
(7) <サイクロプス=アイ>強襲-3
<サイクロプス=アイ>、一つ目巨人の瞳。赤道付近に設けられた、核融合発電をバックボーンに持つコヒーレントビームジェネレータである。かつてのコロニーレーザーや、カイラス・ギリーと同じ原理ではあるが、出力の桁が違う。その大出力の半分は地球の大気で散ってしまうが、コロニーどころか、月の表側の都市を焼き尽くすだけの威力を持つ予定である。そのビーム兵器は地球の回転に伴い、360度水平に宇宙を攻撃できるのだから、たちが悪い。完成して連射が可能になれば、まさしく24時間で、グラナダとギニアを残して、宇宙勢力はほぼ壊滅する。
「したがって、<サイクロプス=アイ>の完成は、この戦いの帰趨を決めてしまう。エウーゴの諸君はこれを絶対に阻止せねば、全滅だ。また、南極軍の諸君にも申し上げておこう。先ほど言ったとおり、この兵器の出力の半分は大気に吸収される。その結果、なけなしのオゾン層と、成層圏は吹き飛んでなくなる。はっきり言おう、地球に住むのに、宇宙服がいるようになる。こいつを放っておけばな」ローランド大佐は表情豊かに、皮肉っぽい渋面と、真剣な笑顔をとりまぜ、演説を続けていた。
作戦立案能力、特に兵站に関してはまさに天才だとヨンキエは思った。<サイクロプス=アイ>の建造責任者であることを割り引いても、充分価値のある人間である。最初はそう思ったものだ。だが、今この場で彼の演説を聞いていると、能力過剰な人間を手元に引き込んでしまったのではないかとちょっと後悔した。自分は年だ。戦いが長引けば、後継問題が出る。そのとき、この男がそのトップに立って、自分を追い落とすのではないだろうか。
そう思っている人間はヨンキエだけではないようだ。隣でヒデイエ=ハマダも苦々しげな様子である。ヤマト工業のタケオ=ハマダ会長の次男。長男のヨシオが現社長であるが、無能であり、実質的な経営はいまだにタケオが取っているという噂である。ヒデイエが次期社長との噂もある。
そもそもヨンキエが南極で反乱を起こすのにいたったのも、ヒデイエの勧めがあってのことである。南極軍のスタッフは連邦軍の中でも落ちこぼれが多く、優秀とはいえない上に、装備は海軍に偏っている。ヒデイエとヤマトが技術を提供し、不足気味の陸上/航空兼用の戦力となるミノフスキードライブ機<カチドキ>を多数供給してくれた。それであれば、かなりの長い間抵抗ができると踏んだのだ。
そして、ヒデイエは南極軍の事実上のナンバー2の座に収まった。この間の補給、モビルスーツの導入はヤマトに頼らざるを得なかった。ヤマトの利益は莫大なものになったはずである。そして、ヒデイエはヤマトの社長の座に近づいた。
だが、ここで、ローランドという脇から現れた男が急激に力を示している。ナンバー2の座を、自然とヒデイエと分け合う立場に収まった。それも、ここへ亡命してきてたったの2週間ほどである。ヒデイエにすれば、苦々しい思いを抱かないわけがない。そもそも、ローランドをここへつれてくる発案自体も、ヒデイエがしたのだ。
「幸いにして、防衛体制は難攻不落とまではいかない。ここは部下に好きにやらせたんだ。ラビエってやつでね、ピザ好きのデブだ。憎めないやつなんだが。俺の助言もあって太平洋側の防衛線が薄くなっている。ついでにいうとあいつの頭もてっぺんがだいぶキちまってる」ローランドはスタッフの笑いを誘いながら、<サイクロプス=アイ>の防衛展開を表示しているホログラフ図面をヒトの頭部にたとえて、わかりやすく説明した。
「狙いは、この頭頂部と、後頭部。頭頂部を、<リュウグウ>隊と、<アーク>で攻める。後頭部は南極軍の主力が入る。第一目標は中心部の大型水晶体。木っ端微塵にする必要はないぞ。ちょっとした傷でも取替えだ。1ヶ月はかかる。第二目標は周辺三箇所に分散されているコンデンサ。これも大電力用の特注品だから、破壊できれば再建は1ヶ月近くかかるだろう。三つとも破壊できれば越したことはないが、ひとつ壊せば発射間隔を一日単位で取らなくてはならなくなる。無茶はするな」ローランドはコンピュータ上のポインタではなく、指揮棒を使って場所を指し示す。
「同時に、私を中心として、ネットから<サイクロプス=アイ>のネットワークへ進入して、ウィルスを仕掛ける。成功すれば、指揮が麻痺して防衛力は大幅に低下するが、あまり期待しないで欲しい。私が隠し持っていた裏メンテナンス用のスーパーユーザーが削除されていれば、おしまいだからな。そんな手段に頼らんでも、我々なら<サイクロプス=アイ>は抜ける。以上がこの作戦の概要だ。質問はあるか」
ローランド大佐が、説明を締めくくった。
周りのスタッフは結構盛り上がっている風だった。ヨンキエは拍手した。ヒデイエは立ち去った。聞いていたイアンは、それほど甘くないはずだ、と思った。


大人の世界だなあ・・・。こういうの、どうですか? 僕は好きです。当然のことながら。ファーストガンダムの、ザビ家族の葛藤や、レビル将軍が、まわりと摩擦を起こしていくあたり、ガキの頃はどうでも良かったですが、今見ると、すごくいい感じです。