ガンダムイフニ

(2) 死神-2

「テストは最終段階です」ガストールはローランドに自慢げに語った。やせ細った白衣の男で、髪にも顔の肌にもハリがない。俺より二つ三つ年下のはずだが、そうは見えない。どう見たって50近いって感じだ。生物兵器の研究を続ける過程で、怪しげなものに汚染されたのかもしれないな、とローランドは思った。
 薄暗い廊下が20mあまり伸び、右手にはマジックミラーが仕掛けられた小部屋が並ぶ。感染の進捗に応じて、5部屋。一番手前の部屋は、まだ感染初期。全裸の若い男女4名が収容されていた。
 何で全裸なのか? ガストールの趣味か。研究者のくせに変に世間ずれしたところがあって、ローランドはもともとガストールが好きではなかったが、狂信者どもの推薦には逆らえない。そういえば、あの男はどうしただろう。童顔の、いかにも研究者然とした、ナノマシンが専門だといっていた男。
「服を着せないのは症状の確認をしやすくするためです。なんといっても、直接額に手を当てて熱を測ってやるわけにはいきませんから」さも面白い冗談であるかのように、くすくす笑いながら、ガストールは補足説明した。
「どういった連中を連れてきたのか」思わず聞いてしまった。
「この近辺でうろついていた堕落した若者たちですよ。あの小部屋でもさかりだす様な連中です。まさにくずですな」
 やはり聞くのではなかった。それを見て、さかっている変態野郎だ、こいつは。
 廊下を進むにつれ、収容者の症状の進行が進む。ぐったりと横になったり、部屋の隅で小さく震えていたり。
 最後の部屋について、ガストールがうれしそうに言った。
「これはちょうどいいタイミングですよ。ビデオをお見せする必要がなくなるかもしれませんな」
 部屋の中央のベッドに横たわっていた肉塊は、かつては女性だったのだろう。全身の皮膚がむけてしまっているようだ。肉塊は痙攣しながら血交じりの液体を滲み出させていた。
ひときわ痙攣が激しくなったと思ったとき、腹がおかしな形に膨らんだ。
「さあ、見ていてくださいよ」ガストールが手をこすり合わせながら、うれしそうに言った。
 女性の腹は破裂して、天井に届かんばかりの勢いで中身を吹き上げた。血、体液、腸。
 ローランドは目をそむけた。朝食に食べたカリンの手作りのベーコンエッグを吐いてしまいそうだ。いや、ベーコンエッグのことを考えたのはまずかった。
「どうです、たいしたものでしょう。こうやって感染者がさらに<エンジェル=ダスト>を文字通りばら撒くのです。そして、このウィルスは人以外に感染しないように、慎重にターゲッティングしてあります。地球環境を傷つけることはありません。地球には選ばれし少数の主の子だけが残り、地上の楽園を実現できるのです」うっとりとガストールは語り続けていた。真性のマッドサイエンティストってやつだ、とローランドは唖然とする思いである。
「……ワクチンのほうは、どうだ」吐き気をこらえ、額にはじっとりと脂汗がにじんでいたが、口調は冷静を無理やり保ちながらローランドは聞いた。
「一番症状レベルの低い部屋にいた一人には、ワクチンを注射してあります。すでに2週間がたちますが、感染を示す兆候はありません。だいたい感染して丸一日で発熱等の症状が出て、三日で死に至ります。十分ではないかと思いますが、あと数名同じ追試をして、確認をとろうと思っています。これに、さらに2週間程度。それから、ワクチンの大量生産を行います。予定の100万人分のワクチンを生産するのには1ヶ月程度かかると思われます」
 1ヵ月半で、<血の災い>は実行可能ということか。<サイクロプス=アイ>の方の試射も、そのころには可能になる。200億人の人口を、一気に100万人まで減らす。その両輪となる計画の遂行が、ローランドの一手に握られているのだ。
「よくわかった。詳細についてはレポートをメールで送ってくれ。目を通しておく。……ト、トイレはどこかな」ガストールに案内されるのはしゃくだったが、もはや我慢できなかった。トイレに駆け込み、吐いた。ここのところ働きすぎということもある。さっきの内臓噴出ショーもある。だが、原因はプレッシャーである。199億9900万人の命を絶つことは、軽くない。絶対に、軽くないのだ。
「大丈夫ですか」薄ら笑いながら、ガストールが背中をさすろうとしていた。手を払いのけた。こういう想像力のないやつに、同情されるなど、嫌だ。

「手に入ったか?」研究所から走り出たエレカの後部座席で、ローランドは隣に座る秘書のカリンに聞いた。
「ええ、うまくいったわ」
「すまないな、いつも」
「いいの。私の素性と過去を知った上で、まだそばにおいてもらえる。私は幸せな女。あなたに恩返しすることが、私の喜びなのよ。わかって」
「そういう物言いはよせ。俺はおまえを愛している。同情も打算もない。本当なら、平凡な家庭でも築ければいいと思っている。このごたごたが片付いたら、必ず」
「ありがとう……」
 言葉に偽りはない。だが、カリンが持ってきた一枚のディスク。この中に、地球の100億の命を救うワクチンの設計図が入っている。そのことは、二人の愛よりも、はるかに重い。ローランドはそう思わざるを得なかった。

 にらんだとおり。あの美しい女が実行犯だった。ダミーのデータに引っかかった。そして、ローランド大佐。証拠はつかんだ。次は機密漏えいを未然に防ぐ手を打たねばならなかった。最もすでにデータが流出していないという前提の下だが。こちらがおおっぴらに動けば、ローランドもすぐに逃げ出してしまうだろう。<サイクロプス=アイ>の正体が外に知れてしまう。ゆっくりと、落ち着いてやれ。男は若々しい整った顔を引き締めた。司祭服がきらびやかである。いつか、ガイア幹部の会合を取り仕切っていた男。<ナハティ>の名で呼ばれている。
 コンピュータとモニターが並ぶ薄暗いセキュリティルームで、ナハティは席に座ってカリンが研究所のコンソールからデータを抜き取ってディスクに落としていく姿を確認していた。その後ろには背の高い、顔の白い男が立っている。顔はあくまで無表情である。決して寒くはなかったが、コートを羽織っていた。男の周りだけ、まるで温度が下がっているかのようだ。ナハティはちょっと振り返って、この男を自分に使えるのか、不安に思った。
「あの二人をやればいいんだな」男は抑揚のない声でしゃべった。
「そうだ。だが、だが、殺すのが目的ではない。情報が外に漏れるのを防ぐのが最優先だ。忘れるな」
 ナハティは男の感情を映さない白い能面のような顔を見て、吐き気がしてきた。人殺しを生業とし、それどころか楽しみとする男。
「わかっている」聞く者の心を冷やすバストーンの返事が返ってきた。

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 うぎゃ〜。あんまり猟奇的なのは趣味じゃない・・・んですよ、ホントは。スティーブン=キングも読まないし、たいがいのホラー映画は15分くらいで怖くて見なくなっちゃうし、<バイオハザード>も人から借りて30分やって怖くて返しました。まじです。でも、書くとこんなです。