妖精・サロメの本◎井村君江の世界
2003年12月]
サロメ図像学 ――膨大な点数の
絵画、彫刻から読み解く


『サロメ図像学』
Salome Ichonology
井村君江・著

A5判・上製 368頁
(収録図像250枚余)
定価:4,410円(税込)
2003年12月30日発行
ISBN4-87282-302-8



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人を狂わせる「運命の女性」として象徴化されてきたサロメ

 モロー、クリムト、ビアズリー、クラナッハ、カラヴァッジョ、ルーベンス、デューラーらが画題とした、魅惑する女=サロメは、芸術へ何を与えたか。
 本書は、ワイルドの戯曲をはじめ芳醇に想像されたサロメを、その図像の変遷の中にたどり、文化史、芸術史的意味を読み解く。


■サロメとは
 サロメについての最初の記録は、「異父王ヘロデ・アンティパス、母王妃ヘロディアス、そして王女サロメのヘロデ王家が、「キリストに洗礼を与えた預言者ヨハネ」を幽閉し、斬首した事件としての「福音書」の記述である。残忍な事件の加担者として、最後の場面に、王妃ヘロディアスの娘として現れている。
 そして、この記述からサロメは、幾世紀にもわたり、彫刻家や画家、文学者、音楽家たちの空想を刺激し、さまざまな形に結晶していくことになる。現代までのイメージの変遷 のなかに、「運命の女性」サロメの魔力を実証する。

■図像の変遷
 「図像」としてのサロメは、六世紀頃の寺院壁画やレリーフに「聖ヨハネの生涯」の一場面として描かれはじめ、伝説の王女の姿を初めて留めた。
 ルネサンス期になると、サロメは地上の華やかな女性に変貌していく。そして「ヨハネの首を持つ」衝撃的な姿が画題としてとりあげられると、美しくも残忍な女性の図像に変貌していった。
 時代を経るにつれ、宗教から解き放たれたサロメは、画家の純粋に芸術的画題として選ばれるようになった。宗教画から風俗画に変貌していくことになるのである。
 クラナッハ、カラヴァッジョ、ルーベンス、デューラーらの名作に彩られつつ、十九世紀まで降ると、サロメには、もはや聖書にあったイスラエルの王女としての面影は薄い。自分の意思をもたなかった王女サロメは、ここでは個人の女性としての主張をもつ、時代の女として、文学に絵画に、生身の女性の要素を現しながら登場してくることになる。

■文学性
 世紀末芸術に目を向けると、豪奢でデカダントな雰囲気、エキゾティックなオリエント趣味が、時代の退廃的な耽美主義に適合し、ギュスターヴ・モロー、オーブリー・ビアズリーの傑作とオスカー・ワイルドの戯曲が生まれてくる。
 官能と歓楽に陶酔し、気怠い幻想と異国の雰囲気を身につけた、理想の「運命の女 」に変わるのである。
 オスカー・ワイルドは、このサロメに愛と死を語らせ、ハイネ、フローベール、マラルメ、ユイスマンス、ラフォルグなどの詩人や作家の個性を瀘過し、さまざまなサロメ像が創られていく。
 あるときは犯しがたい美の象徴として、
 またあるときは東洋の変幻極まりない光輝に包まれて、
 また冷たい情熱を秘めた罪と死の香りにむせる女性、
 そして烈しい恋情に悩む未熟で病的な世紀末の王女など、じつに多種多様な「運命の女」のイメージに変化するのである。

■舞台のサロメ
 ワイルドの『サロメ』が上演され、リヒャルト・シュトラウスのオペラが舞台に上ると、人々は生身の身体を直截に、サロメを印象づけられることになった。
 こうしてサロメは舞台芸術に派生していき、人々の興味をひく強調がなされ、「七つのヴェールの踊り」のストリップティーズのサロメや「生首への口づけ」というサディスティックでグロテスクなサロメ像も出来上がり、現代につながってくるのである。


[本書の目次より]

第一章★聖書・史実・伝説のサロメ
■サロメの原像
 ☆福音書のサロメ
 ☆史実のサロメ
 ☆ヘロデ王家の系譜
 ☆王女サロメと王妃ヘロディアス
■洗礼者ヨハネ
 ☆ヨハネ誕生の時代
 ☆キリストとヨハネの洗礼
 ☆ヨハネとヘロデ王
 ☆聖ヨハネの首への信仰
 ☆サロメと聖ヨハネとの「恋物語」について

第二章★美術のサロメ
■中世宗教画のサロメ
 ☆連鎖的に描出されたサロメ
 ☆逆立ち踊りのサロメ
 ☆皿を頭で運ぶサロメ
 ☆時代衣裳のサロメ
 ☆ヨハネの舌を刺す
■ルネサンス期のサロメ
 ☆宴会で踊るサロメ
 ☆宗教画から風俗画へ
 ☆各国の衣裳を着たサロメ
 ☆サロメとユーデッィトとの混同
■ドイツ・ルネサンス期のサロメ──ルーカス・クラナッハ
■北方ルネサンスのサロメ──メムリンクとデューラー
■肖像画のサロメ──レオナルド派のルイーニ
■カラヴァッジョのサロメ

第三章★文学のサロメ──オスカー・ワイルド
■ワイルド戯曲とサロメ 
 ☆『サロメ』執筆の動機
 ☆『サロメ』執筆の背景
 ☆『サロメ』の出版と挿絵
 ☆サロメのさまざまな解釈
 ☆世紀末のサロメ像
■オーブリー・ビアズリーの挿絵
■挿絵画家たちのサロメ
■イギリスのサロメ

第四章★現代美術のサロメ──ファム・ファタールとして
■モローのサロメ
■クリムトのサロメ
■もはや手にせぬヨハネの首──ムンク クリンガー パスキン
■世紀末のサロメ像──シャヴァンヌ ルニョー シュトック ピカソ

●サロメ図像一覧表●

 
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