
(4) 石っころ-3
イアンは部屋に戻ってごろりとベッドに身を投げ出した。ブラッド中尉が彼女の面倒を見てくれればよかったのに、と思う。ビビアンがパイロットを志望したのも、ブラッド中尉に認めてもらいたかったからだろうに。僕に彼女の面倒を押し付けてさっさと自室に戻ったみたいだった。あの人の感性は、ぶっきらぼうな物言いとは裏腹に繊細だ、と認めていただけに、がっかりする。
僕に彼女の面倒をどう見ろと? ただでさえ女性の扱いに慣れてないというのに、出撃前で極端にナーバスになっている少女など、無理に決まっていると思う。
ふう、とため息をついて、天井を見るのを止めて、目を閉じた。
ちょっと眠ったみたいだった。部屋の端末が鳴っている。ビビアンだった。はい、行きますよ、と答えて部屋を出た。
「信じられない。寝てたの? あたしがこんなに緊張してるってのに」ビビアンはちょっと怒ったそぶりをした。
「寝るつもりじゃなかったんですけど。気がついたら」
ビビアンの部屋で、二人は、並んでベッドに腰を下ろしている。
「やっぱりベテランのテロリストは違うのね」
言い方にとげがあった。イアンは別に地球で訓練を受けたことを恥ずかしく思っていたわけではないが、それでもボウトあたりに「ガイア教団育ちは違うねえ」などと揶揄されるとむっとする。スペースノイドの側に立って命を危険にさらす戦いをしようとしているのに、当のスペースノイドからのけ者にされるのは悲しい。
「ごめん」イアンが言い返す前に、ビビアンが謝った。「気が立ってるの、やっぱり。情けないとこ見られちゃったね」
「ホートラング大尉に言いましょうか? マクスウェル少尉だってモビルスーツに乗れるんでしょ?」
「だめよ!」強い口調でビビアンはさえぎった。「このチャンスを逃すわけにはいかないの」
「パイロットなんて、いいもんじゃないですよ。ここのところ、自分がいつも死と隣り合わせにいることを感じます。今日にも死ぬかもしれないなって、いつでもイフニに乗ると思うんです」
「イアン……?」ちょっとビビアンがぎょっとしたようだった。
「イフニもガンダムカラーになりました。戦場すべての敵が僕のマシンを狙うようになる。落としてやろう、あれにはエースが乗っている、自分の名を上げてやろうってね。僕は敵の意志をサイコミュを通して感じ続けるでしょう。僕を殺そうとする意思。跳ね除けられるかどうか、わからない。迎え撃つ僕には、生き延びようとする意思が希薄なような気がする」
「でも、イアンは上手だわ……」
「戦いは時の運ですよ、そして運の悪いときは、必ず来る」
イアンは、自分がそんなことをさらりと口にしたのに、びっくりした。こんなにネガティブなパイロットが生き抜けるはずがない。それに、ビビアンへの励ましにも何にもなっていない。彼女がどうせターンAを降りるつもりがないなら、もっと元気になってもらわないといけない。
「ごめん、あたし、自分だけが怖いと思ってた。イアンも、実戦は二度目だもんね?」
「僕は怖くはない。死ぬかもしれない、と思うだけです」
「ねえ、ガンダム=イフニのサイコミュ、逆にパイロットの意思もマシンに伝えるんでしょ? 生きる強い意志をもてば、マシンにそれが伝わるわ」
いきなりビビアンはイアンの顔をぐいと自分のほうに向かせると、自分の顔を寄せてイアンと唇を重ねた。一瞬の柔らかな感触を残して、すぐ離れた。
「あの……?」
「生きる意志を、持てってこと。お互い、帰ってこられたらまたできるわ」
「してくれるってことですか」
「してあげるかもしれないってことよ。パイロットルームに行きましょう」
「うまくいったみたいだな」イフニ専用の対加速ノーマルスーツを着込んでいると、ブラッドが話しかけてきた。にやにやしている。
「なんのことです?」ブラッドがビビアンのことを見捨てる格好で自室に戻ったのを、イアンはまだ批判的に思っている。
「顔がにやけてるし、口紅がついてるぞ」
えっと思ってイアンは唇を手の甲でぬぐう。ブラッドは大声で笑い出した。
「はははっ、カマかけてみたんだが、図星だったみたいだな」
引っかかったというわけだ。イアンは自分の顔が真っ赤になるのを感じた。
「最強最悪のテロリスト君も意外と純朴だねえ」
「その言い方やめてください。何でわかったんです」
「そりゃ、そうなるように仕向けたからさ。おまえがここのところ、あんまり暗いんで、ビビアンに慰めてもらったほうがいいと思ったんだよ。ビビアンも人の面倒を見てた方が、気がまぎれる。そうだったろ? いい娘だよ」
「僕は中尉の手の上で踊らされて立ってわけですか」
「ねたをばらすのが早かったかな? まあでも悪くなかったろ」
「それは、そうです」
「じゃあ、戦って、生き延びろ。ドースン技師長の娘さんのことは気の毒だが、済んだことは仕方がない。おまえは今度こそ、ビビアンを守りきるんだ」
センシティブな上に、大人だ。かなわないと思う。ビビアンがあこがれるのもわかる。悔しいけど。そう思って、にやっとした。僕はこの人と張り合う気でいるらしい。



いい! ビビアン! どう? 女性を書くのって自信なかったんですが、オッケーって自分で思いました!