NEON GENESIS EVANGELION  - 3rd Impression -

 

  第伍話   光 円 錐(ひかりえんすい) − Episode#16-C C#001/016 −

 

                      presented by H 

 

  

 

  

《ドアのノブが怖いの?》

《……ええ……》

《どんなドアでも、そうなの?》

《いえ、あの………最初は自分の家の玄関の……ドアだけだったんですけど……だんだん全部のドアが怖くなってきて……》

《開けられない、と》

《ええ……あの……ものすごく精神力が要るっていうか………ハンカチでノブを包むようにすれば……なんとか……開けられるんですけど……》

《家の玄関のドアが最初に怖くなったの?》

《ええ………はい、そうだと思います……》

《ふうん。今でもそうなの?》

《ええ……玄関の外で何時間もしゃがみこんでたこともありました……玄関が一番、怖いです……》

《どうして怖くなったんだろうね》

《…………………》

《いつ頃から怖いと思うようになったんだろう?》

《………多分、小さいころからずっと……だと思います……ただ……少しずつおさまってきてたのが、このごろまたひどくなったみたいで……特に……こっちに来てから……》

《怖いと思ったときの、家の中の様子は浮かぶかしら?》

《…………分かりません……あ、いえ、………多分、めちゃくちゃになってるような気がします……そこいらじゅうに物が散らばって……壊れて……壁には血もついてて……頭が痛いんですけど………》

《分かりました。……じゃあ、これまでにしましょう。私が“一、二の三”で手を叩きますから、そうしたらあなたは、心地よい気分で目を覚まします》

 

 

 

 

 

 

 実験室のエントリープラグ内。アスカは瞑想するように目を閉じている。外ではミサト達がモニターグラフを監視しているはずだ。命令とは言え、朝から呼び出されてシンクロテストを受けさせられているアスカはあまり愉快な気分ではなかった。まして昨夜のことがある。歓迎パーティーの席上、トウジの粗相(?)によってマユミは飛び出して行ったきり、結局戻ってこなかったのだ。今朝、トウジ達が改めてマユミの家に謝りに行く予定だとシンジは言っていた。

《バッカじゃないの》

 アスカはマユミのことを思い浮かべた。酒に酔ってああいう振る舞いに及ぶのも馬鹿だが、その程度の事で一々キャーキャー言うような人間は自我が弱すぎる。綾波レイのようにあまりに無感情すぎるのもどうかとは思うが、あれではエヴァのパイロットなど務まりそうにもない。              

 しかし、とアスカは考えた。本当は、実験中にあれこれ雑念を浮かべるのは望ましくはないのだが、どうしても識らず知らずのうちに何らかの思考が頭に浮かんでしまう。

 しかし、どうしてあの子が来てから私はこんなにイライラしてるんだろう。

 最初、アスカはそれを単なる嫉妬だと考えていた。シンジとマユミが話したりしているのを見ると、妙に不愉快になったからだ。現にミサトなどは今でもそう思っているらしく時々アスカをからかってきたりする。アスカ自身、前は《なんでこの私があんな、どこの馬の骨か分かんないようなのに嫉妬しなくちゃなんないの》とイライラしていたものである。だがしばらくすると、どうもその仮定は間違っているような気がしてきた。どれほど自分に厳しく考えても、それが嫉妬の感情であるようには思えないのだった。

 次に考えたのが、シンジとマユミがいわゆる“似た者同士”であるという事だ。二人の性格的な類似点など、すぐ他人に謝ってしまう所を始め、いくらでも挙げられる。たとえ《内罰型・外罰型・非罰型》という分類を知らない人間が見ても、情緒の動き方においてシンジとマユミが“シンクロ率”が高い事は一目瞭然である。要するに、アスカにしてみれば、一応一緒の屋根の下に暮らしている自分よりも、シンジと理解し合える人間が突然現れたので、まるで自分のなわばりを荒らされたようで不愉快になったのだと。

 この推論はかなりアスカを満足させた。マユミがシンジとシンクロ率が高いのは、ある意味で当然である。なにしろマユミは綾波レイの代役として連れて来られた人間だ。そして、レイがシンジとシンクロ率が高いのも(あまり愉快な事ではないが)事実である。初号機と零号機の互換実験や、ユニゾン訓練の際の結果がそれを証明している。とすれば、シンジとマユミの距離感が通常よりも急速に(別に恋愛沙汰ではなく)接近しても、それはなるべくしてなった結果であり、そうならない方が不自然なくらいだ。

 なんだ、それだけの事じゃない。

 アスカは自分を納得させようとした。マユミはたまたまシンジと(あるいはレイと)のシンクロ率が高かったのだ。だから選ばれた。それだけの事だ。その程度の存在をこの私が気にかけるなど、愚の骨頂。…まあ、これで一件落着、めでたしめでたしってもんね。 アスカは自分を納得させようとした。いくら考えても他に解はない筈だ。

 そうかも知れないけど。

 だが、何か、心の奥でささやくものがあった。

 そうかも知れないけど。なんか、違うんじゃない? 何か、見落としてるんじゃない?

 アスカはその声を無視しようとした。しかし、かつて大学で数学の問題を解いていた時にも同じ声が聞こえたことがあった。理論は完璧、どこにも計算間違いはないはず、それなのに、何か別の解があるんじゃないの、とその声はささやくのだ。そして多くの場合、確かに別の正解が存在したのだった。

 その声は、或いはアスカの思考が狭隘な方向に落ち込んでいこうとするのを防ぐ、防衛機制の一種かも知れない。ただ、アスカの中にある合理の精神はその声を排除しようとする。何ら説明のつかないその声に煩わされることを、合理精神は嫌うのだ。それはアスカの強さでもあり、脆さでもある。それに、まだアスカは自分の中のその声と巧くつきあっていくだけの狡猾さを持ち合わせてはいなかった。

「アスカ、数値が落ちてるわよ。余計な事は考えないで」

 ミサトの声がした。アスカははっとして、すかさず言い返す。

「やってるわよ!」

 その時、突然警報が鳴った。

 

 

 

 

 

 

「あ………」

「あ………」

 学校に行こうとして玄関のドアを開けた途端、マユミは二人の少年とはち合わせしそうになった。トウジとケンスケである。マユミが口を開くより先にトウジが二、三歩後ずさりすると、そのままガバッと床に手をついた。

「その、どうも、昨日は、えらいすんませんでした!」

「……は?」

 朝からマンションの廊下で人に土下座されるというのも、かなり奇妙な図である。

「まあ、こいつも十分反省してるみたいなんで、許してやっちゃくれないかなあ。俺からも、頼むよ」

 横からケンスケが言葉を添える。マユミはようやく合点がいった。この人たちは昨夜のことで謝りに来たのだ。つまり、私が飛び出して行ったのを、自分達のせいだと解釈したのだ。…まあ、確かにあの状況ではトウジ達の側からすれば、自分のご乱行(?)のせいでマユミを呆れさせたと取るのが普通かも知れない。これはある意味で幸運なる勘違いとでも言うべきか。マユミが黙っていると、その沈黙を怒りの深さの表現と受け取ったのかトウジがさらに頭を下げた。

「いや、あの、お怒りはごもっともです。頭下げただけで許してもらおうなんてハナから思っちゃおりません、ワシを殴って下さい」

「………はあ?」

「いや、どうぞ、手加減なしで」

「こういう恥ずかしい奴なんだけどさ、ま、それで丸くおさまるんだったら…」

「いえ、あの」

 マユミはようやく口を開いた。

「もう、気にしてませんから。どうぞ、立って下さい。……あの、でも、やっぱりお酒は止めた方がいいんじゃないかと」

「ええ、そりゃあもう。ほんまに、すんませんでした」

 トウジの科白を遮るようにしてマユミの鞄の中の携帯電話が鳴りだした。いつもと違う特殊な鳴り方である。ネルフ本部からの緊急コールだった。

「あれ、なんだありゃ?」

 マユミが携帯を取り出している横で、ケンスケが遠くの空を指差した。

 

 

 

 

 

 

《西区の住民避難、あと5分はかかります》

《目標は微速前進中。毎時2.5キロ》

 ミサトが駆けこんできた時には、発令所にはオペレーターのアナウンスがそこかしこに鳴り響いていた。リツコが振り向き、

「遅いわよ」

「ごめん。…どうなってるの? 富士の電波観測所は?」

「探知してません。直上にいきなり現れました」

「パターン・オレンジ。ATフィールド反応なし」

「どういうこと?」

 モニターにはビル街の上空にぽっかりと浮かんだ、巨大な球体が映っている。白と黒のストライプ状の模様を持つそれは、明らかにこの世界とは異質のものだった。まるで飛行船のようにゆっくりと空中を移動している。下に並ぶ集光ビル群はまるでカッターナイフの替え刃のようにしか見えない。

 第12番目の使徒である事は明白だった。

「新種の使徒かしら?」

「マギは判断を保留しています」

 マヤがミサトに応える。後ろでブザーが鳴った。冬月コウゾウ副司令が受話器を取り、短く喋った後でミサトを呼んだ。

「……はい?」           

「厄介な事になった。ドイツからのお客さんがもうすぐ到着するそうだ」

 よりによって、何というときに。ミサトは呆然とした。こんな時に限って、碇ゲンドウ司令はいないのだ。

 

 

 

 

 

「キール議長、ただ今“ケンプファー”がトウノサワ上空に到着したとの事です」

 ゼーレの会議室。報告を受けたキール議長の、ゴーグルの下の表情は全く変わらないように見えた。

「予定通りだな」

「しかし、議長。大丈夫なのかね。ネルフの連中に対応を任せて」

「万が一、“あれ”がアダムと接触したら」

「それはこれまでにも言える事だ」

 キール議長の手がテーブルを叩いた。

「彼等も対応の仕方は心得ている。これまでの彼等の働きがなければ、とっくにサード・インパクトが起こっていただろう。この程度の賭けに敗れるようなら、我々人類は所詮、生き残る事はできんのだ。であれば、賭けのチップの金額が今更多少釣り上がったところで、動じることではない」

「報告します」

 卓上スピーカーからの声が議長の科白を遮った。

「現在、第三新東京市に使徒が出現しているとの事です。詳細は確認中です」

「何だって」

 不安そうなメンバー達を横目に、キール議長は少し笑ったようだ。

「また、チップを上乗せすることになるか。…さあ、碇、どうする」

 

 

 

 

 

 車は空いた道路を滑るように疾走していた。助手席のマユミは先刻から黙ったまま、じっと前を見ている。地の緑と空の青でくっきりと仕切られた地平線。静止画像のように岩から立ち昇る硫黄。窓の外には雄大な眺めが広がっているが、それも今のマユミには何の慰めにもならなかった。左手には箱根ロープウェイの姥子駅が遠くに見える。道はロープウェイと交叉する形で伸びていた。車がその下をくぐるとき、停まったままのゴンドラをマユミは下から見上げた。

「皆と一緒にいたかったかい?」

 ハンドルを握っている男、加持リョウジが前を見たまま、口を開いた。同乗してから、最初の会話である。

「……………」

「葛城も君のことを信用して任せてくれたんだろう?」

「嘘です」

 思わず強い口調で応えてしまい、マユミは慌てて加持の方を見た。

「す、すみません……」

「いや、こっちこそ済まない。イヤミのつもりはないんだ」

 加持は落ち着いた口調で言う。車が右にカーブし、マユミの身体は外側に少し押しつけられた。窓の外の台ガ岳がみるみる後ろに遠ざかっていく。マユミは出発前のやりとりを思い出していた。

 

 

《ドイツから重要なお客さんが来たのよ》

 天井ビルの最下階の部屋で、リツコはマユミにその任務を告げた。碁盤の目状に強化材の入った硬質ガラスを通して、遥か眼下にピラミッドのようなネルフ本部が見える。空中に浮いているような錯覚を起こさせるその部屋の床には、マユミは未だに慣れなかった。

《だけど今はご覧の通り、こういう状態だから私や葛城三佐がここを離れる訳には行かないわ。だから、悪いけど塔ノ沢まで彼等を迎えに行ってきてほしいの》

 

 

 赤木博士から渡された鞄は先刻からしっかりと膝の上に抱えている。中にはネルフの意向──遠い所をご苦労さまですが、今は非常事態であり、第三新東京市に近付く事自体が危険な状況なので、使徒殲滅までしばらくお待ち頂きたい、という趣旨らしい──書かれた文書が入っている。マユミは加持を見て、

「でも、どうしてよりによって、私、なんでしょう?」

「……ん?……」

「……だって、こんなの、文字通り“子供の遣い”じゃないですか。相手の人に失礼なんじゃないでしょうか」

「そんな事はないさ」

 加持はちらっとマユミを見た。その後ろ、遠くにはロープウェイが道路と並行して走っている。

「君と同い年の人間が現に使徒と戦っている。それに、葛城や赤木博士が君を適任と認めたんだ。君が全権大使だ。オレはただの運転手だよ。自信を持って、会えばいい」

「自信なんて……」

 持てるものか、とマユミは心の中で呟く。別に適任と認められた訳でもなんでもない、他に暇な人間がいなかっただけではないか。今頃、シンジ君はあのアスカって子と一緒に使徒を迎え撃っているに違いないのだ。

「シンジ君達と一緒に参加したかったかい」

 加持の言葉にマユミはびくっとした。…何なんだ、この人は。心が戦闘形態に移行し、装甲を厚くしていくのを感じる。

「それは、……仕方ないです」

 マユミは少し頬を膨らませるようにして、

「…きっと、相手の人は私のことは付き添いくらいにしか思わないですよね」

「そんなことないさ」

 予想された答えだ。マユミは加持の方を向くと、

「もし、そうだったらどうします?」

「ん……ん?」

 車は早雲山のところで右折し、再びロープウェイと交叉した。“小涌谷温泉”と書かれた看板が立っている。道は多少ジグザグになってきた。

「もしそうだったら、前言撤回していただけますか」

 自分でも意地悪な目付きになっているのが分かる。しかし、加持はどこ吹く風といった表情で、

「ああ、もしその時はペナルティーとして、何か一つ、希望のものを進呈しよう」

「希望のもの?」

「オレの目がふし穴だったって事で、そのお詫びだ。…まあ、でもそんな可能性は万が一にもないだろうって忠告しとくがね」

 加持の口調は面白がっているようだ。人を馬鹿にして。マユミは考えた。どうせ洋服かお菓子でも欲しがると思っているんだろう。

 車は幅の広い道路に出た。国道1号線である。道端に清涼飲料の看板が立っていた。旧世紀のものだろう、青く色褪せたそれはほとんど文字が読み取れない。職業野球の選手が3人、笑顔で手に瓶を持っている。その看板もすぐ後ろに流れていく。

「なんでもいいですか」

「ああ、どうぞ」

「……じゃあ、図書館を一つ、お願いします」

 車が大きく右にカーブした。ほとんど180度と言っていいくらいだ。遠心力でマユミはドアに身体を押しつけられた。眼鏡のフレームが窓ガラスに当たってかすかな音をたてた。鞄が膝からずり落ちそうになる。加持は平然とハンドルをさばきながら口元に微笑を浮かべた。                             

「いい答えだ」

          

 

 

 

 

 アスカは弐号機の中でじりじりしていた。巨大なモノトーンの球状の使徒は依然、空中をゆっくりと浮遊している。派手に暴れ回るとか加粒子砲を撃ってくるとかしてくれればまだ対処の方法もあるのだが、敵の能力が未知数であるというのは一番困るものだ。エントリープラグ内の逆算式カウンターを見る。先刻、近くの電源ビルから新たなアンビリカルケーブルを取り出して背中にセットしたばかりなのだから、電源供給を気にする必要は別にないのだが、ダイバーが残りの酸素を常に確認するのと同じでついカウンターに目がいってしまう。カウンターのデジタル表示はしっかりと《外部 −EXTERNAL− 》を示していた。

 どの攻撃パターンで来るか?

 アスカはもう一度、市内の武器庫ビルの位置と格納された兵装の内容を頭の中で再確認した。既に訓練で何百回となく叩きこまれているが、こんな場合は一瞬の躊躇が命取りになる。モニターには初号機のシンジが映っていた。やはりじりじりしながら攻撃の機会を窺っているようだ。初号機の手にしているハンドガンが放つ劣化ウラン弾は、よほど頑丈な身体をした敵でない限り、かなりのダメージを与える事ができる。弐号機はスマッシュホークを構えていた。勿論そんじょそこいらの斧と違って、刃先は高振動粒子である。ただ、何といっても敵の攻撃能力が読めない。慎重になるに越したことはなかった。

《あーあ、こんな時に優等生のレイが一枚加わってれば、攻撃も手厚いのにな》

 心の中でぼやいてから、舌を出す。…こんなとこで泣きが入るようじゃ、この私も随分ヤキが回ったもんね。アスカは先刻のシンジとの会話を思い出していた。

 

《はーい、先生。先鋒はシンジ君がいいと思いまーす》

《お手本見せてやるよ、アスカ》

 

 我ながら、なんであんな挑発的な事を言ったんだろう。また、シンジの口調もいつもとは違っていたような気がする。それはシンクロ率が上がっている事に対する自信の表われなのだろうか。

《お手本見せてやるよ、アスカ》

 その時、アスカの脳裏を何かの考えがよぎっていった。それは灯台の回転する光に一瞬照らし出された船のように、すぐにまた闇の中に沈んでいった。

 何だろう? 今何か大事な答えが見つかったような……。

「こっちで足止めだけでもしておく」

 突然、モニターからシンジの声がした。初号機がビルの陰から一歩踏み出し、使徒目がけて発砲したのだ。3連射によるマズルフラッシュでビルと初号機が眩しく光った。

「シンジ、やった……? あ!」

 弾が命中したかと思われた瞬間、使徒の姿がゆらめくようにして消えたのだ。アスカはインテリアから思わず身を乗り出していた。

「消えた!?」

「何!?」

「パターン青! 使徒発見! 初号機の直下!!」

 モニターから日向の絶叫が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 旧宮ノ下で138号線と合流してからは、道のジグザグは少し緩やかになった。標識が出ていて、《大平台 1q 塔ノ沢 2q》と書いてある。目的地はもうすぐだ。マユミは膝に乗せた鞄を持つ手に力を込めた。

「君は、零号機を操縦したことはあるのかい?」

 加持が訊く。マユミは一瞬、その真意を計りかねた。

「…まともに動かせてれば、今頃向こうでシンジ君達と一緒に戦ってると思いますけど」

「それは、そうだ」

「動いたって言えるのは、最初の一回だけです。それだって、別に私の意志って訳でもないし…」

「オレは素人だからよく分からないが、今なら君がエヴァを操縦できるんじゃないかって気がするんだな」

 何を気楽な事言ってるんだ、とマユミは言いかけて我慢した。この人は親切のつもりで言っているのかも知れないし、第一私がどう思ったかなどということはこの人にとっては所詮他人事で、どうでもいいことなのだ。

 マユミは今朝、赤木博士に呼ばれる際に廊下でアスカとすれ違ったときの事を思い出していた。言葉は交わさなかったが、アスカが自分を見た時の勝ち誇ったような一瞬の表情は忘れられない。

 

《使徒は私とシンジでやっつけるから、アンタはゆっくり客のお出迎えにでも行ってくるのね》

 

 アスカの顔には確かにそう書いてあった。マユミはその瞬間、このまま失踪してやろうかという衝動さえ覚えたものだ。そんな事をしたら二度とシンジ君に会えないではないかと自分に言い聞かせ、かろうじて思いとどまったが。

《こんなに頑張ってるのに》

 マユミはぎゅっと奥歯を噛みしめた。その時、

「あれだな」

 加持がハンドルを握ったまま呟いた。マユミが顔を上げると、森や民家の向こうに巨大なVTOLが着陸しているのが見えた。向かって左手の奥の方である。加持は小さな橋を渡るとハンドルを左に切って脇道に入った。もう一度左折し、早川をかすめるようにして道なりに進むと旧箱根登山鉄道の塔ノ沢駅の駅舎があった。勿論現在は路線図が大幅に変更されたため、駅舎そのものは旧世紀のモニュメントの一部と化している。そのさびれたプラットホームに三人の人影が立っていた。

 

                               <続劇>

 


 

 マユミファンの皆さんお待たせしました!!H先生の続作をお届けします。

 アスカとシンジの微妙な関係が気になる南尾です。

    アスカ⇒シンジ←→マユミ

 って感じですかねぇ‥‥。自分で”嫉妬”してると認めてますし‥‥。

 

 マユミと加持の一連のやりとりもカッコいいっす。

 次回を乞うご期待!!

 

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