぱちんと指をならして答えを出した。
「ターンBとイフニに、おまけ武器的な存在ですが、プラズマ=マニピュレータというのを搭載してます。モビルスーツの手の金属に熱を加え、プラズマ化させて一種の武器にするという代物です。これを全身に仕掛けることで、対応できるかもしれません」技術者魂が刺激されだしたようだった。
「あの隠し武器ね。レイモンドの冗談かと思っていたが」ジミーが珍しく、おかしそうにいった。「全装甲に同じ仕掛けをするのは可能でしょうが、それでは、装甲に徐々にピン・ホールがあいて、弱まってしまうよ。プラズマ=マニピュレータもあまり使って欲しくない武器だ。私はイフニにあれを搭載するのは反対だったんですが」
「目的は放熱だけなんだ。武器として使う必要はない」
しばし、レイモンドが考えたあと、アイディアをまとめた。「ジェネレータに近い部位で、腰と背中にそれ用の放熱板をつけましょう。羽のように。熱がたまったら、羽をプラズマ化させて、放出する。前身に仕掛けを作るのに比べて、工数もかかりません」
いいだろう、フレイドは思った。「よし、じゃあ早速設計に取り掛かってくれ。こちらも1週間だ。ジミー、君に一任する」
「は?」アイディアを出したのはレイモンドだった、とジミーの顔に書いてある。
「何度も言わせるな」ぴしゃり、とジミーを一言で押し込んだ。「君は実物を作るのには最適な人物だ。もちろん、レイモンドを自由に使って働かせてもらって結構だ」
今度はレイモンドの顔に不満がにじみ出た。
「レイ、異存はないだろうな」
返事はない。
「いやなら、いつでも<ターン=プロジェクト>から外れてもらってかまわんよ」微妙な発言なのをわかっていて、フレイドは口にした。
<ターン=プロジェクト>の最終人事権はオットー=ラインバルトが持つ。新参のフレイドが早くもプロジェクト内のオピニオンリーダーとなったのは全員が意識しているが、明確に人事権までに口出しできる立場ではない。オットーとレイモンドの関係は良い。レイモンドの若く、先走りがちではあるが、アイディアの詰まった頭脳を、オットーは信頼しているようだ。そのレイモンドを解任できる立場に、フレイドがたっているのだ、ということをこの発言でフレイドはレイモンドに認めさせようとしている。
実際、レイモンドが逆にフレイドの解任をオットーに直訴でもした場合、どうなるだろうか? まだ、レイモンドのほうが有利な立場には違いないはずだ、とジミーは思った。だが、ジミーはレイモンドのことを生意気な若造と思っている。どうせ自分の上に人が立つのなら、レイモンドよりはフレイドのほうが良い。
「私に異存はありません、ドクター=フレイド」ジミーが発言した。
「結構です」やっとレイモンドが口にした。いやいやなのが露骨に口調に出てしまっている。
「いやなのか?」フレイドがかなりきつい口調で確認した。
「いえ」
「だったら、もっと元気良く返事をするんだ」
「はい」このくそ親父め、と思いながら、レイモンドは返事をした。



レイモンド君初登場ですね。ターンAとターンXを作った男です。彼はもう少し活躍させたかったんですが。僕もオタッキーな人なので、こういうタイプには共感をおぼえざるを得ません。まあ、これ読んでいる人、大体そうだよね。
それに対して、厳しい上司となったフレイド。自らもオタッキーであるにもかかわらず。オタクであることは、今時的にはひとつの力ですが、オタクだらけじゃ世の中まわらんですよね。本人オタク=職場じゃ厳しい人ってのはこれからの理想の上司像・・・かな(本当?)。