うさと私 抄  高原英理


「地味な兎ですが、ずっとつきあってください」

 誕生日に貰ったポストカードにはこう書かれていた。私は決意した。

 半月後、兎は私の右側に座っている。兎はよく寝る。ときどき起き出してはよく笑いよく泣く。

「何て呼べばいい?」

 兎はひどく考え込む。私は言う。

「『うさ』はどう?」

「うれし」


 夜中に目が醒めると、隣に兎が寝ていた。嬉しかったが、眠いのでそのまま寝てしまった。

 夜中に目が醒めると、隣に兎がいなかった。悲しかったが、眠いのでそのまま寝てしまった。


 夜中の二時。よく晴れて月が出ている。急に外へ出たくなる。うさと散歩する。夜の公園や街灯の点いた街路を歩く。

 少し風がある。樹々が音を立てる。さわさわさわ。

「感じない?」

「ちょっと不思議」

「いつのことかわかんない、夢だったのかな、樹のいっぱいはえた、暗い道を歩いていって、風があってさわさわさわさわ……

 どっかで、ちょっと街灯かなんかの光がさしてて、その下にある樹の枝……

 沈黙。

 うさが言う。

「ほら、こんな感じで月の光がさしてるとねー……

 んー、……『つきしい』」

「そうか、つきしいんだ」

「でも、何が『つきしい』の?」

「うーん。わかんない」



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