
(5) イフニ-3
「私に、初めからマネージメントを期待していたわけではないだろう。私の研究内容を知っていただけで、私のプロフィールは、知らなかったはずだ」
「いいえ、かすかな期待は抱いてました。ドクター=ランドー。経歴は当然調べさせていただきました。年齢がプロジェクトの中でも一番上のほうになるし、お子さんがいらっしゃる。リーダーとなる資質さえあれば、すぐにでもトップに据えようと思っていました」
「ジェネラルには人物がいないのか」フレイドは皮肉を言った。
「民生部門にはたくさんいますよ。そちらからプロジェクトマネージャーを一人引き抜くのも考えた。ですが、それではレイモンドもミイナも納得しなかったでしょう。彼らはずっと自分の頭脳だけを頼りに生きてきた。自分より研究者としての能力が劣る人間に上に立たれるのは、我慢できないのです」
「わがままなだけだ、あの若者たちは」
「ですが、優秀です。腐らせるわけにはいかない」
「あなたは彼らを甘やかしすぎだと思う。彼らのためにもよくない」
「ドクター=ランドー、あなたがそういえるのも、彼らに負けない研究をされて来たからですよ。私は所詮一介のビジネスマンに過ぎない。あなた方のような優秀な研究者を、私はうらやましく思っているのです。私自身も若いときは研究者として生きていくことを望んだのですが、どうしても最優秀な連中にはおよばなかった。ジェネラルの取締役になれたのも、研究者として落ちこぼれたからです。彼らにあれこれ細かいことはいえません」楽しそうに、オットーは会話を続けた。
「ヤマト工業に協力をなぜ仰がない?」もう一つ不審な点である。イフニに導入されているミノフスキードライブは、ヤマトお得意の技術である。だが、今のターン=プロジェクトにはヤマト工業は一人もいない。意図的に排除したのだ。
「ヤマトはジェネラルの技術が欲しい。会社そのものの吸収合併を狙っています。だが、それに応じるわけには行きません。ヤマトは純粋な私企業です。利益の最大化が目的に過ぎません。ジェネラルの社是を知っていますか」
「いや、ぜんぜん知らない」
「憶えておいてください。ジェネラルの社是は人類への貢献です。ヤマト工業はあちこちの勢力と接触を保ち、儲かりそうなところにヤマを張る。それに対して、ジェネラルはエウーゴこそが人類をまともな方向に導くと判断したからこそ、一点集中で支援活動を行っています」
「ジェネラルは超大手企業ではないからな。あちこちに資金を分散する余裕はない。だから、一点に張らなくちゃならないんだろう」
「おっしゃるとおり、それも一理ありますが、それがすべてではありません。いつかあなたとベルモンド=ハムナーとの会見の場を設定しますよ」ハムナーはジェネラルの会長である。「ヤマト工業の人間をプロジェクトに入れれば、技術が流れます。ヤマトに流れるだけならばいい。だが、間違いなく、イフニの技術は連邦にも行ってしまうでしょう。それでは、人類は滅亡の道をたどります」
オットーは身振りで、今の流れの話は終了であることを示した。
「話を元に戻しましょう。ジミー=キャルバートをアナハイムから引き抜いたときも、実はリーダーになってもらえるのを期待したのです。ですが、あの性格でしたので。先ほどのミーティングを覗かせていただいた結果、あなたこそが、私の求めていた人材だったことがわかりました。よろしく頼みます。連中に対して、どんな厳しいことを言っていただいても結構です。正式にプロジェクトマネージャーとして、任命が必要になれば、いたしましょう。下世話な話で申し訳ないですが、契約金も元の約束よりはずみましょう」
「それはありがたいが、当面はこのままやらせてもらう。わかると思うが……」
「ええ、そうおっしゃると思いました。まだ、彼らはあなたのことを良く知らない。いきなりプロジェクトマネージャーに据えれば、かえって反発を招きましょう。おいおいにということで。ですが、契約金の件だけは、先に実行させていただきます」
途切れた後、フレイドが話した。「私がこなかったら、あるいは、マネージメントなどお呼びもつかない人物だったら、どうするつもりだった? もはや地球との対立はのっぴきならないところまで来てしまっている。これからさらに探すつもりだったのか? そもそも、この体制で連邦に立ち向かえる研究成果が上がるとでも思っていたのか」
「ご心配のとおりです。あなたがだめだったら、私が直接プロジェクトを指揮するつもりでしたが、たいした成果はあげられないでしょう」
「この体制で一旗あげようなどと、どうして思った」
「名前だけはご存知かもしれませんが、ブレーズ=ハンプトンという天才がいましてね」ふっとため息をつきながらオットーが言った。見ると、顔が紅潮していた。
「大統一理論の提唱者だな」不審がりながら、フレイドは返事をする。
「提唱者ではありません。完成者です。その結果が、イフニジェネレータなのですから。すばらしい人物でした。研究内容も、マネージメント能力も。彼がプロジェクト立ち上げ直後に死ななければ、イフニはすでに完成していたでしょう。エウーゴもすでに地球に勝利していたかもしれません。彼を失ったことで、ジェネラルもエウーゴも窮地に立たされていたのです。失礼な話ですが、あなたには彼の代役を期待することになる。あの世紀の天才の。私の期待の大きさを、理解していただきたい」
「ひとつ聞きたい。ブレーズはなぜ亡くなった?」
「<ターンプロジェクト>の理論面が完成に近づくにつれ、彼は、プロジェクトのメンバーを遠ざけ、一人で研究室にこもりがちになりました。そして、ある日、研究室で死んでいるのが発見されたのです」
「のめりこみ過ぎか」
「ええ、その直前の言動も少しおかしかったのです。死ぬ間際に書いたと見られるメモも、誰も理解できないものでした」
「いいだろう。最善は尽くそう。私は天才ではないからな、正気を失うこともないだろう」イアンも、彼らも、勝手に育っているのだ。
「やっていただけると信じています。お世辞ではないですよ」
今後のプロジェクトの進捗スピードについての不安は、正直、ある。今にも連邦の戦艦が押し寄せてこようというのに、切り札はろくすっぽ動きもしない。だが、時間がもらえれば、イフニはものになるだろう。厳しいことをプロジェクトメンバーに言っているが、能力には信頼が置ける。
オットーは立ち上がってフレイドに握手を求めた。握手に応じたフレイドは感じた。骨ばって冷たい手だ。顔は笑っているが。不安なのは、むしろこの男だ。フレイドは何とはなしに薄ら寒い感じを覚えた。
「フレイド=ランドー博士ですね、今後はよろしく」ラボ内の仮眠所へ向かうフレイドに、ひげを生やしたたくましい男が話し掛けてきた。顔には見覚えがある。ミーティングのメンバーだったはずだ。
「あー、ウィルキンズ技術長ですね? こちらこそ、よろしく」ごつくて、厚い手だった。しかも、じっとりと湿り気を帯びてさえいた。だが、先ほどのオットーの手に比べれば、なんと暖かく、なごませてくれることか。ウィルキンズはターン=プロジェクトの実働技術部隊の長である。それに、確か子供が一人いて、イアンの同級生になっていたとか。
「ドースン=ウィルキンズです。あなたが、今後プロジェクトを率いるんですか?」ダイレクトな質問をぶつけてきた。絵に描いたような職人という奴だ。技術者はスコットランド訛なのだ。
「多分、そうなるでしょう。助けていただけますか」
「はは、あなたも正直ですな。いいでしょう。あのわかってない若造どもより、ずっといい。お互い寝不足ですが、寝る前にちょっとだけ、一杯やりませんか? 一発でがっくり眠れますよ」



引き続き、フレイドお父さんの苦闘が続きます・・・というより、大活躍。
この作品の中で、いろいろな人物が登場しますが、理系・研究者系では
1.ブレーズ=ハンプトン
2.フレイド=ランドー
3.レイモンド=カナン
がトップスリーですね。ミイナは、4番かな。
やっぱ、SFは、理系が主役でしょ、と思う、経済学部出です。