
(7) ハイスクール-3
放課後、セティアがイアンの歓迎パーティをセティアの自宅でやると言い出した。どうも、前から決めていたようだ。両親の了解もとってあるらしい。
「そう、あさっての日曜日に。空けといてね」
「歓迎パーティっていっても……。その、僕は着ていく服もないんだ。制服と、パジャマぐらいしかもってないし」もごもごと無様な言い訳をする。
「ふーん。そうか。それはそうよね。じゃあ、買えばいいのよ。明日は土曜日だし、ショッピングね。付き合ってあげる」
「それはありがたいけど。生活必需品もほとんどないし。だけど、君の予定はいいの?」
「うん、特に何もないから」
「(おまえ、ほんとド鈍いなあ。デートだよ、おまえ誘われてんだぞ)」後ろからリンカーが声を出さずにすごんでいる。ああ、そうか、といまさらながら思う。確かにド鈍いとしかいいようがないな。
「ありがとう。じゃあ、お願いするよ」
「そしたらねえ、明日の待ち合わせは、10時に3番鉄道の6番地駅ね。遅れないように!」
1000、と頭の中で天使隊式にタイマーをセットをした。これで、遅れることは決してない。
「おい、イアン、やったぞ、おまえ、やるねえ」セティアが去った後、ぴゅーっと口笛を吹きながら、リンカーが冷やかした。
帰りのエレバスの中で、イアンはなんとはなしに幸福感を味わっていた。地球にいたときには考えられない生活がここでは展開されようとしている。朝起きて食事をする。学校に行く。友達がいて、くだらないけどどこか大切な会話をし、女の子に心を弾ませ、何とか遅れない程度に勉強し、終わったら家に帰る。家庭。今は父さんはラボにこもりきりだが、一段落着けば帰ってくるだろう。心のゆとりのある生活、というものである。だが、イアンの経験不足の語彙ではこれを説明はできなかった。ただ、時がゆっくりと流れているような感覚を憶える。そして、地球にいたとき、どんなに疲れていたか。
明日のことを考えると、どぎまぎした。ラキーナと二人でどこかにいったことなどなかった。いつもメッターも一緒にいた、というより、メッターのお供にイアンがついていたような感じだった。そして、ラキーナ以外の同年代の女性とも同様だ。何を話せばいいんだろう? リンカーにもついてきてもらうことにすれば良かったかな、などとも思ったが、そんなことをいいだせば、リンカーが断っただろう。とにかく、行ってから、なんとかするしかない。未経験の戦場に対して、余計な想像を事前にめぐらすのは、よくない。
落ち着いてからふと思う。全人類の人口200億人のうち、半分は宇宙生活者だし、ほとんどがコロニーに住んでいる。こっちが普通なのだ。どうして地球に住みつづける理由があるのか? 全員が宇宙へあがってきてしまったら、コロニーも手狭にはなるだろうが、解決できない問題ではないと思える。地球にこだわる理由は? 家に着いても頭の片隅で自問しつづけた。
考えるより生むがやすし、というのか。いや、冷静に考えると、彼女の配慮の賜物だろう。イアンはそう思った。別に面白いことをたくさんしゃべったりしたわけではないが、セティアはセティアで自分の普段着やドレスなども物色し、満足していたようだった。イアンはスペースノイドふうのセンスの服装を選ぶことなどまったく無理だったので、セティアに選択をほぼ任せて決定だけを出した。昼食はおいしい無国籍料理とやらをおごり(昼飯代だけは絶対おまえ出せよ、とリンカーから言われていた)、午後はこの3、4日で判明したランドー家に足らない雑貨の類を調達し……。とにかく充実した一日だった。セティアは一日ずっとご機嫌のようで、ショッピング中に腕を組んで歩いたりし、イアンはどぎまぎしっぱなしだった。
前日の夜に珍しいことにフレイドから電話が入り、少し話をした。明日デートなんだというと、ことのほか喜んだふうで、でかした、といった。私の口座のコードを今から言うから、一日好きなだけ使え、そのセティアって子にいろいろ買ってあげてもかまわんよ、とまでいいだした。
別れ際の出来事に、イアンの幸福感交じりの困惑は、一挙に増大した。
「僕は、コロニーがこんなところだなんて思ってなかった。もっと、……ひどいところだと思っていた」
「そう、教えられた?」セティアは、イアンが受けた教育のことを知らされている。
「そう。いや、そうじゃない。教えたのはガイアでも、思ったのは僕なんだから。宇宙に住むやつはみんな豚で、自分のことしか考えていないって、思っていた。そうじゃなくて、同じ人間で、……いや、たぶん地球に住む人よりいい人たちで……。リンカーと、セティアには、本当に、その。言いたいことがあるんだ」イアンは、言いよどんだ。言葉が、見つからない。
「言う必要があるの?」
「言わなくちゃ、伝わらない、と思う」
「言わなくても、伝わることがある。宇宙ではね、ニュータイプって言うの」
イアンは、セティアの言葉の後半を聞いていなかった。セティアは、言いながら、イアンの首に手を回し、顔を寄せ、口付けした。
イアンは、思わず、セティアを抱き寄せようとしてしまった。そんな甲斐性など、自分にはずっとないと思っていたにもかかわらず、だ。
「ほら、伝わったでしょ」巧みに、イアンの両手からすり抜けて、くるりと一回転してから、セティアは笑った。



が〜! 若いっていいな〜!! 作者が書いてて身もだえしそうだったパート。とりあえず、読んどいてください。
1がひと、2がふた、0はまる、っていうのはやはり防衛大出の弟から聞いたネタです。時間もこういう言い方をするんだそうです。そういえば、今勤めている会社で、営業をやっていたときに、販売していた機械の型番読むときも、0はまる、でしたね。営業系ってやっぱり軍隊調かな、と。1はいち、でしたが。