
(7) <サイクロプス=アイ>強襲-1
「予定の半分の戦力も持ってこられませんでした」オットー=ラインバルトは顔の眉間にしわを寄せ、遺憾の意を表明して見せた。シーン=ロンバルディ大統領代行とベルナルド=ハムナー・ジェネラルプロダクト会長の親書を手渡した。
「いえ、充分です。それより、本当によろしいのですか、ターンAの件は」ヨンキエはがっちりとオットーの手を握り返した。
ヨンキエに同席したヒデイエ=ハマダは感情を表に出さないように、ビジネススマイルを浮かべている。睨み付けないようにするのには意思の力が必要だった。彼はヤマト工業から南極軍支援に派遣された、ハマダ一族のものである。ターンAが手に入るのは、うれしい。ジェネラルの技術の真髄である<イフニ>ほどではないとはいえ、ターンAはイフニの開発用プロトともいえる機体である。充分な技術フィードバックが得られるはずだ。とはいえ、そんなものを簡単に手放すオットーの真意は読みかねた。
南極の<シラセベース>でエウーゴと南極軍のトップ会談が行われていた。氷が解けてしまってから、南極の大地は隆起し、平均すると1000mを越える台地となっている。海辺には軌道上からの観察を妨げる洞窟がたくさんできた。<シラセベース>はそのなかでも特大のもので、ヨンキエが長年かけて連邦本部に情報が漏れないように秘密裏に基地として整備したものだ。とはいえ、所詮は大隊内の予算を監査に見つからない範囲でやりくりして作ったものなので、粗末な基地である。トップ会談に使われているミーティングルームでさえ、コンクリのうちっぱなしだった。
エウーゴは南極軍を支援するのに、<フリア>一隻とヴィクトール6機を用意した。だが、軌道上での戦闘により、<フリア>とヴィクトール3機を失ってしまった。そこで、急遽、オットー=ラインバルトの提案により、支援に<ターンA>を上乗せすることになったのである。
「ええ、ぜひあのマシンを南極軍で活用してください」オットーはニコニコ顔で答えた。
ヒデイエは、何か仕組まれているという感じをぬぐいきれない。ジェネラルはエウーゴに続き、南極軍までも、ヤマトから顧客として奪い取ろうというのだろうか。だが、仮にそうであっても、ターンAは欲しかった。
「確かにターンAはアクティブ=フレームのできがすばらしい反面、ミノフスキードライブのバランスが悪いから、宇宙戦より局地戦向けだな。パイロットも、いなくなったことだし。イアンはほっとしてるんじゃないのか」
「そうですね」
ブラッドとイアンはモビルスーツの整備を見学中である。<エウーゴ>が提供したヴィクトール、それに南極軍がもともと持っていた<カチドキ>の異形がずらりと並び、壮観である。
本来、人手不足の<アーク>ではパイロットも余裕があれば整備は手伝うのが普通だが、<シラセベース>には人手だけはたくさんあったし、何より譲渡されるモビルスーツのメンテは、南極軍の手でできるようにする必要がある。教育もかねて、必要以上に南極軍の要員がモビルスーツの周りに集まっていた。最終調整はパイロットがやらなければならないので二度手間ではあるが、やむをえないといえる。
「彼女と話したのか」ブラッドが、ボソッと口にした。
「いいえ」
ビビアンは、ターンAの譲渡に伴い、パイロットから外れることになった。軌道降下作戦中に管制官をしていたジョリーン少尉の意見である。戦闘中にパニックに陥るのでは、パイロットは無理なのは当然だ。彼女は落ち込んでいる風だったが、多分ほっともしているだろう。なぐさめてやるべきだったが、イアンは彼女と話ができなかった。イアン自身も傷ついていた。あのときのパイロットがメッターだったことは、誰にも話していない。そして、ビビアンが、敵が撤収していく間の悪いタイミングで落とした敵機に、たぶん友達の誰かが乗っていたことも。
「話さなきゃ、何も始まらないぞ」
「ええ」
午後には、ホートラングから呼び出しをもらっている。あの戦闘でのイアンの勝手な判断には、まだ処分が下されていない。そのことだろう。ビビアンと話すのはできそうもない。いや、自分でもわかっている。それは言い訳だ。ブラッドとここでぶらぶらしているのを今すぐ打ち切れば、ビビアンと話す時間くらいすぐ作れるのだから。
「すみません、一人になりたいんです」
気を使ってくれているブラッドには悪いと思いながら、イアンは停泊中の<アーク>の部屋に戻ることにした。後ろに、ブラッドのため息が聞こえた。


さて、気合入れてくださいよ、<サイクロプス=アイ>攻略は長いです。
ジェネラル=オットー、ヤマト=ハマダ一族の暗闘は、もっとこってりと書きたかったのですが、いつのまにやら本筋に引っ張られてあっさりになっちゃいました。ただでさえ長いんだから、余計な寄り道するなよって、いうことですよね、多分。