ガンダムイフニ

3戦争

 過去も未来も、人類の文明的な発展は、地球を中心になされると私は思います。そして、我々ガイアの子らが、地球でが果たさなければならない役割というのは非常に大きいのです。
 人間は母なるガイアの下から離れると、堕落し、サタンと一体化して神性を失い、欲望のケダモノと化す。その魂に対しストップをかけ、そして高い世界へ至らせる。――つまり、ガイアの法に従わせるために、我々は存在するのです。
 ガイアの愛を感じ取りなさい。そして、ガイアの愛を受けられるように積極的に行動するのです。エコを汚すものどもを軽蔑なさい。エコを保つものを愛し、用いなさい。まずは、そこから始めるのです。

教皇ロード=リリンの演説 UC183

(1) <ハンマー>-1

 ギニア7の救助は一段落している。ノートンはいよいよ決断が引き伸ばすための口実がなくなったことを認めざるを得なかった。今までは人道目的が口実で、<グリーンランド>をギニア空域に漂わせ存在感を示しながらも、市民の反発を買うことはなかったのである。だが、モラトリアムは終わった。
 ギニアを武力制圧の形で制圧・駐留し、エウーゴという病巣を一気に摘出するか。あるいは今は撤退し、恩を売り、痛みを散らすか。
 前者は患者がショック死する危険を秘める。後者は再発の可能性を残す。
 ノートンは自分の本性を知られることを恐れる。武断型などとんでもない。臆病ですらあると、自分では思う。あの、ラムセスのとき。G4を使う決断さえ下せれば、今ごろは将官だろう。だが、恐れる。他人の意見を。自分の良心を。
 艦長室は居住区の中で、最もブリッジに近い。窓は狭いが、視界は広く取れる。窓のそばによると、真空に傷口をばっくりとさらす7番地が見えた。周囲にはさまざまなごみが漂う。吸い出された市民の遺体を含めて。ランチが回収作業にあたっている。点滅するビーコンが泣いているかのようだ。
 これを招いた原因は何か。エウーゴの狭量か、狂信者の暴走か、連邦の優柔不断か。
 考えた。
 決断した。自信はない。今回、一番腹が立ったかことは、この事態を防げなかったことだ。それもそばにいながらなにもできずに。事件の中心にいて、積極的に関わり、それで失敗するならまだ我慢できよう。
 損な性分だ。こうしてトラブルの真っ只中に突入していくのだからな。女房と子供に逃げられるのも当然だ。私室を出て、短い通路を渡り、エレベータに乗り込み、ブリッジへ向かう。ブリッジに入るなり、ハーヴェイがこちらの表情をちらっと見て、微笑んだ。
「総員! 第一戦闘配備! <グリーンランド>はこれからギニア1に向かう」全艦放送でどなり、マイクを切って続ける。「オペレーター、ギニア1にレーザー通信を可能な限り早くに開け。ジャック=ブレナンに艦長が会いたがっていると伝えろ。会談の内容はこうだ。ギニアの治安維持は以降、本艦が担当する。そちらの私兵の武装解除の手順を話しあいたいとな」
 例の新型艦は7番地空域を漂っている。あれが一番の戦力ではあるが、彼らが逃げ出すと決めたら、どうがんばろうとこちらの足では追いつけない。ならば、彼らの本拠地の喉元にナイフを突きつけ、脅してこちらの要求を飲ませよう。卑怯な手であるが、他に手段はなかった。

 サイド5<パナマ>で、記者会見が行われようとしていた。主役は、アルディン=ローン。パナマ外遊中の、<ギニア>下院議員である。
「各マスコミの記者の皆さん、わざわざお集まりいただきありがとう」
 語り口は穏やかだが論理は鋭く、白人とアジア系の混血と思われる透明感のある白い肌と整った顔立ちで、資金力も豊富であり、若手ナンバーワン政治家といわれている。次回の大統領選ではブレナンに対抗して出馬するのでは、といううわさもある。
 何をこれから語るつもりなのか。事前に情報は何も入っていない。いらだちながら、オットー=ラインバルトはソファーに座ってテレビ画像を見ていた。ギニア7の私室は、もちろん跡形もない。今は5番地、ジェネラルの本社そばの自宅に戻っていた。決して広い部屋ではないが、科学や技術の本や雑誌が立派な木の本棚に収められ、化学模型がオブジェとして飾られている。落ち着いた雰囲気は、住むものの知的レベルの高さをうかがわせる。
 ギニア7襲撃事件で、ジェネラル技術者は多数の技術者を失った。やりきれない思いでワイングラスを傾けていた。
 部屋に秘書のマリシアが静かに入ってきた。そばによってくる。長い髪からいい匂いが漂い、豊満な肉体からは体温が伝わってくるようである。「何か?」だが、オットーは画面から眼を離さずに聞いた。
「例の連邦艦<グリーンランド>がブレナン大統領に会見を申し込んでいるとの情報が入りました」
「会談の目的はわかるか」
「エウーゴの武装解除を要求しているとのことです」
「なに……」
 テレビの中で、アルディンが語っている。『このたびのギニア7番地襲撃事件では、数多くの我が市民が命を失い、悲しく、涙を禁じえない。亡くなられた方への哀悼と、ご遺族へのお悔やみを申し上げます。また、この大事なときに外遊をしていた私が、職務をまっとうできていたか、自らに問いたださねばならない。市民の方々の非難は甘んじて受けましょう』
 アルディンは痛切な悲しみの表情を作ってみせた。オットーは、役者め、と口の中で毒づいた。
「座れ」自分の隣のスペースを指し示し、秘書を座らせる。彼女はオットーにしだれかかるようにした。オットーはワインを口に含み、マリシアに口移ししてやる。彼女は飲み干した後、指示を求めるように熱っぽい眼をオットーに向けた。オットーは何も言わず、自分の下半身を眼で指した。
 彼女がオットーを口に含んだ後、テレビに視線を戻す。右手にワイン。左手はマリシアのバスト。
『このような悲劇を招いた責任は誰にあるのか! 私はこれを明らかにする証拠を得た。まずは、聴いていただこう』あいかわらず、劇的な口調と表情で、アルディンは聴衆をひきつけていた。

『どういうことなんだ、コロニーを砲撃するなどと!』
『見てのとおりだよ、大統領。ギニア7の破壊が終了したら、次は1番地だ。待っていてくれ。これ以上の通信は無意味だ。切らせてもらう』
『待て、待ってくれ……。約束が、違うじゃないか!』

 左手が、柔肌に食い込んでいることに気づいたのは、マリシアがうめき声をあげたからだ。
 私の野望は、ここで終わるのか。ブレナンは失脚するだろう。次の大統領はアルディンだ。アルディンとヤマトは、連邦軍からのマシンの発注を条件に、融和策をとり、スペースノイドは地球に屈服し、ジェネラルはヤマトに吸収合併される。
 冗談ではない。そのままいけば、連邦と狂信者たちに人類はミスリードされ、滅んでしまう。まだ、時間はあるはずだ。やれることも。
 秘書を解放し、立ち上がって身だしなみを整える。
「ターン=プロジェクトのコアメンバー全員を<アーク>に緊急集合させたい。<アーク>を5番地に入港させよう。私も、<アーク>へ向かう。それから、ロンバルディ副大統領へコンタクトを取ってくれ」
 テレビがまだわめいていた。『この事態を招いた大統領の裏切りは明らかだ。遺憾である! 私はギニアに帰り、市民の声を結集し、議会で大統領を弾劾する! 悲劇のツケを払ってもらわねばならんのだ!』
 オットーは、見たような気がした。最後に、一瞬アルディンはにやりと笑ったのである。いや、表情は変わらなかったかもしれない。他の視聴者には何も伝わらなかっただろう。オットーは、ディスプレイを叩き割りたい欲求を抑えるのに、かなりの自制心を使わなければならかなった。

「アーク級の二番艦の建造については、まだ<グリーンランド>にはキャッチされていないな」
 運転など、それこそ誰かに任せればいいようなものだが、こういった雑事を面倒とは思っていない。オットーの若さである。自分が運転している間は、マリシアの手が空いているからノートPCでいろいろ調べられるのだ。
「<グリーンランド>の注意はほとんどすべて<アーク>に向けられています。気づいた様子はありません」
「建造の進捗状況は?」
「60%といったところです。船殻にジェネレータとドライブがついただけで、武装やモビルスーツデッキ、カタパルト、居住区、何もできていません」
「だが、動かせるな?」
「移動させるだけなら、可能でしょう。……副大統領からコールです。つなぎますか?」
「ああ、頼む。……オットー=ラインバルトです。副大統領、わざわざコールいただき、ありがとうございます」
『ロンバルディだ。オットー、運転中かい?』エレカに備え付けのモニタに、不安そうな美青年の顔が映った。
 シーン=ロンバルディ、<ギニア>副大統領。ジャック=ブレナンその人でさえ50前なのだが、この副大統領に至ってはオットーより年下の32歳である。経験、能力とも取るに足らないが、副大統領に能力は必要ない。それより女性票が欲しかったブレナンが大抜擢をしたのである。エウーゴの中核メンバーの中で、年がオットーと近いため、ロンバルディはオットーと親しくしているつもりであるが、オットーの方はお付き合い程度と思っている。だが、大統領が失脚直前の状況であり、副大統領にスポットが当たるときだ。
「副大統領、お願いがあり、コールいたしました」
『なんだい、オットー。堅苦しいじゃないか』
「アルディンの記者会見はご覧になりましたか」
『ああ、見た。アルディンのやつ、どうやってあんな情報を手に入れたんだろう』
 低能副大統領め。不思議がってないで、対策を打てないのか。だが、オットーは、彼らの政治生命の延長に興味はない。エウーゴにとってのこのピンチを切り抜け、チャンスに変えるのだ。
「まったくです。お願いというのは、エウーゴのことです。大統領が辞任ということになれば、次期選挙までの間、あなたが大統領代行です。あなたがエウーゴの指揮をとることになります」
『そ、そうだな、エウーゴの指揮か』うろたえぶりが非常にわかりやすく声と表情に出ていた。
「率直にお尋ねします。軍の指揮を執る自信がおありか?」
『わ、私は、政治家だ。軍人ではない』
「指揮がなければ、エウーゴは張子の虎も同然です。今がもっとも必要なときなのに」
『そうだ。どうすればいい?』
「指揮を誰かにお預けになればよいでしょう。スニード将軍がいらっしゃいます」
『あの老人か。彼なら軽挙妄動はしないだろう』
「では、将軍にご指示をお願いします。そして、お手元において、常に助言を仰ぎますよう」
『ああ、そうするよ。ありがとう、君のアドバイスはいつも的確だ。感謝してもしきれない』
「とんでもありません」
 同じ無能でも、本人にその自覚があれば、周りは助かるのだ。さて、これでフリーハンドを得たわけだ。作戦は、変更を余儀なくされる。戦力も、乏しい。だが、成算がないわけではない。こういうときのためのシナリオを用意してある。

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 第三章<戦争>篇スタートです。ただ運命に流されていた登場人物たちが、自ら選び取って道を切り開いていきます。いままでも少し登場していたオットー=ラインバルトですが、ここからが策謀家としての本骨頂です。マリリー亡き後のセクシーキャラ、マリシアも本骨頂(笑)。
 ローランドのフィアンセ兼秘書のカリンとオットーの性欲処理係兼秘書のマリシア。ちょっとキャラがかぶっちゃいました。