『Justice』


 「なんでお前人殺しなんかやってんだ!」
 「なんでって?『暗殺者』だからだよ」
 「そんなこと聞いてない!」
 「じゃあ、なんだ」
 「俺は何でお前が暗殺者なんかになったかって聞いてんだ」
 「決まってんだろ。人を殺したくなったからだ」
 「違う!」
 「違わない」
 「そんなことありえない」
 「俺がそう言ってるんだ。それが全てだ」
 「俺はお前の昔を知ってる」
 「・・・・・・」
 「昔のお前は弱虫だった。俺がそばにいなくちゃ何にもできない奴だった」
 「それで?」
 「でも、お前は優しかった。虐められてもそれを誰かに当てることもなく、自分の中に押し込んだ」
 「何が言いたい」
 「そんなお前がこんなこと出来るはずがない」
 「出来るんだよ。もう昔の俺じゃない」
 「だからと言って、なぜ暗殺者なんだ。なぜそんな馬鹿げた職業に就いてるんだ!」
 「世の中、誰もがうまくいくわけじゃない。どっかの社長にでもなってぼろ儲けするような奴もいれば、灰をかぶって裏でしか生きれないような奴もいる。それが俺だ」
 「じゃあ、お前がやらなくたっていいじゃないか」
 「誰かがやらなきゃならないんだよ。この世のために」
 「だからって、何でお前が・・・・・・」
 「お前、頭悪くなったな」
 「何?」
 「昔のお前は優等生だったろ?俺と違って」
 「違う。俺はそんなもんじゃ・・・」
 「そんな先入観に支配される奴じゃなかった。」
 「俺を覚えてるのか?」
 「ああ。昔のお前は誰に対しても公平で、優しく、正義感が強く、誰からにも愛されていた」
 「・・・・・・」
 「俺はそんなお前を羨ましく思った」
 「・・・・・・」
 「だがな、今のお前は違う。」
 「何が違う」
 「酷く醜くなった。そして弱くなった」
 「何だと!」
 「お前、なんで俺が暗殺者やるかって聞いたな」
 「ああ」
 「で、俺が虐められていたが優しかった事を覚えてるって言ったな」
 「・・・ああ」
 「俺が優しかったのは本当に信頼できる人間だけだ。それ以外の人間はどうでもよかった」
 「・・・・・・」
 「お前は本当に信頼できる人間だった。だから、お前とは波長を合わせてきた。親友として生きるために」
 「お前・・・・!」
 「俺の中には生まれたときから鬼が住んでいた。優しさをかぶった鬼がな。自分以外は敵にしか見えていない」
 「だがな、俺は不完全な鬼だった。優しさをかぶってお前と触れ合ってるうちにいるうちに、その優しさの仮面が神へと姿を変えた。そして鬼とともに俺の中に住んだ。だが、所詮は神と鬼。神ははお前のような信頼できる人間だけに手を差し伸べた。だから、お前とは波長を合わせずともうまくやっていけた」
 「俺はお前と別れた後、その神のいることで正義の人間として生きることを決めていた」
 「じゃあ、なぜ・・・」
 「同僚に信頼できる仲間がいた。そいつは俺のことを本当に信用してくれた。だから、ずっと、親友でいたいと思った」
 「それが何と関係が・・・・」
 「ある日そいつに人事異動の命令がくだった。その異動先が人殺しをする役、『暗殺者』だった」
 「!」
 「奴は断った。しかしそれは上の人間に受け入れられなかった。俺としても奴に人殺しをやってほしくなかった。だから、俺の中の神が奴の異動を俺にやるように仕向けた。そして神の遺言により、俺の中の鬼が神を殺した。それが俺が暗殺者として進むための最良の手だったからだ」
 「それからは上司のなすがままに人を殺した。鬼のおかげで苦しむことはなかった。そして今の俺がいる。今の俺は鬼そのものだ」
 「親友の俺でさえ殺せるというのか?」
 「親友?今のお前を親友となんて呼べない」
 「何!なぜだ!」
 「言ったはずだ。お前が醜くなったからだ」
 「なっていない!俺のどこが醜い」
 「その言葉自体が醜い。吐き気がするよ」
 「おれはまともだ!醜くなったのはお前だけだ!暗殺者なんかという道に走りやがって・・・」
 「そんなこと言えんのか?」
 「うっ・・・」
 「こんな事やっていて俺だけが醜くなったなんて言えるのか?」
 「・・・・黙れ」
 「自分がまともだなって言い切れるのか?」
 「黙れ」
 「本当に弱くなったな。昔の俺より」
 「黙れ!」
 「どうした?そころらに転がってるお前の仲間を見て怖気づいたか?」
 「黙れぇぇぇぇぇ!!」
 「何が黙れだ。俺はありのままを言ってるだけだぞ。自分の醜態を認めたくないのか?なら、なぜこんな所にいる」
 「お、お前が正義を語るな!」
 「・・・確かに、俺は正義なんて語れない。でもな・・・・お前が正義を語るよりはよっぽどましだ。お前の正義など虫酸(むしず)が走る」
 「貴様・・・」
 「俺は昔のお前の夢を覚えてる。お前は科学者になって有名になると言っていた。俺もお前ならやれると思っていた」
 「やめてくれ。そんな話・・・」
 「そしてお前は本当に有名な科学者になった。だがな!これが本当にお前が望んだ科学者なのか!」
 「それ以上言うな!」
 「お前は俺の予想を裏切った。そして、人間の未来を崩そうとしている」
 「言うな!」
 「認めたくないなら理解できるまで何度も言ってやるよ!」
 「やめろ!」
 「お前の後ろにあるカプセル!その中のお前が人間を使って作った『生物兵器』が入ってる!そいつは世界を滅亡に追い込むことが出来る化け物だ!それでお前は世界を支配するなんて馬鹿げたことを考えてやがる!それでもお前は俺だけが醜いなんていえるのか!」
 「ううぅぅ・・・・・」
 「お前はもう、終わりだよ。お前とは親友でいたかった」
 「ちょ・・・待て!」
 「じゃあな」

 *

 目覚まし時計が鳴る。
 朝だ。
 俺は時計を黙らせ、体を起こす。
 軽く頭痛がする。
 また、あの夢だ。
 政府に隠れて生物兵器を作り、世界を支配しようとした奴らの抹殺と研究所の破壊任務。
 そして俺が殺した親友の最後の会話。
 時々、夢の中で再生される。
 悪夢に近い。
 俺は間違ってない。
 あれはこれでよかったんだ。
 俺は正義の暗殺者としてやつを殺したまでだ。
 正義という言葉を人殺しに使うのは間違ってるかもしれない。
 でも、これは正義なのだ。
 悪を懲らしめる正義なんだ。
 それが俺の中の神と鬼の最終決断。
 これが俺に課せられた運命。
 俺は人殺しを正当化したいわけではない。
 俺も人殺しは悪いと思う。
 それでも、これは誰かがやらなくてはならない義務。
 この世に悪が生まれたとき出来上がった、絶対的な宿命。
 避けることのできない定めなのだ。
 いやな仕事だとよく思う。
 正義とは言え、人を殺さなくてはならない。
 それがたとえ友であっても親であっても。
 まるで死神のような仕事だ。
 そう、俺は鬼を持った死神同然だ。
 この仕事をやめることはできない。
 義務であると同時に、俺の鬼を消す行為。
 すなわち、俺自身の存在を消す行為に同じなのだから。
 俺の中の神はもういない。
 鬼のみがいる。
 鬼が消えれば自分も消える。
 逆らえない摂理。
 きっと、神もやめることを了承しないだろ。
 これが神が行った命の裁定だから。
 手元にある携帯電話が鳴り響く。
 俺はそれを手に手に取り、耳に当てる。
 「もしもし・・・」
 「私だ」電話から上司の声がする。
 次の仕事の依頼とその内容。
 相変わらず命令口調のいやな声だ。
 今日の内容は東地区にいる反政府組織の壊滅任務。
 そして、連続殺人犯の抹殺任務。
 どちらも簡単な任務だ。
 怪物でも出てこない限り難しい任務などない。
 「わかりました。すぐに向かいます。」
 使いたくもない敬語で言葉を交わし、俺は電源を切る。
 俺はベッドから起きて、準備を始める。
 さて、今日も仕事だ。

 終

 

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