ガンダムイフニ

(8) ラボ

 ドースン=ウィルキンズが夜になって出勤すると、ラボは戦場と化していた。イフニの調整は佳境を迎えようとしている。イフニのベッドの周りには忙しく多くの人が立ち回り、あっちでぶつかり、こっちで罵声が飛び交っていた。自分の娘のパーティにお付き合いなんぞしている場合ではなかったかな、と思ったが、すぐに仕事モードに気持ちを切り替えた。職人は宵越しの金は持たないし、過ぎたことでくよくよしたりもしないのだ。
 もっとも、イフニの調整は順調なようだった。長である自分がいなくても仕事がうまくいくのは、自分が不要な人間だからではない。部下を良く鍛えてあるからだ。このチームがうまくいかなかったのは学者先生方の不協和音のおかげだった。だが、そちらも例の少年の父親のおかげで解決しつつある。
 さっそく、そのフレイドが声をかけてきた。「すみませんね、息子がお邪魔したと思いますが」ふたりで横に並んで、イフニを眺めながら話す格好になった。
「ふふ、なかなか立派な息子さんじゃないですか。うちの娘がイカれちまうのもわかりますよ。戦士の体にあなたの頭脳と政治家の雄弁を同居させている。あんたよりも大成するかも知れん」
「そうですか。良かった。ここに馴染んできているみたいで」
「息子さんも順調、こっちもまずまず。何も心配は要りませんな。私はじゃあ、ヴィクトールのほうの監督に行ってきます。あちらはこっちと違って頭がないですからね」
 ブラッドから開発チームに要請が出ていたで件ある。ヴィクトールは高性能量産モビルスーツだが、ブラッド機にイフニと同タイプのサイコミュ搭載を希望したのだ。ブラッドはイフニに乗る予定ではあるが、イフニの能力が未知数で、実際今すぐ戦争となれば計算に入れられるかどうかは微妙だ。ならば、ヴィクトールの強化も行っておくべきだった。ブラッドいわく、「イフニのパワーはすごいけど、それよかサイコミュレーダーの方が役に立つ」のだ。
 ターン=Aタイプにはサイコミュは搭載していない。ターン=Bタイプには搭載してあったが、あまりブラッドの気に入らなかったようだった。Bタイプに搭載されたのは攻撃型のサイコミュだ。モビルスーツの機体を一部はずしてサイコミュによる遠隔誘導攻撃ができるようにしてある。ブラッドはそれを操ることができたが、「攻撃的な気分に駆り立てられて、疲れるし、頭痛がする」という代物だった。おまけに、遠隔サイコミュの欠点として、パイロットの意思を周囲の空間に向けて発振してしまうので、同一の戦場にニュータイプのパイロットがいた場合、意思を読み取られてあっさり撃墜されたり、変な干渉を起こしたりする可能性もある。
 イフニには、サイコミュ自体は搭載した。ただし、目的は誘導攻撃ではなく、周囲の戦場の把握である。ミノフスキー粒子のおかげでレーダーは役に立たない。モニター越しに見る宇宙空間では前方以外の把握は難しいし、遠くも見づらい。そこで、サイコミュにより、敵機に乗った人間の精神状態の情報収集を行い、それ以外にもイフニの全身のあちこちに備えられたカメラの画像から、周囲の3次元把握を行い、パイロットの精神へダイレクトに入力する。これで、レーダーの代わりをさせるのだ。
 周囲の敵パイロットの精神状態の収集、というサイコミュは古くからあった。それに、一年戦争の伝記などに出てくるパイロットの中には、サイコミュ機器の助けがなくてもこれができる剛の者がいたことになっている。
 イフニのサイコミュの新機軸は、後者の「カメラ画像を人の精神にダイレクト入力する」の方である。ニュータイプのエースパイロットといえども凡ミスで機雷に接触したりするのだが、そういう事態を回避できるのだ。
 レーダーなしの機体と、超高性能のレーダーをつけた機体では、戦闘能力の差は歴然であった。
 今から、ドースンは、ヴィクトールへのこのサイコミュレーダーの搭載を監督する。今晩は寝られないだろうが、明日の晩は妻と娘の顔を見に家に帰るつもりだった。

 結局、最終調整は、夜を徹し、翌日の午後に一応の完成となった。疲れ果てた技術者や職人たちは家に帰り、一時の安眠をむさぼろうとした。ラボは閑散とし、建物と周囲の空気さえもが、一時の休息にひたっているかのようだった。

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 イフニとブラッド専用ヴィクトールに搭載されたサイコミュの概要を語ってみました。理屈上はこれで、手足なし、盲目でも操縦できるという、恐ろしいシステムになります。
 前章、ちょい役で登場のドースンおとうさんですが、ここから本番です。