ガンダムイフニ

(3) ニイタカヤマノボレ-2

 指定された海域で、ローランドは救命胴衣の浮力に任せて漂っていた。モバイルパソコンはコクピットに備え付けてあった簡易パックに入れてある。普通は宇宙空間の真空にさらすと傷んでしまうような小物をパックするのだが、今は海水からパソコンを守ってくれている。救命胴衣のほうが問題だ。パイロットスーツを着たその上にさらに浮力が必要な場合に備えるものであり、今のように軍服にダイレクトにつけることは想定されていないらしい。大きいのだ。胴衣にしがみつくのに努力が必要である。
 さっきモビルスーツの一編隊がかなり離れたところをパスしていった。無人のヴィガンを追っていったのだ。俺のモビルスーツ操縦は素人だが、素人を助けてくれるために、オートパイロットの機構があるのだ。使って何が悪い。
 指定の時刻まで10分くらいだが、一秒でも早くヨンキエの連中が来てくれるように祈った。海水は冷たい。何とか我慢できるが、1時間も放置されると生命にかかわる事態になるだろう。そして、臭い。今の時代の人間は海水浴なんてしない。海水は鼻がもげそうにくさいからだ。生物が腐ったにおいと油のにおいが混じっている。
 救命胴衣には救助信号が発信できる機能がある。まだだ。まだ使えない。南極軍にも届くが、敵にも届く。指定の時間になったら、使おうと決めた。

 指定の海域だが、何もない。ルードは徐々に焦りを覚えた。ガルムがさっき<スモウ>の一団を視認している。指定時刻まであと5分。時間はない。
『なぜここにいないと思う?』ハットンからの海中電話だ。
「来られなかったのでは?」ルードは絶望感を言葉ににじませて、答えた。
『だったら、スモウがこんなとこうろついたりしない。流されたんだよ、海流で。お客さん、少し早く着いて、浮かんでるんだろう』ハットン。
 なるほど、とルードは思う。この一ヶ月、マリナーとしてハットンに鍛えに鍛えられた。海という場所。ハットンいわく、旧世紀には生物もたくさんいて、もっとロマンチックな戦場だったらしい。今でも十分ロマンチックだとルードは思う。臭いを除けば、だが。
 そのとき、ピーっという音が海中を伝わってきた。
『まずい、お客さん、我慢できなくなって、救命信号を出しやがった。方向は北だ。いくぞ、敵も来る!』

 救命信号の方向へ海面を観察しながら加速すると、すぐにモビルスーツが航行しているのを見つけた。
「あれか!」メッターは標準を絞って、狙撃した。

「きたきた!」ルードは一気にジェットを吹かし、丸い機体をトビウオよろしく海面に飛び出させた。ビームを回避する。水面に落ちるまでにミサイルランシャーを乱射した。2発目のビームが来るまでに、急いで潜らなければ。潜れば、生き延びられる。念仏のように唱える。

 漂っているだけかと思ったカブールは、いきなり空中に飛び出るなり攻撃してきた。意外なすばやさにメッターは2発目を照準できない。アイガイオーンに潜水能力はない。ビームは海水中では急激に減退する。ちょっと潜られれば届かない。サンターナがミサイルランチャーを装備させた意味がやっとわかった。レーザーロックをかろうじて取ると、全弾一斉射した。今度は敵のミサイルを回避しなくては。ミノフスキードライブに火を入れ、力任せに上昇してスピードでミサイルを振り切る。
「くそ!」なんだか屈辱感でいっぱいになった。この俺があんなカブールごときに追い払われる格好になるとは! 忘れない、あいつは。

 ルードは水中にミサイルが大量に落ちてきた音を後ろに聞いた。思い切りのいいパイロットだ。今頃は隊長がお客さんを回収したころだろう。あのモビルスーツはもう相手にしないほうがいい。次は意表をつくことはできないだろう。後ろのミサイルを振り切って逃げるとしよう。ミサイルの性質は? 海中を盛大に泡が出る音が伝わってくるところを見ると、化学ジェット燃料のミサイルのようだ。魚雷ではない。だから、ソナーはないと見た。レーザーロックは汚い海中では役に立たないが、それでも追ってくる音が聞こえるところを見ると、ロックが外れた後はむやみに直進するタイプだ。ぐるっと輪を描いてミサイルを想像で回避する。泡の音は遠ざかっていった。

 初めての苦痛にラキーナはうめいた。メッターはかまわず動いた。前知識など、こんなときに役に立ちはしなかった。
「死神隊の苦いデビュー戦というわけだな」サンターナの冷笑が頭から離れない。
 それでも、休暇は与えられた。メッターは、途方にくれた。故郷のサンティアゴに戻った。ラキーナがいた。そして、イアンはすでに去っていた。
 ラキーナは拒まなかった。
 ラキーナの瞳に、涙がたまっていることにやっと気がついた。
 最低だ。動きを止めて、ラキーナを見つめる。
「いいの、大丈夫」
 メッターも、泣いた。ラキーナの発展途上の胸元に顔をうずめた。ラキーナは、よくわからないながらも、メッターの頭を抱き、その強い毛をなでた。

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ガンダムイフニ

 最後のところは、悩んだんですよね。書くか、書くまいか。書きました。期待通り。
 戦闘シーンですが、表のページの通り、僕自身は海にこだわりがあるので、結構気合入ってます。・・・とはいえ、実際は「レッドオクトーバーを追え(小説)」と「沈黙の艦隊」が唯一の頼り。情けない。