ガンダムイフニ

(7) <サイクロプス=アイ>強襲-6

『地球市民の皆様。私はバレイユ=ヨンキエ。地球連邦軍の南極方面軍少将です。大義のため、我々は連邦軍に対し、反旗を翻すこととなりました。皆様に、我々の主張を、聞いていただきたい』
 胡麻塩頭に痩せ型のヨンキエが、モニターの中で演説している。その口調はあくまで上品で、どこぞの大企業の社長がスピーチをしているようだ。あの人も軍人になるべきじゃなかったのかもしれないな、とローランドは思う。こういうとき、いっぺんに聴衆を味方につけられるようなカリスマも、いるのだ。130年前の、オリジナルのエウーゴで演説したときのシャア=アズナブルなんかがそうだ。俺もそうだが、ヨンキエも、カリスマって柄じゃない。
 となりで、ヒデイエ=ハマダが無表情にモニターを眺める。こいつも有能なのだろうが、やはりカリスマではない。今の南極軍に、カリスマはいない。南極軍はこの戦いのプレーヤーとして名乗りを上げたが、最終的に地球圏の帰趨をどこかに導くべき軍ではない。ローランドは、そんな風に感じた。
 まあ、なんにせよ、これで地球連邦軍が内乱状態になったことは全世界に伝わった。今回の演説の重要なポイントはそこだ。連邦への、市民の信頼を損なうことができれば、まずは成功。反連邦の市民活動を引き起こしたりすることが主眼ではない。
 手元の端末で放映状況をチェックした。全世界放送をジャックできたようだ。いざというときのために、ガイアが抑えていた権限を、なりすましで奪ったものだ。ローランドは中断されるまで5分はかかると見ていた。それにあわせて演説は極力短くしてある。
 演説は録画済のものである。3分後には作戦内容が明らかになる。その前に、こっちの役目を終わらせなければならない。
「よし、<サイクロプス=アイ>ネットワークにアクセス開始」
「拒否されました! IDが通ってません!」
 やはり、と思う。そこまでは甘くない。ローランドは、ちっと舌打ちした。さあ、考えるんだ。
 隣で、ヒデイエが、黙ったままローランドの力を測るかのように見つめる。

『連邦はガイア教団に深く侵されている。皆様の中にも信者の方はいらっしゃるだろう。だが、ガイアの教義は、皆様の知っておられるようなものではないのです。目を覚ましていただきたい!』
 ヨンキエの隣にホログラフィー画像が浮かび上がる。丸い、細胞のようなものだ。がん、とメッターはこぶしで壁を叩いた。あの時あの男――ローランド大佐――が持ち帰ったダミーデータではなかった。一世代前ではあるが、本物だ。
 チチカカ上空、超巨大戦艦<マザー=アース>内のミーティングルームでサンターナを除く死神隊全員が待機中である。
 いや、マックスもいない。軌道上で、落とされた。メッターは苦い思いを噛み締める。
『これは、ガイア教団がひそかに開発をしていた殺人ウィルス、<エンジェル=ダスト>です。エボラウィルスの改良型で、死亡率はほぼ100%、空気感染するという恐ろしい代物です。これを使って、彼らは地球上の人口の一掃を行おうとしています。教団幹部向けに、100万人分のみ、ワクチンが生産される予定であることまで、我々の調査でわかっています』
 ホログラフィー画像は女性の立体図となり、肺が拡大され、肺胞の細胞にさっきのウィルスが進入していくCGとなった。その後ズームアウトし、女性の立体図が血を流し、体が崩れていく。巧みで、情緒に訴えるCGだな、とメッターは感心せざるを得なかった。
「まったく、あの時、ローランドさえ逃がさなかったら!」
 ドノバンがとなりでぼやいた。
 メッターは違う感想を持っている。<エンジェル=ダスト>はガイアの狂った側面の強調だ。その側面にスポットが、今当たるのは、早すぎるが、ただ、それだけだ。
 だが、もう一方の<サイクロプス=アイ>が表ざたになるのは好ましくない。このあと言及されるだろう。防衛体制を固める必要があるな、とメッターは思う。市民の共感を得るのと引き換えに、こちらに警戒をさせる余裕を与えたわけだ。
 そんなばかなことを、あの連中がするだろうか。ふと、メッターは不安になった。すでにこのタイミングで行動を起こしているのではないだろうか。いや、間違いない。サンターナはいない。サイクスもだ。あいつら、こんなときにお楽しみか、と思いつつ、すばやく指示を出した。
「死神隊各員、戦闘体制だ。ドノバン、隊長を呼び出せ、何をしていようと、だ。ジョーンズ、艦長に連絡して、進路を<サイクロプス=アイ>に向けさせろ。攻撃を受けている可能性があると言え!」

「IDは、RAVIE005988245」
「パスワード待ちになりました」
 <サイクロプス=アイ>防衛責任者兼建造総監督代理のラビエ少佐のIDでログオンする。連邦軍のネットワークIDは名前と連番だから、簡単だ。あいつの権限であれば、ネットワーク上でありとあらゆる悪さができる。あとは、パスワード。考えろ。ログオンに10回失敗すると、10分の間、ログオン自体を受け付けなくなる。手当たり次第に入れるわけにはいかない。ローランドはこんなときもあろうかと、ラビエがログオンするのを後ろから覗いたことがある。あの手の動き。何かアルファベットを数文字打って、テンキーで数字を入れた。テンキーのほうは4桁。

『ガイアの教義は、彼らの神である地球を汚す余計な人口を削減すること、そして、地球を裏切って宇宙に住む民を抹殺すること。この二つなのです。地球に住む皆様、100億人のうちの100万人を除いた皆様、あなたがたはガイアにとっては余計な人口とされているのです。かけがえのない人の命を数字で数える狂信者にとっては、あなた方は削減対象の数に過ぎないのです』
 この人こそ狂信者に違いない。お優しいお父様が司祭を勤めているのだ。メッターだって天使隊にいる。そんな恐ろしいことを計画するわけがない。ラキーナ=クレスポはサンティアゴの自宅でテレビを見ながらそう思う。かわいらしい顔をゆがめて、頭をふった。メッターのことを思い出すと、悲しくなる。どのチャンネルに切り替えても、この頭のおかしいおじいさんが演説している。いらついたラキーナはスイッチを切った。そうよ、そんなことあるわけないじゃない。でも、ちょっと不安に思ったラキーナは、夕食のときに父のシャリア=クレスポ卿に聞いてみることにした。

『この図を見て欲しい。これは、狂信者にそそのかされ、連邦が建設中の<サイクロプス=アイ>と呼ばれている、核融合発電でレーザービームを発振する兵器です。直径5kmからなる巨大レーザー砲であります。彼らはこうやって、血税と資源を莫大に浪費し、地球の汚染がまだ足らぬかのように振舞っております。そして、その目的は宇宙の同胞の抹殺のみ。問題はそれだけではありません。これを発射すれば、大気を大容量のエネルギーが突き抜け、なけなしのオゾン層は消し飛んでしまうでしょう』
 うまいな、ヨンキエめ。スペースノイドの犠牲を強調するより、地球の環境汚染に話題を絞って、共感を得ようとしている。イワン=マルコビッチ連邦軍大将は苦虫を噛み潰したような顔をした。
 クスコ、ガイア教団本部。幹部クラスのみが入場を許可される高層の一室で、4人の男が顔をつき合わせて画面に見入っていた。
「やれやれ、やっと表立って反乱に踏み切りましたね。これで正々堂々と叩きのめせるというものだ」
 若いほうのナハティが軽薄な感想を口にした。
「やつらの基地は南極のどこかなのだ。何なら核を使ってもかまわない」
 老人のナハティが簡単に言った。
 ガイア教団、地球の環境保全を旨とする教えを導く者二人がこんな程度の考えなのだ。この狭量が、反乱を呼んだのだ、とマルコビッチ大将は思う。下座のドレル=ハーグ少将は大量の汗をかき、息苦しそうにしている。頼りにならない副官だ。ローランドをもっと早く手元に呼び寄せるべきだったが、完全に手遅れになった。すべての行動が裏目に出ている。
 ガイアに近づいたのも、マルコビッチは軍人で終わりたくなかったからだ。軍事力と、神権を持ってすれば、世俗の力をすべて自らのものにできるはずだった。だが、どうだ。結果はこの棺おけに足を突っ込んだままちっとも死なない老人の足元に服従することを余儀なくされている。今に見ておれよ、とマルコビッチは唇をかんだ。

前へ 次へ
トップ

ガンダムイフニ

 ローランドに言わせちゃいましたが、Ζの、戦闘とクワトロの演説が重なるところってのも好きなんです。・・・単にガンダムマニアなだけみたいですねえ、こう書いてくと。
 で、それの追憶なシーンにしてあります。