私が札幌で診療を開始したばかりのころ(平成に入ったばかりのころ)は、まだインプラントに対して否定的な考え方を持つ歯科医師が多かったせいか、私もそれほどインプラントに対して積極的ではありませんでした。
そんな中いち早く私にインプラントを学ぶよう勧めたのは前述の坂本氏でした。ちょうど時期を同じくしてインプラテックス社の高尾氏から、「スクリューベントというインプラントを発売開始したので使ってみませんか」というお誘いを受けたこともあり、少しずつインプラントに心がかたむいてゆきました。
その昔インプラントには骨膜下インプラントという形式のものや、のサファイヤインプラント、ブレードタイプインプラントなどがありました。私は学生時代、これらのインプラントの手術を見学する機会が比較的多かったのですが、ある手術後の独特のむなしさは今でも忘れることができません。あれはたしかブレードタイプだったと思いますが、何日たってもくっつかないままゆらゆらと口の中で揺れているインプラントをそーっと消毒する先生たちがとても無口でつらそうでした。結局そのケースにおいては、回復の見込みがないと判断され、後日とりはずすことになりました。
このように手術がうまくいかなくて、結局義歯を作りなおすというケースを多く見てきたので、当時は到底自分が将来インプラントを実施するようになるとは想像もしていませんでしたし、インプラントがこれほど広く受け入れられるようになるとも思っていませんでした。
(*ちなみに現在のインプラントは改良がなされ、格段に成功率が高くなっていますのでご安心ください。まったくの別物と思っていただいたほうがいいかもしれません)。
その後ブローネマルクインプラント、スクリューベントなどいくつかのインプラントのコースを受講した結果、私はアドバンス社製のAQBというインプラントを取り入れることにしました。採用した理由は、処置が簡単であるということ、初期固定(手術後のくっつき)がしっかりしていることなどです。
ところが私がAQBを取り入れたころ、歯科医師の間ではそのシステムに賛否両論ありました。そのうちの反対意見は、「一本の筒状の形(1ピース1回法)である上に、HAコーティングされているとなると、はぐきから感染するのではないか」というものでした。たしかにその可能性はゼロではありませんが、実際に実施していく中でそのような結果があまり見られないということを経験的に把握しています。
現在では反対意見を聞くことはほとんどありません。逆にユーザー数が近年急増していることからも、AQBの有効性を多くの歯科医師が認めるようになったということがわかります。
非常に信頼できるインプラントシステムであると私は考えています。
私は坂本氏の医院で手術の見学しながら、そして実際に処置を経験しながら徐々に自院でのインプラント導入を進めてゆきました(ちなみに坂本氏はブローネマルクインプラントを採用しています)。
そのころはまだインプラントを実施している医院があまりない時代だったので、麻酔、切開、埋入、縫合などの基本的手技を体験しながら身につける機会を提供していただいたことは私にとってとても有益でした。
インプラントに関しては、そのころハワイから来日していたDr.ダニエルマエダの手術(坂本氏の医院にて)を見学できたことも大きな収穫でした。当時としてはまだめずらしかったサイナスリフト(上顎洞挙上手術)の手術も直に学ぶことができました。
そのほかフランスから来日していたDr.カヤットや菅井敏郎氏(東京都ご開業)と交流を持てたことも非常に貴重な体験でした。
こうして徐々に導入が進み、コンスタントに手術を行える環境が整いました(平成6年ころの話です)。現在私の医院ではAQBインプラントのほかにも数種類のシステムを用意して、症例に応じて使い分けるようにしています。
最近は切開せずに埋め込んでいく方法を実施していますので、手術後の痛みや出血が少なく、治りが早くなっています。ケースによってはその日のうちに仮り歯を装着することもできますので、インプラントに対して抵抗感のあった人も安心して処置を受けられるようになってきています。