ガンダムイフニ

(5) イフニ-4

 原因不明の出力減少がイフニジェネレータの過剰熱と判明したまではブラッドは参加した。新しくブラッドたちが連れてきたフレイド=ランドー博士の方針で、プロジェクト=ターンのコーディネーターとしても参加するようになったブラッドだが、個別の技術的な問題に入ってしまえば、何もできないので、そこからあとは結果待ち。本来の愛機のヴィクトールのほうの調整を手伝っていた。
 前のテストから3日。再び呼ばれたブラッドはイフニを見て唖然とした。
 ジェネレータだけの改良ではなかったらしい。外見にかなり大幅な変更がされていた。肩、腰、アキレス腱のあたりにおかしな可動式のボックスのようなものが追加されていた。ミノフスキードライブの形状も少し変わっている。とんがった形だったのが、丸みを帯びた。多分前述の可動ボックスの動きの邪魔になる部分を削ったか。あと、太ももの部分のボリュームアップは聞いている。何でもナノマシンのえさ箱だという。
「へぇー、3日間しかなかったのに、がんばりましたねぇ」ブラッドは素直に感心をフレイドに対して表明した。「ずいぶんお疲れじゃないんですか? 無茶が顔に出てますよ」
「わたしもスタッフもこの3日間ほとんど寝てない。少なくともまとまった睡眠はね」
 フレイドが簡単に口にした。顔はなんとなくやせたようになり、無精ひげが童顔を蹂躙している。だが、口調は楽しげだった。コクピットに向かって二人体を並べて流しながら、雑談していた。
「お子さんにも会ってないですね、その調子じゃ。新天地に放り込まれてるんだから、連絡ぐらいとってあげないとかわいそうですよ」
 言葉はぶっきらぼうなところもあるが、意外と心配りがこまやかなのだ。ニュータイプというものがこういうものならば、確かに人を良い方向に変えうるのかもしれないな、とフレイドは返事もせずにブラッドの言葉を聞いていた。
「ランドー博士! 聞いてるんすか、おれの言った事」
「ああ、すまない。ありがとう。息子なら、立派にやれると思うよ」
「その過信はどうかと思いますがね。アークで見かけたときは、大丈夫かなと思いましたよ。おれが隊長で、彼が部下だったら次回の出撃はさせられないって感じでしたね」
「ほう。なぜかね。あの時は君こそ近づくものすべてを切り刻みそうな様子だったが」改良が終わったモビルスーツを目の前にして、こんな会話を続けていいものかとも思うが、引っかかりがあったので言葉を返してしまった。
「そりゃすみませんでしたね。なぜって、言葉ではうまくいえないですが、なんていうか、鉛筆ってあるでしょ、良く尖らしたら物を刺すのに使えると思うけど、かえって折れやすくなりますよね。そんな感じです。なにいってんのかわかんないかもしれませんが」
なるほど、これが、ニュータイプというものなのだ。優しい、柔らかな感性の持ち主である。
「いや、良くわかったよ。ありがとう。今日にでも一回連絡を入れるよ。本当にありがとう」確かにそうだった。常にアドバイスは与えたが、基本的にはイアンを放置しつづけた。イアンは立派にやっていたが、がんばらせすぎかもしれない。休ませてやる必要もあるだろう。そして、ラブ先生の見立てもある。少なくとも、このエウーゴ一の高い感性を持つ若者が、そう感じたのだ。貴重な意見だった。
「いいえ、どういたしまして。そんなにまじにとってもらうのも恥ずかしいんですけど。で、そろそろいきますけど、補足ありますか」ブラッドはコクピットになれた調子で体を押し込み、システム起動に入る前に一瞬手を止め、フレイドに聞いた。
「さっき説明したとおり、重量追加は単に放熱板の分だ。ジェネレータの効率はミイナ君が実にがんばってくれて、2倍近く高まったが、だが、それでも熱くなったときは放熱板がオートで開いて冷却モードになる」
「なるほどね。じゃあ特に使い方に変更はないわけですね」
「方法にはない。だが、重量バランスが多少変わっているのと、ジェネレータのゲインが上がった点をシステム的に補正していない。君の操縦能力にゆだねることにした」
「ご信頼いただき、ありがとうございますってね。まあ、やってみますよ」
「ああ、頼むよ。今日はどちらにしろ無理だが、明日スタッフ一同が家に帰って寝られるかどうかは、君にもかかっているんだよ。こいつの新しい力をめいっぱい引き出してみて欲しい」
「了解。じゃあ行きますんで離れといてください。ターン=イフニ、システム起動! カタパルトデッキに移動します」
きーん、という音が一瞬コクピットに充満した。すでに今までのイフニとは、どことなく違っている。だが、いつのまにか脇の下に汗をかいているのに気づいたブラッドは、改めてジェネレータとか、そんなことの違いではないと急に思った。サイコミュ系に変更があったという説明は聞いてないが、そんな感じだ。あとでレイモンドをとっつかまえて話を聞かないと。とりあえず、ノーマルスーツの温度設定を一度下げた。「ブラッド=ハイアール、ターン=イフニ、でますよッ」

 一通りフライトテストは完了した。ブラッドは新しいイフニを気に入っていた。
「レイモンド、いいぜ、こいつは! ランドー博士も戻ってるかい。おれが言ってもうれしくないかもしれないが、とにかくよくなった。シミュレーションバトルは、いつはじめてもらってもかまわない。全員ぶちのめしてやる」
 誉められてうれしくないわけはないが、ブラッドのそれは特別だからな、とレイモンド=カナンは思った。機体バランスがめちゃめちゃなのはわかっている。例のパワーダウンの根本原因を叩くのがやっとで、調整まで手が回っていない。今のイフニを乗りこなせるのはたぶんブラッドのほかに世の中に何人もいないのではないだろうか。まあとにかく良くはなっているようだから、やってみよう。僕だって家に帰って寝たいのだ。
「よし、シミュレーションバトル開始30秒前。イフニはいいな。各隊、よろし?」
『いつものとおり、すぐ終わりにならなきゃいいけどな』テストに借り出されたどこかの隊のパイロットがぼやいた。
「やってやんなさい! ブラッド中尉!」さっきまで仮眠ベッドで寝ていたミイナ=クリントがおきだしてきていた。寝癖がひどいが、もっともスタッフ全員互いの身なりのことはいいっこなしの状態である。
 レーダーはもちろんないが、サイコミュのおかげで敵機の位置はほぼ把握できている。それも直感的に。はじめの1分で第一波の6機のうち、3機を撃墜した。ゲインが上がっている分、ミノフスキードライブの吹き上がりも良い。
 第二波がさらに6機入ってきた。今日のイフニならいけそうだ、という感触を得たブラッドは、ぐっと気合を入れた。そのときだった。マシンに何かおかしなことが起きたようだった。そういえば、いつもこのタイミングでパワーダウンだった、と思い出したブラッドだったが、それとも何か違った。

「放熱板、オープンしました」
 何ですって? ジェネレータの効率をあんなにあげたのに、もう冷却モードに入るの? ミイナは耳を疑うと同時にめまいがした。うまくいくように思えたが、イフニはこれで使い物にならないのが決定したようなものだ。放熱板は所詮一時もたせに過ぎないからだ。あと30秒か、1分かでシステム熱暴走はまた起こってしまうだろう。
 その時、モニターをとおしてみていた宇宙空間に大きな8の字が描かれ、イフニは猛烈に加速してモニターの範囲から消えた。

「うわーっ。これいくらなんでもやばくないかッ」ブラッドはイフニの中で悲鳴をあげた。ターゲットをロックオンサイトに収めようとして、行き過ぎた。速すぎる。「こんなの使えるやついねえぞ!」
 加速度の中でブラッドの顔はゆがんでいる。特別製の対Gリニアシートと対Gノーマルスーツでなければ、どこか骨折していてもおかしくなかった。今まで無駄な装備だったが、レイモンドの行き届きすぎともいえる配慮は、ついに役立った。

「なんだあれ? 8の字……」
「光跡を引っ張ってる。おいおいどこいっちまうんだ? 宇宙の果てか?」
 いったんシミュレーションフィールドから大きく外れたイフニは、来たときと同じ猛烈なスピードで帰ってくると、今度はフィールド中に派手な光を散乱させた挙句、約1分半で第二波まですべての機を撃墜した。
「ま、一応成功といっていいんじゃないか?」スタッフの誰も予期しなかった文字通り派手な効果であった。全員あっけにとられていたが、フレイドがリーダーらしく、結論づけた。「シャンパンでも買っておくべきだったかな」

 環境は変化を続けていた。彼らには環境の維持が本性として先天的にプログラムされていた。これだけころころ守るべき対象が変わったのに、忍耐強く、任務の遂行に当たっていた。ここでまた飛躍した。良い方向への環境の変化は単なる維持より良い。とはいえ、何を持って『良い』と定義づけるかは、彼らにとってまだまだ難しい問題だった。まずは、簡単なところから当たることにしよう。考える時間がたくさんあるかどうかは別として、考える場所ノードはかなり増えてきた。まだまだ増やせる余地がありそうだ。慌てて事態を不可逆的に変えていくよりも、熟考すべきだと判断する。

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 いよいよ主役モビルスーツ、「イフニ」の調整完了です。書いててもわくわくする部分でした。なんで俺、理系に行かなかったんだろう・・・。こういう、「モノが一つできました!」っての楽しそうですよね・・・。