ガンダムイフニ

(7) ハイスクール-6

 パーティは、予想通り、すばらしかった。セティアとセティアのお母さんの手料理も最高だったし、リンカーはフレデリカがいるからだろう、いつもの倍増しの陽気さと饒舌を振りまき、今ひとつ口が重い主役のイアンを補ってくれた。
 お父さんとお母さんの質問には参った。まるで面接を受けているような気分だ。未来の義理の息子にふさわしいかどうか。セティアは学級委員だから僕の歓迎をしてくれているんじゃないんだろうか? かえってイアンは自分の中に変な期待が生じてくるような感じがした。
 たいていの場面で、イアンはみんなが楽しくしているところを眺めているだけでも十分なような気もしたが、リンカーの差し金でセティアと話さなければならなかった。リンカーはフレデリカと話をするのに忙しかったのもある。セティアはいい話し手で聞き手だが、イアンは改めて、はたと自分のことを語るのに困るのに気づいた。昨日は買い物をしなければならないという目前のネタがあり、自分のことを語らなくても良かったのである。
 セティアとは、一生懸命話した。だが、昨日の別れ際のキスの記憶があり、あまり視線を合わせていられない。セティアは、平気みたいだった。イアンの困惑を楽しんでいる様子でもある。
「僕は、コロニー生まれなんだよ、もともと。別に地球の生活が大好きだったわけじゃない。地球へ行ったのは父さんの仕事の都合でだよ」
「でも、その割にコロニーに慣れてないんじゃない?」セティアがにやり、と微笑んだ。ひやかし混じりでも素敵な笑顔だ。
「ファッションの話かい? コロニーの流行の移り変わりが速すぎるんだよ、多分」
「そうかなあ」
「どお? 君にだいたい選んでもらってけどさ、悪くないだろ」
「ま、そうね。おいおい、もっとセンスよくできるようにしてあげるわよ」
「……コロニーの人は、余裕があるからさ、ファッションにも気を使える。地球ではお金も時間もなかったからね」
「あら、そう? お父さんが、あなたのお父様に聞いたところだと、地球にも彼女がいて……」
「え? ドースンさん、僕の父をご存知なんですか? ジェネラルで働いてらっしゃるんですか?」何でそんなこと知ってるんだ? 話の方向がまずいので、ドースン=ウィルキンズに話をふって、ラキーナの話題を避ける。
「うむ。まあ、ランドー博士のような研究員じゃなくて、手を動かす仕事だがな。あのお父さんの息子と聞いて、どんなだろうと思っていたが、父親に劣らず、立派な息子さんだと思ったよ」セティアの父親のドースンは、まさに工場労働者の鑑といった立派な体格にひげを生やしたやさしそうな大人であった。一目見るなり、イアンは好感を持った。そして、父と同じ仕事をしているということは、卑下してはいるものの、たぶん優秀な職人なのだろうと思う。
「その、ありがとうございます」
「割って入ってしまって悪かったな。地球の話を聞かせてくれないか?」
「地球の話なんか……」
「君にはつらい話なのかもしれないんだが、私たちは興味があるんだよ」しげしげと、ドースンはイアンに話を促した。
「じゃあ、つまらない話かもしれませんけど……」
 リンカーとフレデリカもおしゃべりをやめた。全員が、聴き入る姿勢である。
 イアンは語った。天使隊式の演説ならできたが、こういう座で聴衆を惹きつけ、退屈させないようなしゃべりなど、できるわけはなかった。それでも聞き手はじっと我慢深く聞いてくれた。地球の環境のこと。教育のこと。連邦のこと。そして、ガイア教団のこと、天使隊のこと。メッターのこと、(控えめに)ラキーナのこと。
「僕はコロニー生まれで、他の地球人たちと違います。ですが、長年の地球暮らしの後、皆さんの助けもあって、こんなにスムーズに新しい環境に慣れることができました。連邦とコロニーの関係は悪化していますが、理解しあえないわけはない。この二つの間の誤解と疑念はどこから生まれてくるのか? どの障害を取り除けば、より良い方向に向かうのか? 僕はここの生活にもっとなれて、余裕ができたら、ゆっくり考えたい。そして、地球に住んでいる人がもっと広い目で宇宙を見られるように何かしてみたい。コロニーの人全員に、僕がこんな風にここに迎えてもらえて、どれだけ感動しているか伝えたい。そんなことを思ってます。セティア、お父さん、お母さん、それから、リンカーとフレデリカ、今日は本当に楽しかった。ありがとうございました」
 知らず知らずのうちに、自分の進むべき方向をこの数日間考えていた。そのことがきちんとまとまった言葉としてイアンの意識の表面上に自然に浮かび上がってきたのである。素直な、イアンの意思がストレートにこもった言葉には、ある種の力があった。
 あれ、どうしたんだろう。しゃべっていて、自分の感情が不思議に高まっていくのは感じていたが、締めではついに涙ぐむ寸前まで行っていた。みっともないぞ、と思ったが、そうでもなかった。ふとみんなを見てみると、リンカーでさえ感銘を受けた様子だったし、実際セティアのお母さんはハンカチで目じりをぬぐっていた。

「いや、実際感動したよ。おまえの最後のスピーチは」リンカーとフレデリカ、それからイアンは帰りのエレバスでパーティの余韻に浸っていた。リンカーが珍しくひねりのない言葉を投げてきた。
「うそつけ。フレデリカの手を握るタイミングをずーっと探ってただろ? 見てたぜ」イアンはあまり直接的な誉め言葉に照れて、リンカーに逆襲をかけた。
「お、おいおい、よしてくれよ。ちゃんと聞いてたって。あの、なあ、フレデリカ」
「もう……」フレデリカはさっと顔を赤らめてうつむいた。フレデリカは痩せ型の美人で、決して活発ではなく、はかなげな感じの少女だった。リンカーとはある意味対照的である。イアンは不思議だったが、互いに自分にないものを相手に求め合うのかもな、と思った。じゃあ、僕に欠けているものは? セティにそれがあるのだろうか?
 もう、イアンが降りるバス停だった。もっとみんなと一緒にいたかった。こんなことを思うのも、メッターとラキーナ以外では初めてだ。だが、とにかく降りて家に帰らなければならない。誰も待っていない家に。
「じゃあ、僕ここだから。さよなら」「ああ、また明日、学校で」リンカーがにっこりとした。
「そうか、そうだよね」イアンがそう答えたのを聞いて、リンカーは、おや、という顔をした。
「そうさ、明日、また会える」彼なりに僕の気持ちを察してくれたのかもしれない。また明日は学校で彼らには会えるのだ。さびしくなんかない。
 家に帰ると、父親のメモ書きが置いてあり、セティアからのメールも届いていた。どちらも特にどうという内容ではなかったが、イアンは泣けた。こうやって泣くことが気持ちいいということを知ったのも初めてだった。

 艦長は、後悔していた。マリリーに3日もの猶予を与えたのは正しい判断だったか。正確な位置はわからないが、ターゲットはすべてあのコロニーの中にあるのだ。そして、どちらにしても、我々は生きては帰れない。どううまく立ち回ったとしても、敵のど真ん中なのだ、逃げ切れるものではない。ならば、巧遅よりも拙速を旨とすべきではなかったか。
 なぜ、私のような優柔不断な人間が、ここにいるのだろう。主よ、お守りください。そして、人類に永遠の繁栄と庇護を与えたまえ。

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 ずいぶん長い章になりました。「ハイスクール」篇終了です。最初はきちんとイアンに普通の生活をさせてやりたかったんですが、伏線が入りまくって長くなってしまいました。ストーリーテラーにとって、波乱のない話は書きづらいんですよね、かえって。そんなもんで、終わりもこれです。

 最後にリンカーとイアンがエレバス(電気駆動のバスですよ、念のため)で帰ってます。コロニー内に住んでいる人の移動方法とすると、想定は主に三つ。
・エレカ(レンタル、乗り捨て)
 どこでも行けて便利だが、単価高め。
・エレバス
 主に、回転(逆)方向への自動周回運転。単価安い。遅い。
・チューブ(外壁列車)
 軸方向に沿っての自動往復運転。高速かつ単価安い。ただし、回転方向には走っていないので、別の交通手段と組み合わせる必要あり。
 こんな感じですかね。この辺はもっと詳しく想定した人とか、いそうですね。