あれは歯学部4年のころだったでしょうか(もうかれこれ20数年前のことですが)。
その当時は歯周病学講座(歯周病を専門に治療する診療科)が歯科保存学講座から独立したばかりで、両講座はそれぞれに新しい治療方法や概念を海外から取り入れはじめていました。そんな時代の話です。
私はそれほど熱心に授業を聴くタイプではありませんでしたが、両教授の講義だけはいつも興味深く聴き入っていました。なぜなら両教授の話はとても魅力的である上に、その意識はほかのだれよりも(いい意味での)欧米化が進んでいたからです。
それまでの私の歯科治療に関する知識といえば、虫歯をけずって金属のつめものを施したり、歯のない人に入れ歯を作ってあげる・・という程度のもので、歯学部の学生でありながらあまり歯科に関する話題に興味をもてないままでいました。そしてまたどちらかというと古風で封建的な空気につつまれている歯学部自体に少なからず不満を感じていたようでもありました。
そんな私の意識を変えたのが、両教授の講義でした。
彼らは私たち学生にたくさんのスライドを見せてくれました。学会中に訪問した海外の情景や海外歯学部での診療のようす。そして新しい歯科治療の器具器材やメソッド・・。
そのどれもが新鮮で、いつも私はドキドキしながらスライドに見入っていました。

What is the restoration? (これは何という修復方法でしょう)
This is an amalgam restoration. (これはアマルガム修復です)
Next,what is the restoration? (次、これは何という修復方法でしょう)
This is a ceramic restoration. (これはセラミックによる修復です)
これはある2枚のスライド(治療前後)を見せながら説明してくれたときのK教授のナレーションです。アマルガムというのは銀色のつめもので、セラミックというのは白いつめものです。銀色だったつめものを白くつめなおすだけで歯というのはこれほどまでイメージが変わってしまうものなのかと、そのときの私はまるで新しい文明に制圧されてしまったかのような気分でした。
そのころはすでに歯はかんたんには抜かずに保存治療する時代に入っていましたが、まだまだつめものといえば銀色が主流でした。そんな中、両教授は講義の中で学生に、新しい時代の波が来ているということを予告してくれていたのです。
K教授はさらに、
『歯を残すことによって人は若さを保つことができるようになる。』
『かならず日本には口元を美しくする時代がやってくる。』
『その治療が審美歯科(Esthetic Dentistry)である。』ということも教えてくれました。
これが私の審美歯科との最初の出会いでした。
追記
虫歯をけずった部分につめる材料としてアマルガムは非常にすぐれた性質をもっていますが(緊密につめることができますが)、一部のアマルガムに水銀が含まれることから、その毒性が問題視されています。
さらにアマルガムの色調は銀~灰色であるために、見た目の点からも最近はあまり用いられなくなっているようです。
*右写真はイボクラール社製IPSエンプレスです。