ガンダムイフニ

(9) オペレーション-2

「似合うな、金髪も。愛してるよ、マリリー」長身で筋肉が引き締まったラテン顔のいかにもプレイボーイ風の男が、金髪に染め直し、髪の毛を短めに切ったマリリーを抱きしめ、長いキスを交わした。
 どうして、こんな男に惚れたのか。自分でも不思議だった。見た目どおり、付き合った相手が何人いたかわからないし、今でも艦の数人と気が向けば寝ている仲のはずだ。もっとも、寝た相手の数では任務でやらなければならないマリリーのほうがもちろん上だろう。
 まあ、ひとつにはセックスのテクニックがあるのは認めよう。もうひとつには、自分の穢れた体を相手してもらうのには、やはり穢れている相手でないとどこかつりあいが取れない、といった妙なバランス感覚があったからだ。
「パット、時間があんまりないのよ」マリリーは言ったが、手は男のたくましい胸を滑らかになでさすり、敏感な頂点を刺激していた。
「おまえがいない<ヘスティア>なんぞ、沈んじまったほうがいいかもな」パット=リニーサは情熱的にマリリーの乳首に唇を這わせ、手早く下のほうにも進んでいった。
 二人とも、いつになく激しかった。わかっているのだ。もう二度と愛を交わすことはない。数時間後には、二人とも肉体は蒸発して、魂は主の庇護の下ヴァルハラに遊ぶことになる。ホテルの外には河――太陽光を取り入れるガラス面――が広がる。きらきらとして一見美しいが、そのすぐ外は生命を拒絶する虚空である。マリリーは激しい動きに汗を流しながらも、寒気を憶えた。宇宙で散った魂が、ヴァルハラにたどり着けるのか。そもそもヴァルハラなど、たわごとではないのか。マリリーの不安と恐怖は、肉体の喜悦で消せるものではなかった。

「どうして、こんなに大型ミノフスキードライブを余計に作っているのか、知りませんか」ラボの中でも端の方である。フレイドがドースン=ウィルキンズと一緒に歩きながら聞いた。「アーク型の2番艦にはもう4発のドライブのマウントが終わっている。この残りの30ものドライブを何に使うつもりなんですか、オットーは」
「あっしは一介の職人にすぎないんで、ええ。難しいこたぁ知りません」急にいんちき臭いスコットランド訛を強めながらドースンは答えた。「ここからは、あっしの独り言ってぇこって」一段と声が低くなる。
「何か、大きな質量を、それも高加速をかけるのにしか、ミノフスキードライブはいりません。大きな質量を何に使うか? いいですか、これだけのミノフスキードライブがあれば、小惑星帯の標準サイズの石っころなら、2週間もあればもってこれるんです。資源回収にはこんなにいいものはないと思います。ですが、そういった平和的な目的に使うのに、ここまで極秘にする必要はまったくない。では、エウーゴ首脳は何をするつもりか?」
 フレイドは愕然とした。「武器に使うんだ。そう考えておいでですね?」
「そうです。コロニー落しは宇宙世紀が始って以降、何度も試みられました。そのうちのいくつか地球に落ちましたが、地球の生物が壊滅するほどのダメージを及ぼすには、コロニーは質量が小さい。それに、所詮は中身が空っぽの筒だから、あまり勢いよく大気に突っ込ませると分解してしまう。スピードを殺す必要がありますが、それだけ防御側に余裕を与える。コロニー落しは根本的にうまくない作戦だ」
「だが、小惑星なら……」
「シャアの反乱事件で、かなり大質量の小惑星落しが試みられました。だが、これも失敗した。伝記では一人のエースパイロットがモビルスーツでこれを押し返したことになっていますが、根本原因はやはり防御側に時間を与えたことです。地球の大気は意外と弾力性があります。大気にはじき返されずに地表に落下させるためには、スピードを落として、ふんわりと落下させる必要があったんです」
「なんてことだ。あなたは計算して確かめたんですか」
「そう、いちばん簡単に地球を撃滅するには、大質量の小惑星を、猛スピードでまっすぐ直角に突っ込ませることです。ジャイアントインパクト――恐竜を絶滅させた隕石衝突――を再現する」
「質量しだいでは、軌道が変わってしまう……自転スピードも……何もかも変わる。地表では誰も生き抜けない」
「大きなやつが海に落ちれば、高さ数千メートルの津波です。そのあとは、氷河期。そして、おっしゃるとおりの自転、軌道の変化に伴う気候の変化。生き続けられるのは、動植物とも数センチ以下ものだけでしょう」
「大きなものを落として、地球の軌道が変われば、コロニーも影響を避けられないでしょう? 小さいものを地球に落とすのなら、こんなにたくさん、ミノフスキードライブはいらない。なぜ、オットーはこんなことを?」
「オットーが考えたかどうかはわかりません。私はむしろジャック=ブレナンを疑いますね。彼は頂点に立ちたがっている。コロニーも打撃を受けますが、L2ポイントは月の引力の影響が大きい。一番ダメージが少ない。何とかなると思っているのでしょう」
「正気の沙汰じゃないな。100億人の人殺しになる重みに、耐えられる人間が存在できるとは思えないのですが」
 つぶやくフレイドを、ドースンはちょっと眺めてから言った。
「ねえ、ランドー博士。あなたは地球に愛想が尽きて、宇宙に上がってきたんではないんですか? 実際に100億の人を皆殺しにするとなれば、つらいでしょうが」
 ドースンは話のわかる男である。技術の話はミイナやレイよりもむしろドースンのほうが通じやすい。それに、息子と娘が懇意になりかけているらしい。友人だと思っていた。だが、フレイドの真意は、ドースンもわかっていない。説明するべきだろうか? だが、フレイドは避けた。「抑止力、ということですね、ドースン技師長」
 私は大人の理屈で妥協をしようとしている。イアンよ、おまえはどうなんだ。私よりも、強く生きることができるのか。

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 おや、この作品中、初のセックスシーンですね。あっさり流してますけど。何度か書きましたが、「ああ」「いい〜」みたいのは、書かない(書けないんだよ、認める)ので、そこんところ、よろしく。