ガンダムイフニ

(5) 謁見-1

 今日は満月だ。月の冷たい光が、体を貫く。呼応するように、母なる大地から霊気が吹き上がる。取り込むように、エリンは両手を広げて円を描き、自分の胸を抱くようにした。金色に美しく輝く髪がふわりと舞った。閉じていた瞳を開く。まつげが長い。
 クスコの神殿のテラスに、白いゆったりとしたドレスに身を包んだ女性が立っている。
 充分に霊気を浴びられていない。ここ数年で、だんだん弱くなっている。キトで大規模な工事がされているという。大地はますます傷ついているのだ。瀕死といってもいいのではないだろうか。美しい弧を描いている眉毛が、内側にゆがんだ。
 ナハティは、それも宇宙の民たちのせいだという。宇宙の民が、地球の資源を奪い取り、汚している。だから、エリンが地球の霊気を体にため、男に与える。宇宙の民と戦える力を、エリンが男たちに授けるのだ。
「ロード=エリン、今日のお勤めをお願いしますです」後ろからコレン=ナンダーの乱暴な声がした。15歳の少年ではあるが、屈強であり、腕力は誰にも負けない。
 ふっとため息をつく。「わかりました」落ち着いた声で返事をした。部屋に戻る。
 男の前に出るまでに、大きく深呼吸をする。レベル1。自分を徐々にトランス状態へ導いていく。レベル2。男が薄暗い部屋の中に跪いている。レベル3。魂が、体を離れる。自分の体が、歩いているのを、上から見下ろした。か細い肢体。これのどこに男が夢中になるのかわからない。ただ、霊気を吸い込んでいて、ぼんやりと光っている。
 今日は、マトナウ、という洗礼名の男。でぶで、髪は薄い。下半身を固くしたまま、跪いている。まともな状態なら、逃げ出すような相手である。「たちなさい。ガイアの実りを授けましょう」自分の声がした。
 おずおずと男が立ち上がる。自分の右手が光ったまま男の胸に触れる。男はうめき声を上げた。多分、達してしまったのだろう。ナハティに言わせると、このとき男はすばらしい恍惚感と同時に神のヴィジョンを見るという。大地の女神、ガイア。
 正気を取り戻して、いつものとおり嫌悪感を覚える。体はすでに霊気を失っている。男を置いて、沐浴に行くことにする。
「嫌なら、おやめになっても、よろしいのではないですか」いつもの、コレンのぶっきらぼうながら、心のこもったアドバイスがある。彼の言うとおりにできたら、どんなにいいだろう。

 メッター=アルドレスは憔悴しきっていた。この1週間、昼夜を問わず、スクランブルに継ぐスクランブルである。ゲリラとはこんなにもいやらしいものかと思う。本来、ガイアのほうがゲリラとなってスペースノイドと戦うはずだった。それが南極軍を相手に回して対ゲリラ撃滅戦に従事しているのだ。連邦正規軍が出ればよさそうなものだったが、正式な宣戦布告がない状態だということで、連邦は内戦を認めたがらない。だから、ガイアの中でも影の部隊である死神隊が便利屋としてこき使われているのだ。
 隊員も疲れ切っている。例外は、サンターナ一人。あいつは、超人だ、とメッターはいやいやながら認めざるを得ない。メッターの野心にとって、有能な上司は必要だが、有能すぎるのは問題だ。いつか、こいつを越えねばなるまい。
 それに、なぜかもう一人、例外がいる。サイクス。不思議に、顔にはいつも血の気があり、サンターナの指示に熱心に従っている。その物腰に、はっとさせられるものがあった。メッターは、できやがったな、と思った。サンターナに、<女>にさせられたのだ。サンターナの変態趣味は知らないわけではなかったが、こうもそばでやられると、吐き気がする。今のところ他の隊員は気づいていないようだし、サイクス自身の動きもいい。他に悪影響が出なければいいが。
 今日は1隻M型潜水艦空母を沈めた。アイガイオーンに急遽潜水オプションが支給されたおかげだ。肩に水流制御用のスタビライザーを着けた姿は情けないが、効果は抜群だった。だが、敵はあいつではなかった。あの初めての戦闘のときに、馬鹿にしたように水面を跳ねたカプール。
 また、出撃の耳障りなブザーが鳴り響く。俺は、このままだと壊れるな、と思った。

「南極軍にエウーゴが支援を送ったとの情報だ。合流される前に、宇宙に出て、これを叩く。出撃に当たり、教皇ロード=エリンが励ましの言葉を下さるそうだ」サンターナが、ミーティングで口にした。
 隊員が、わっと声を上げた。皆、メッター以上に疲れている。だが、教皇その人への謁見がかなう。親や友達へ自慢できるし、何よりあれだけ天使隊で守るべき対象として叩き込まれた方である。聖顔を直視すると、目がつぶれる、の類の教育はなされていない。ただ、高揚感と恍惚感を経験するらしいといううわさはあった。サイクスにいたっては早くも涙ぐんでいる。その顔を見て、メッターは、サンターナへの変態的な愛情と、宗教心は両立するものか、と変な感想を持った。
 メッターは、思う。ここで教皇と謁見できれば、自分のキャリアには役に立つだろう。熱狂的な信者を時には演じているが、心の中は常にクールである。イアンにさえも、本心は明かしたことはない。

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 コレン=ナンダー君登場です。ターンAガンダムでの言動(かなり妙)から、黒歴史の生き証人であることは明らかですが、「じゃあ、どういう風に噛んだのよ〜」っていうと使いどころが難しい人物です。とりあえず、少年コレンを作ってみました。
 サイクス君は、ねえ。これ。あああ。