
(6) 邂逅-3
「目を開けて! 敵を良く見て!」
『いやあ、来ないで! 来ないで!』
ルーキーは艦の防御をやらされることが多い。理由は、艦の戦闘力そのものにより危険が少なくなることもある。が、それより、艦の高性能レーダーからの情報と管制官からの指示がもらえることから来る安心感が大きい。これが何よりもルーキーの生還率を上げるのだ。
だが、ビビアンに関して言えば、完全にパニックに陥っていて、管制官の指示など耳に入っていない。管制官席についていたジョリーンは丸々とした体をいらだたしげに震わせた。やはりあの子にパイロットは無理だったのだ。だが、後悔はあとでゆっくりすればよい。とにかく彼女を落ち着かせて、戦力にしないと、<アーク>が落とされて、後悔もできなくなる。
敵の<スモウ>はやけにいい動きをしていて、味方の<フリア>のヴィクトールは太刀打ちできていない。すでに6機中、2機が撃墜されている。<フリア>も相当被弾し、船体は地球に降下できる状況ではない。ということは、軌道上に置き去りにされるわけだから、どちらにしても、生還はできない。<フリア>のクルーもそれをわかっていて、<アーク>の盾になるように<フリア>を矢面に立たせている。
「すまないな……。感謝する」キャプテンシートのフロストが、手元のディスプレイに小さく敬礼している。多分、<フリア>の艦長と通話しているのだろう。
どうする。ジョリーンはボカボカと自分のヘルメットを叩いた。ビビアンを立ち直らせてターンAを戦力にしなくては、<フリア>の犠牲も無駄になる。
「ほら、ビビアン、しっかりして。5分でいいの! 戦って! スモウはバリュートを装備していないわ。降下を始めるまで、生き延びなさい!」
『そんな、無理……』涙声が返ってきた。返事が来るのはまだましな証拠だ。
「あなたががんばらないと、イアンもブラッドも帰るところがなくなるわ」
ディスプレイ上の敵の動きに変化が出ていた。敵は6機のモビルスーツを2つに分けだした。<フリア>を死に体と見て、<アーク>攻撃に3機を割いたのだ。ターンAの射程距離に入ってきた。ということは、向こうの射程にターンAが入ったということでもある。
「注意して! 見えるわね、敵は3機よ。とにかく逃げなさい。余裕があったら、反撃して!」無理なのはわかっている。敵は小憎らしいまでに統制の取れた動きでターンAを包囲しつつあった。
そのとき、地球から、三発のビームがきらめき、一機のスモウの足を吹き飛ばした。
「この! 何しにきた! 地球にいればいいだろッ!」
猛加速中なので、声ははっきりしなかったが、イアンはこういったつもりである。アイガイオーンはいい動きだった。だが、こちらに気づいていなかったので、動きは予測できる。スナイピングした。3つ撃って、1つは当たった。1つは外れた。1つは、かわされた。避けられるというのは、尋常ではない。強敵と見た。イアンは被弾した一機を無視し、単にはずした一機に注意しつつ、避けた一機に向かっていく。大火力のビームが数発イフニの周りにばら撒かれた。だが、そんなものはあたりはしない。問題は、前面の一機だけだ。来た! かわす。
数射ずつ応酬して、距離を縮めた。吸い寄せられるように、互いにビームサーベルを抜き放ち、刃を合わせた。
『イアンか……?』一瞬、<お肌のふれあい通話>で声が聞こえた。
「メッター?!」
そう、初めからわかっていた。わかりたくなかったから、わからないふりをしていただけだ。だから、前面の連邦軌道艦隊に無茶な突進をし、ほどほどに戦って引き返した。後ろから来ているのは、メッターだった。
その瞬間、<アーク>がミノフスキードライブを噴射して、加速した。<フリア>を見捨てて、地球に一秒でも早く降下しようとする動きである。<フリア>隊の生き残り3機が<アーク>の護衛に回ってきた。ホートラング以下の5機も、連邦との戦闘を切り上げ、<アーク>に戻ってきつつあった。
『どうして、だよ』
そんな風に言ったように聞こえた。メッターはビームサーベルをくるりとまわして、イアンのイフニのサーベルを弾き飛ばすと、撤退に入った。
追えない。テクニックの差は、歴然としていた。それに、何か、異様な力を感じた。
<フリア>が撃沈したようだ。遠くに大きな光輪が広がった。急速に、戦いの気配が薄れる。ふっとイアンはため息をついた。今日は考えることがたくさんありそうだった。
そのとき、一線のビームが撤収中の、あの足を大破させられたアイガイオーンを貫いた。ターンAのビビアンから放たれた一発だった。イアンは息を呑んだ。
何てことするんだ! もう戦いは終わっていたのに。
やられたのは誰だったんだろう。間違いなく、天使隊の知り合いの誰かだったはずだ。どうして、か。本当に、どうしてだろう。地球はもうすぐそこだ。すでに、大気の影響下に入っている。バリュートを開く。あとは、落ちていくだけで、操作はできない。全天モニタが赤く染まった。シートから体を起こし、ぱちっとヘルメットをはずして、嗚咽した。


ビビアンの最後の一発って、普通は、当たり前なんですよね。クラウゼヴィッツも書いてました。追激戦は、あらゆる戦闘の中で最も得るものが多い、と。じゃあ、イアンの感想は、単に相手がかつての友人たちだった、という理由の、身勝手なんでしょうか。これも、そうじゃない感じがします。
やっぱり、モビルスーツという非常に高価な兵器に乗るもの同士の、戦いの暗黙のルール、ですかね。ある種騎士道精神的、っていうか。ガンダムってまあ他のロボット物に比べれば、リアル戦争な感じなんでしょうけど、やっぱりこういう呼吸の感じって、あると思うんです。