ガンダムイフニ

(7) <サイクロプス=アイ>強襲-5

「モビルアーマーですか?」
 南極基地地下のモビルスーツデッキの端に、モビルスーツほどの大きさの、折りたたまれたような物体があった。ローランド大佐以下の南極軍スタッフと、フロスト艦長以下の<アーク>スタッフの、出撃前のフリーセッションである。ブラッドはその物体を見て、感想を口にした。
「メガビームキャノンユニット、ですね」
 言ってしまってから、イアンは後悔した。どこで、それを知ったか、また説明しなくてはならなくなるからだ。イアンには、その物体に見覚えがあった。シミュレーションバトルでは運用したこともある。
「そうだ、イアン曹長。使えるか?」
 さっき紹介されたばかりだというのに、いともたやすくローランドはメンバーを名前で呼んだ。なぜイアンがわかったか、については質問せずに、違うことを聞いた。
「シミュレーションは、したことがあります。でも、イフニに装着できるんですか?」
「あれは、もともと<サイクロプス=アイ>防衛用に設計されたものです」
 同行していたヒデイエ=ハマダが説明しだした。
「ヤマト工業が裏から手を回して、南極軍用に手に入れたものですよ」
「アイガイオーン――スモウ、と呼ぶんだったな――向けのものではない。ガンダムH2用がベースで、ヴィクトール用にカスタマイズしたものだ。アタッチメントは共通だから、イフニでも使えるはずだ。決まりだな、ハットン中尉?」
「出力の大きなモビルスーツに運用させたほうが、戦果は上がるでしょ」ハットンは肩をすくめて、答えた。
「では、決まりだな。確認に、ランドー博士にも連絡しろ。あっちのチームの協力も得ねばな」
「あれは何なのです?」フロスト艦長が話題から置き去りにされた<アーク>スタッフを気遣って、質問した。
「イアン曹長、説明を」ローランドがイアンに振った。
 イアンは、ローランドをにらんだ。なぜ、これのことを、イアンが説明できると思っているのだろうか。
「私もな、南極軍の中では新参なのだ。そして、人の履歴というのは消せるものではない。私は、その重みをいつまでも背負っていく覚悟ができている。君は、どうかな?」
 ローランドは、イアンのプロフィールを完全に把握しているのだ。
「……メガビームキャノンユニット。自走できる巨大ビーム砲です。展開すると全長約30mになり、モビルスーツに装着して使用します。ザンスカール戦争末期に帝国側が投入し、大きな戦果を挙げたものです。ガイアが目をつけ、スモウ向けに再設計しました」
 あとをローランドが引き取った。
「その技術は連邦にも流れた。ガンダムH2向けに作られたのが、あれだ。私が、持ち込んだ。射程は大気中でも50kmに達する。もっとも、<サイクロプス=アイ>周辺にはビームバリアが展開されていて20km近辺まで近づかねば、計算上あれでも防がれてしまう。だが、それでもだいぶやりやすいはずだ。ビームサーベルで目標物に切りかかるのに比べればな。諸君の作戦は、こうだ。ガンダム=イフニとメガビームキャノンユニットを護衛、<サイクロプス=アイ>から20kmのポイントまで接近、メガビームキャノンで目標物を狙撃、離脱する。長居は無用だ」
「確かにだいぶ気が楽になりましたよ。ミーティングの説明じゃ、特攻でしたもんね」ボウトが皮肉った。
「お役に立てて、光栄です」如才なくヒデイエが応える。
「敵にも、あれがあるってことですね」ブラッドが質問した。
「<サイクロプス=アイ>にH2は3機配備されている。メガビームキャノンは少なくともひとつある。だが、もともとあれはモビルスーツを狙撃する装備ではない。逃げ回れば、問題ないはずだ」ローランドは締めくくった。100機近いモビルスーツと防衛施設を備える一大拠点に、半数のモビルスーツで襲撃をかける作戦の説明としては、簡単だった。

 弾道コースで落下中の<アーク>内は重力が5分の1程度になっている。イアンはイフニの10m近い高さのコクピットからふわりとモビルスーツデッキへ飛び降りた。調整は完了、メガビームキャノンユニットとの接続テストも済んだ。
 <アーク>は元が小型モビルスーツ6機搭載を前提に設計された船である。<フリア>が軌道上で撃沈されたおかげで3機余計なヴィクトールとメガビームキャノンユニットを収容し、出撃30分前のモビルスーツデッキはごった返していた。あちこちで怒ったような叫び声だの、ののしり声だのが飛び交っている。
「大丈夫そうか?」フレイドが飛び降りてきた息子に声をかけた。
「ああ、問題なし。父さんは、自分の仕事に自信がないわけかい?」
 出撃前で緊張しているのは、モビルスーツに乗るわけではない父のほうのようだった。
「私は研究者であって、本来エンジニアではないからね。エンジニアの真似事をやっているが、システムのチェックとかは、イアンの言うとおり、自信がない」
「そういう言動は、パイロットを不安にさせるよ」
「……そう、だな。レイモンドが充分に調整してくれた。完璧なはずだ」
「そうそう。そういっとけばいいんだよ」父親の肩を、ぽん、と叩いた。フレイドは、肩に置かれた息子の手に、自分の手を重ねた。
 短い時間ではあるが、パイロット控えに戻って、飲み物でもとろうと思ったイアンが歩き出すと、すぐ前のターンAの足元で、ビビアンとルード少尉が話し込んでいた。ビビアンが言っていたとおり、ルードは勘のいいパイロットで、いまさらビビアンのアドバイスなど必要ないレベルでターンAを使いこなしている。だが、ビビアンの性格上、何もしないでいることができないのだ。そう思うと、イアンはちょっと微笑んだ。だが、あの時以来、ビビアンとは結局言葉を交わしていない。避けて回り道をして、控えに戻った。

『出撃10分前! パイロット各員はモビルスーツへ搭乗! モビルスーツデッキの要員は退去!』
「じゃあ、いっちょパーっとやりますか。帰ってきたら、デートだからな、ク・リ・ス」パイロット控えに座っていたボウトが立ち上がりざま、そばにいたクリスのおしりをなでて、出て行こうとした。
「もーっ、セクハラよ、セクハラ」クリスティーナはぼかりとボウトのヘルメットを殴った。
 あの二人なりに、場の雰囲気を和ませようとしているのだ、と感じ取ったイアンは、素直には笑えなかったが、それでも微笑んだ。
 メガビームキャノンのおかげで、今回の出撃で艦をトップに出るのはイアンである。すぐにいかなくてはならない。だが、行こうとしたイアンの目の前に、ルード少尉が立ちふさがった。
「なにか?」あまり、この人とは話していない。
 ルードは黙って、手を差し出して、握手を求めてきた。いぶかしがりながら、イアンはその手を握った。
 ぎゅっと、かなりの力で握り返された。
「ビビアン君を、ふったんだって?」
「は? 彼女がそんなことを?」
「負けないよ、君には。よろしくな」ルードは手を放すとくるりと背を向け、小走りで出て行った。
 イアンは、変な誤解をされたような気がした。ビビアンには、自分だって未練があるのだ。だが、あんなことの後では、どうにもならない気もする。ルード少尉は優秀な仕官みたいだし、ビビアンがその気ならそれもいいのかな、などと思って、とぼとぼ歩きながら控えを出た。
「遅いぞ、イアン! 何やってんだ!」デッキに出たところで、ドースン技師長の、男らしい怒号が響いた。
「すみません!」走ってイフニの足元に行き、一気にコクピットにジャンプで飛びついた。 火は、もともと入っている。シートに体を押し込む。
「イアン=ランドー、ガンダム=イフニ、出ます!」
『進路クリアー。どうぞ!』
 管制官はビビアンだった。
『イアン! 生きて帰ってきなさいよ! 帰ってきたら、30発ぐらい殴ってあげるから!』
「あの、……ありがとう」
 イアンにはそれしか言えなかった。だが、ひとつ吹っ切れた。アークの外にイフニの身を投げる。軽くバーニアを吹かして姿勢をコントロールした。「ガンダム、出ました。メガビームキャノンユニット、射出、どうぞ!」

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 初々しいですねえ、みんな。僕も30になって見ると、こういうの、恥ずかしくなく思えます。昔は、ラブコメとか嫌いだったんですけどね。