第3話『chain -束縛-』


 幸のもとは手かせ。

 罪人の自由を奪う刑具。

 幸せを手にしたら、

 もう自由は手に入らない。

 *

 おい、起きろ。産まれたぞ。

 う〜ん、あれ?私どうしたの?

 出産のショックで気絶してたみたい。

 う〜ん、記憶がないわ。

 それより産まれたぞ。

 うん?男の子?女の子?

 女の子だ。お前みたいに可愛らしい子だ。

 そんなお世辞はいらないわよ。

 お世辞じゃないさ。見てごらんよ。

 あら、ほんと。可愛らしい子ね。

 きっと、賢い美人になるよ。いや、絶対だな。

 そうね。あたしとあなたの子だもの。

 なぁ、名前どうする?俺、少し考えてきたから聞いてよ。

 いえ、女の子ならもう名前は決まってるわ。

 へぇ、どんな名前だい。

 「ピアニー」にしようと思うの。

 「ピアニー」か。いい響きだ。どういう意味だい。

 花の「牡丹」の事よ。

 あぁ、なるほど。いい名前だな。

 そうでしょ。私のお気に入りなの。

 じゃあ、ついでに俺のも聞いてよ。

 嫌。この名前がいいの。

 何だ、残念だな。

 ごめんなさいね。我が儘言っちゃって。

 何でこの名前なんだ?なんか理由があるのかい?

 あるわよ。だってね、牡丹は・・・

 *

 闇夜。
 不気味なほど暗い夜道。まるで全てを追い出すように闇が迫ってくる。その闇はどうやら、全ての生物を拒んでいるようだった。いつも聞こえる筈の梟の声も蛙の鳴き声も聞こえない。それどころか魔物の気配すらしない。ただあるのは気が遠くなるほどの静寂だけだ。そのおかげで耳がおかしくなりそうだ。
 嵐の前の静けさというのはこういう状況を指すのだろうか。静か過ぎるというのも体に良くない。
 リーザルは手の持っている“灯火の魔法書”を使って道を照らしていた。
 魔法書とは、魔方陣と魔力を紙に込めることで誰でも簡単に魔法を発動できる特殊な本のことだ。
 しかし、所詮は魔道士の分身。魔法書から発する小さな炎では、とても前方を照らすには不十分だった。
 光は全て、闇に打ちひしがれている。これでは明かりのあってもなくても変わりない。あるにこしたことはないが。
 道はしっかり補正されていて、その周りには無造作に並べたような林が広がっていた。でも、この闇じゃあ何かがあったとしても見つけることは不可能だろう。
 それにしても一向に町が見えてこない。先ほどの目にした看板には『ここより1時間に町がある』と言った内容が書かれていた。しかし、先ほどから思い出してみるものの、かれこれ1時間半は歩いている。いったい誰が立てたのだろう。
 そう思った時だった。
 前方に微かに明かりが見えた。それは距離を縮めるたびに明るくなっていった。
 やっと着いた。
 魔道士が集い、貴族が町を支えている要塞都市。
 “魔法の町 ダウンファール”に。

 町は全て背丈の5倍はあろう城壁に囲まれている。壁のところどこに取り付けられている街灯でやっとそれがわかる。その奥には大きな城がそびえ立っている。城壁はいつかの戦争の名残だと言う。そこに貴族らが城を建てて拠点とし、栄えていったと言う。魔法の町と呼ばれているのは、昔、とある貴族が金で優秀な魔道士を雇い、研究させたのが始まりと言われている。その後、それにつられて魔道士が次々と集まり、魔法の町と呼ばれるまでになったと言う。
 魔法の町といったって、魔道士の後ろには貴族がいる。所詮は金に釣られて魔道士が集まったという風にしか見られない。この城壁にしたって、貴族が金を出さなきゃ補強することなど到底出来ないだろう。
 入り口は1つ。リーザルの歩んできた道の正面のみ。そこも数人の兵士が見張りについている。リーザルは迷わず入り口へと足を進めた。
 正面に来て兵士がこちらに気が付いた。槍を交差させ、入り口を塞ぐように立つ。
 「こんな時間に何者だ?」兵士の一人が質問する。
 言い方が気に食わなかったがリーザルは「旅人だ」と一言答える。
 兵士がリーザルを一瞥する。あまり良い目をしていない。軽蔑するような目だ。やはり気に食わない。
 兵士は槍をどかし、道をあけた。リーザルは足を進める。
 ふと、兵士にもう一度目をやる。明かりが暗く、よく見えなかったが、今やっと兵士たちをまともに見ることが出来た。
 魔法陣の描かれた武器。
 彼らは魔法剣士だ。
 魔法剣士とは、剣と魔法を併用する上級ジョブ。詳細は良く知らない(専門外とも言う)が、剣に魔力を送ることで、強力な太刀を生み出すという。ダウンファールから派遣された魔法剣士の話はよく聞くが、実際に見るのはこれが初めてだ。戦ってみたいとは思う。
 リーザルは門を通り、町に足を踏み入れた。
 もう真夜中だというのに、町はまだ熱気の残り香が漂っている。微かに漂う料理の匂いや、人独特の雰囲気などがそれを感じさせた。
 とは言っても夜中は夜中。ごく少数派を除いて、人はほとんどいない。
 こんな歩きやすい通りは滅多にないだろう。リーザルも人がいないほうが好きだった。
 宿屋は門からさほど遠くないところにあった。それでも、見慣れない町だけあり、見つけるのは苦労した。
 もっとも、看板が泣ければそれが宿屋だって気づかなかったかもしれない。
 宿屋はすいてるらしく、たいした手続きなしでいい部屋に泊まることが出来た。指定の部屋は2階にあるそうだ。
 リーザルは2階に上がり、部屋を空け一瞥する。
 そんな広くはないが1人で泊まるには十分だった。
 今日はすでに疲れてきっていたので、すぐ寝ることにした。
 明日は情報を集めるという計画を立て、一日を終えた。

 *

 目覚めの良い朝だった。昨日の闇が嘘のようにすっきりした朝だ。
 布団の質が良く、ゆっくりと眠れた。毎日がこんなだったらいいなと思う。旅をしている以上、野宿が多く、このように待ちの宿屋で眠れるのはごく稀である。
 時計を見ると、既に9時を指している。
 リーザルはゆっくりと起き上がり、身支度を始めた。基本的に朝に強いのですでに頭はフル回転している。昨日はすぐに寝てしまったので、まず軽くシャワーを浴びた。その後、髪の毛を整えて、服装をしっかりきめ、手短な荷物を整理する。まだこの町に滞在するつもりなので大きな荷物は置いていく。但し、刀と大剣は持っていくことにした。そして鍵を閉めて部屋を出た。
 宿屋の1階に食堂があるので、そこによって行くことにする。
 食堂に宿泊客らしい人物が数人いるだけで、十分に空いていた。リーザルは一番隅の壁際の席に座った。店員が来たのでサンドイッチとコーヒーを注文する。空いているだけあり、注文の品はすぐに到着した。良いことだ。
 食べながら今日のスケジュールを確認にする。
 今日は酒場で情報を集める。昨夜そう決めた。
 ギルドでもいいのだが、酒場のほうが情報が入りやすいと踏んだ。
 この町のパンフレットをフロントでもらったため、すでに地図は頭に入っている。ここからそう遠くはない。
 出来れば賞金稼ぎの情報が手に入ればいいとリーザルは思っていた。つい最近、傷薬などに金を使ってしまい、これから旅をするには不十分であった。
 朝食を食べ終え、すぐさま宿屋を出た。
 街道は昨日来たときとは大違いだった。いたるところが人の活気で満ちており、普通に歩くのさえ困難なほどであった。行き交う人々のほとんどは魔道士が占めていた。流石は魔道士の町だ。肌を露出が激しい服装をしているため一般人とは一目瞭然であった。
 露出が激しいというのはつまり、ほとんど見えているかほとんど見えていないの両方をさしている。男性の魔道士は厚いローブを着て全身を覆っている。反対に女性の魔道士は身軽な薄い布で体を覆っている。見てくれといわんばかりの服装だ。こんな服装をする意味があるのだろうかといつも疑問に思う。
 どこかの古い習慣にとらわれすぎではないかとリーザルは思う。
 そんなことを考えながら、人ごみを掻き分け酒場へと向かう。
 街道はまるで迷路のようである。イメージはロンドンなどのレンガ造りの家に囲まれた通路を想像して欲しい。まさに貴族の作り上げた町にふさわしい。ある種の気品さを感じる。
 こんな道を歩くのはとても気分がいい。但し、人がいなければ。
 酒場は至って普通の家だった。「PUB 〜THE Torture〜」という文字と酒瓶のマークが書かれた看板がなければ、気づかずに通り過ぎていただろう。
 リーザルは木製のドアを押した。カランコロンという独特のベルの音が鳴り、客が入ったことを店員に知らせる。
 酒場の中は外より騒がしかった。明るい雰囲気というより、活気が溢れすぎて溺れ死にそうな、そんな雰囲気だ。客はそう多くないものの、いるのはほとんど年配の厳つい剣士たちばかり占めており、若い者など数えるほどであった。魔道士の姿も数人見られる。
 リーザルは適当に空いてる席を探し座り込む。大剣は肩から下ろしカウンターに立てかける。店員には酒を注文した。
 リーザルは酒を飲みながら、辺りをそれとなく見渡す。どいつもこいつも酒で酔ったせいか、やたらとテンションが高く声が大きい。特にほぼ中央の席にいる太った奴が騒がしい。昼間からこんなに騒いでるのも珍しい。
 とりあえず、カウンターの人に情報を聞きだすことにした。だが、返ってきた答えは「ここ最近はクリーチャー退治といった賞金の出る依頼はありませんね。平和なもんです」だった。期待はずれ。
 「兄ちゃん、若いな。この町のもんじゃないだろ」誰かに話しかけられて、リーザルは振り向いた。話しかけていたのは先ほどの太った男だった。顔がかなり赤い。相当飲んでいるようだ。
 「ああ、そうだが」リーザルは適当に答える。
 「俺と飲み比べしないか?」
 「パスだ。フェアじゃない」リーザルは即答する。
 「フェア?どこがだ」
 「あんたはすでにかなり飲んでるだろ。だからやらない」
 「何言ってんだぁ、お前は。俺はまだまだ飲めるぞぉ」太った男が高らかに笑う。
 「いや、勝負にならない。もう結果が見えている」
 「そんなこたぁねぇさ。やってみなきゃ、わからねぇぞ。それとも何か?俺が負けるとでも言いたいのか」男が強気に言う。
 その通りだ、とリーザルは思う。リーザルは不思議と酒に強かった。いくら飲んでも心も体も変化がない。アルコールがまるで効かないのだ。
 「とにかく、無理だ。意味がない」
 「じゃあ、腕相撲でいいや。やろうぜ」
 それにしたって同じだろ、とリーザルは思う。リーザルが言葉を発しようとしたが「やめなさいよ」という一言に止められてしまった。
 声が聞こえた後ろを振り向くと、ショートカットでスタイルのよい、魔道士らしき女が一人立っていた。
 「お客さん困ってるでしょ、キースさん。いい加減やめなさいよ」
 「いいじゃねぇか、ピアニー。そんなつっけんどんに怒らなくても」
 「良くないわよ。これで何度目かしら。あなたに怒ったの」
 「さぁ、もう星の数ほどだ。これ以上数えたって無駄だろ」
 「キースさん、また私の魔法くらいたいのかしら?」
 「おっと、それだけは勘弁してくれ」態度が急変した。「今日のところは引くよ」
 男は酒の入ったジョッキを持って他の奴に絡みに行った。
 「まったくもう」女はリーザルのほうを向く「大丈夫だった?」
 「別に」そっけなく答える。
 「困ったもんでしょ、彼。いっつもあんな感じなの。マスター、私にもお酒」
 彼女はそういって酒を受け取り、一口飲む。
 「私、“ピアニー”って言うの。あなたは?」
 「リーザル」
 「ふぅん。いい名前ね」
 「そうか」
 「響きがいい。どっから来たの?」
 「カーネージからだ」
 「カーネージ・・・あぁ、鍛冶屋の町ね。じゃあ、武器職人?」目を輝かせて言う。
 「いいや、ただの大剣使いだ」
 「なんだ、普通だなぁ」
 「何を期待したんだ」軽く笑いながらリーザルが返す。
 「鍛冶屋だったら違った話が聞けたかなと思って。大剣使いじゃあなぁ」
 「残念でした」
 「大剣使いって言うからには強い?」
 「そこそこ」
 「ここにいる奴より強い?」
 リーザルは周りを見回してから
 「そうだな、この中の奴らとやったら確実に勝てる」
 「全然“そこそこ”じゃないじゃん。かなり強いわよ」
 「そうか?」リーザルにはどいつも弱く見えていた。酔っ払っているからだろうか。
 「ねぇ、あなた何歳?私と同じくらいじゃない」
 「今年で20だ」嘘だが。
 「なんだ、はずれかぁ。勘は良いほうなんだけどなぁ。私は18歳よ」
 いい勘してるなとリーザルは思う。
 「酒飲んでいいのか?」この質問は矛盾しているなと思う。
 「大丈夫よ。もう慣れちゃった」
 「そういう問題じゃないだろ」笑いながら言う「両親が悲しむぞ」
 「両親なんて知らないわよ」それまでの笑顔が消えて、口調が冷たくなったのにリーザルは驚いた。
 「なんかあったのか?」
 「色々よ」そう言ってまた酒を飲む。「まぁ、あまり気にしないで」そう言って笑顔に戻る。
 「あぁ、そうしておくよ」
 突然部屋に鐘が鳴り響いた。ドアのベルかと思った、どうやら違うようだ。酒場は急に静かになる。皆の目線はマスターのほうへ向いている。鐘を鳴らしたのはマスターのようだ。
 「久しぶりに依頼が届きましたよ」酒場のマスターが言う。
 「おう、本当に久しぶりだな」キースが言う。「どんなのがあるんだ?」
 「ほとんどクリーチャー退治のものですよ」
 「じゃあ、その中で一番ランクの高い奴を」
 「じゃあ、これですね」そう言って、マスターは一枚の紙を抜き出した。「えぇーっと、情報によるとこの町の近くにある“ホーティの森”で葉の黄色いトレントが暴れたそうだ」
 「葉の黄色いトレント・・・」キースが復唱する。「それって“タイジュ”のことか」
 「ええ、その通りです」マスターが頷く。「タイジュが暴れて、数人のきこりが重体を負ったそうです。それで退治するように依頼が来たそうです」
 タイジュ、か。リーザルも少しならタイジュについて知識を持っていた。
 トレントの中でも限られた物しかなれない希少種。寿命を過ぎてもまだ生きている物がごく稀に変化するという。希少種とは言えど、タイジュはトレントに比べ遥かに凶暴性が高く、極めて危険な存在だ。人間に対し悪影響しか及ばない。よって保護されるなどの扱いはされず、常に危険クリーチャーに指定されていた。
 「タイジュか・・・そいつはきついな」キースが言う。どうやら、タイジュの事を聞いて酔いがさめたようだ。
 「俺たちじゃとても無理だぜ」他の剣士が言う。
 そりゃそうだろ、タイジュが相手じゃ、とリーザルは思う。
 「じゃあ、私がいきまーす」ピアニーが手を上げて叫ぶ。
 全員がピアニーのほうを向いた。リーザルは思わず酒を噴出しそうになった。
 「ピアニー、お前ならタイジュの事知っているだろ?」キースが言う。
 「知ってるわよ」胸を張って言う。「私も魔道士よ。それぐらい知ってるわ」
 「なら尚更だ。君だけじゃ無理なのはわかるだろう」
 「大丈夫よ、私一人じゃないもん」
 「誰と行くつもりだ?そう勝てる奴はいねぇぞ」
 「この人とよ」そう言って腕を持ち上げる。
 リーザルの腕を。
 リーザルは思わず「はぁ?」と声を漏らしてしまった。
 「リーザルと二人で行って来るわ。皆は待っていて」
 「ちょっと待て、なら俺も行くぞ」キースが剣を持ちながら言う。
 「いい、2人だけで行く」
 「ちょっと待て」リーザルが制する。「俺は行くなんて一言も・・・」
 「いいから、行くの。あなた強いんでしょ」ピアニーは笑顔で言う。「さ、行くわよ」そう言ってリーザルの腕を引っ張っていく。
 「おい、こら。わかったから離せ」これじゃあキースと大して変わらないじゃないか。いや、それ以上だな。そう思いながらすでに出口まで引っ張られていた。
 「そうだ、ちょっと待ってくれ」リーザルは後ろを振り向く。「キースって言ったっけ。そこの大剣取ってくれ」カウンター前の大剣を指差す。
 「ん、これか?」キースは大剣に手を伸ばす。
 キースはそれを持ち上げた、筈だった。しかし、逆に自分が引っ張られてしまった。キースは少し間合いをおいて、今度は両手で大剣を掴む。なんとか床から浮かし、リーザルの元に運んだ。
 「ほらよ」そう言って、リーザルに手渡す。
 「センキュ」リーザルはその大剣を受け取り、ヒョイと片手で振り上げ、背中に背負った。
 そしてピアニーに手を引かれて店から出てった。
 残った者はただ、呆然とするだけだった。
 「おい、あんな若者2人に行かせて大丈夫なのか?俺たちも行こうぜ」一人の剣士が言う。
 「・・・大丈夫だろ」キースは小さな声で言う。
 「なんでだよ。心配じゃないのか?」
 「お前、今の大剣見たか?」
 「ああ、見たぜ。どこにでもありそうな大剣じゃあねぇか」
 「あいつ、あれを片手で持ったぜ」
 「そりゃあ、持てる奴はもてるさ」
 「違う。俺も昔、大剣を使ってた頃があったんだ。だから、大剣なんて使いこなせるはずだった」
 「あぁ?だからどうした」
 「持てなかったんだよ。片手で。持てた筈なのに」振り返って剣士の顔を見る「あんなもん、普通の奴が片手で扱えるもんじゃねぇぜ」
 「・・・じゃあ、あいつは・・・」
 「ああ、細い体してるけど相当なパワーの持ち主だ。化け物並だぜ」
 「・・・確かお前、腕相撲を申し込まなかったか?」
 「ああ、戦わなくて良かったぜ。腕が折れてたかもしれねぇ」そう言ってキースは右の手首を触った。

 *

 ギルドで依頼の手続きを終えてから森に向かった。ギルドと言うのはいわゆる依頼の受付だ。頼まれた依頼などの整理をし、報酬を払う。冒険者には欠かせない場所だ。
 森も入り口に反対のところにあるため、わざわざ正面から出て反対側にまわらなくてはならない。全くめんどくさい。
 「ここが森の入り口よ」ピアニーが森の手前で説明する。「まぁ、どこから入ったって同じなんだけど、ここが一番安全らしいていう意味」
 その入り口とされた場所には、看板や少し大きめのの門のような物が立てられており、確かに入り口らしかった。しかし、補正された道などなく、どこから入っても同じというのは確かに当たっている。
 「とにかく行きましょ。日が暮れちゃう」まだ10時半だと突っ込もうとしたが、すでにピアニーは奥に入って行った。本当にマイペースな奴だ。
 リーザルも仕方がなくといった感じで森に足を踏み入れた。
 森に入っても大して暗くはなかった。というのも、木漏れ日が思ったより多くあり、視界は良好であった。これなら、奇襲をかけられることはないだろうと思う。
 「ところでお前、タイジュなんて相手にして大丈夫なのか?」
 「お前って言わないでよ」ピアニーは振り向いて怒る。でもすぐに表情を変えて「魔法なら任せてよ。こう見えても炎属性の魔法は大得意だから」と言う。
 「それならいいが」
 「じゃあ、こっちからも質問していい?」ピアニーは少し立ち止まって、リーザルと並ぶ。
 「答えられる内容なら」
 「何で包帯してるの?」
 リーザルは少し間をおいた。
 「・・・ちょっとした火傷だ。醜いからわざわざ包帯をしている」事実には違いない。しかし、刀傷のことは言いたくなかった。
 「不便じゃない?」
 「特には」
 「ふ〜ん」ピアニーは納得したようだ。「その大剣って普通の武器じゃないでしょ」
 「なんでだ?」
 「薄っすらとだけど呪文が書かれている。なんかの能力もちでしょ?」
 「呪文?」思わず聞き返してしまった。「どこに?」
 「ああ、そっか魔力が弱いから見えにくいのか。大剣全体にうす〜く書いてある」
 「へぇ、そいつは気づかなかった」俺は大剣を下ろして眺める。「こいつは成長する武器なんだ」
 「成長?」
 「あぁ」
 そう言って大剣の能力を説明した。
 「なるほどねぇ。大剣に適性魔法でもかかってるのかしら?」ピアニーは大剣を興味津々に眺める。
 「んな事いったって、魔法剣士も同じような物を使ってるだろ」
 「あれは魔法書と同じようなもんよ。普通、魔力は他の物とあまり相成れない物なの」ピアニーの説明が始まる。「魔法書とか魔法剣とか呼ばれている物って、ただ魔力を無理やり封じ込めた物なの。だから、あまり複雑な魔法は出来ないのよ。で、気づいてると思うけど、適性魔法って言うのは簡単に言えば術者に合わせて性質の変わる魔力を使った魔法のこと。一番身近なところで言うと、魔道士が自分にあった属性の魔法を選ぶ時なんかに使われるの」
 ピアニーが根っこを飛び越える。「だからさ、結構複雑でとても他の物質に送り込めないの。その点でこの大剣は物凄いのよ。封じ込めた術者に会ってみたいわ」
 「へぇ、そんな凄い物か」リーザルはまた大剣を眺める。
 「そうよ」ピアニーは微笑みながら言う。
 「その杖もなんか変わった能力はあるのか?」
 「あぁ、これね」背中にはピアニーの背丈ほどの杖が背負われていた。「これは“リンフォース・マジック”って言う杖なの。持ってるだけで通常より強い魔力を放てるのよ」
 「原理は?」
 「多分、強化魔法か聖水がかかってるとか、あとは御神木から作られたとか。ちょっとよくわからないのよ。祖母から受け継いだ物らしくて」
 「形見か?」
 「ひど〜い。まだ生きてるわよ」ピアニーが子供っぽく怒る。
 「すまんすまん」手を振って謝る。
 「もぅ」ピアニーがため息を漏らす。
 突然、空気が変わった。
 明るかった会話が途切れ、2人とも顔が引き締まる。
 気配だけは敏感だ。
 方角にして東北。
 距離にして80mほど。
 その先に黄金に光る影を見た。
 僅かに揺らぎながら、
 ゆったりと幹をくねらせながら、
 神々しい姿を晒していた。
 適度に暗く、緑に包まれた場所だからこそ、黄金色が際立った。
 それは長老としての威厳ある輝きであった。
 害が及ばない物であれば、そのまま見ていたい物だ。
 リーザルもピアニーも背中の武器を構える。
 幹の赤い目がこちらを睨む。
 奴もこちらに気がついたようだ。
 奴が全身を唸らせ、口を万遍に開く。
 仲間を呼ぶ超音波だろう。
 人には聞こえない。
 それに合わせて、敵の気が続々と増えた。
 周りを見渡せばそこらの木のほとんどがトレントだ。
 囲まれたと言っていいだろう。
 「無駄な戦いは避けたいわね」ピアニーが呟く。
 「俺もだ」
 2人の目線はタイジュだけに向けられた。
 雑魚には用はない。
 2人は走り始める。
 間にトレントが割り込む。
 「邪魔だ!」リーザルが叫ぶ。
 大剣を一振り。
 まるで風を切るかのように。
 トレントは一瞬で真っ二つ。
 ガードする暇すら与えない。
 「ダ・バラム!」ピアニーの魔法。
 彼女の杖が一瞬光り、大きな火の玉が飛び出る。
 それは前方のトレントに命中し、消滅。
 トレントに大きな穴が開き、地響きをたて倒れる。
 もう、タイジュを守るトレントはいない。
 2人はそのまま突っ込む。
 黄金の葉が輝く。
 葉が2人のほうに飛び散る。
 2人は身を翻し、左右によけた。
 後ろを振り向くと、木がズタズタになっている。
 鋭い葉だ。
 リーザルは舌打ちをして再び突っ込む。
 跳ぶ。
 「くらえ!」
 リーザルは大剣を振り下ろす。 
 黄金の葉が変形する。
 鱗状になり、大剣を跳ね返す。
 リーザルは後ろに飛び跳ねる。
 やたらと堅い。
 流石だ。
 タイジュがリーザルに焦点をあわせる。
 襲い掛かる。
 だが、もう遅い。
 ピアニーはすでにタイジュの後ろにいた。
 「ダルガ・ドグルガ!」
 ピアニーが叫ぶ。
 杖から巨大な炎が噴出す。
 さっきの火の玉の比ではない。
 タイジュは葉を動かすが間に合わなかった。
 炎はタイジュを包み込む。
 タイジュは必死で枝を動かす。
 しかし、炎は消えない。
 「終わりだ」リーザルが大剣を構える。
 そしてなぎ払う。
 刃は見事に切り裂く。
 タイジュの幹は真っ二つに切り裂かれた。
 地響きと葉のざわめきを立てながら倒れる。
 リーザルは剣を背負いなおした。
 ピアニーが近寄ってくる。
 「トレントもいなくなったみたいだね」
 「あぁ」リーザルも見渡す。「敵わないとわかったんだろ」
 「しかし、すごいなぁ。一振りであんなに切れるもんなの」
 「実際には刃で斬ったというより、真空波で斬ったといたほうが近いかな」
 「凄いなぁ」また同じセリフをもらす。
 「お前の魔法も凄いな。並みの魔道士じゃないだろ」
 「えへへ〜、わかる?血筋がいいみたい」笑いながら言う。「それとお前は禁句」
 2人はタイジュ近づく。
 「さて、どうする。葉っぱで持って帰れば達成ってことになるのかな」リーザルが言う。
 「そうでしょ。大樹の葉っぱって結構需要大きいよ」
 「そうなの?」
 「丈夫だし、研究材料にもなるし。ほら、幹は私の炎で燃えたけど、葉は燃えてないじゃん」ピアニーが指差す。「多めに持っていったら?」
 「そうだな」
 そう言ってリーザルは刀で枝を切り落とした。

 *

 「報酬のもんだ」そう言って、リーザルは黄金の葉をギルドの係員に差し出した。
 「これはタイジュの・・・!退治してくださったのですね」受付員が感激の声を漏らす。
 「ああ」リーザルが素っ気無く答える。
 「ありがとうございます。報酬はこちらです」
 報酬を受け取り、2人はとっととギルドを出た。
 「ねぇ、何で全部の葉を渡さなかったの?」ピアニーが聞いてくる。
 「魔道研究所に売ったほうが高く売れるから」
 「あぁ、なるほど。結構卑しいのね」
 「煩いな」ピアニーを睨む。「じゃあな」
 「じゃあなってどういう意味」
 「依頼解決したんだから、一緒にいる意味ないだろ」
 「まぁ、そうだけど・・・」
 「ということだ、じゃあな」ピアニーに背を向けて歩き出す。
 「待って、道案内しようか?」
 「大丈夫。地図は頭に入ってる。迷うことはない」
 「そう・・・」ピアニーも諦めたようだ。
 リーザルはせかせかと歩き出した。
 魔道研究所は敷地のもっとも奥にあったが、道に迷うことはなかった。入り口にはやはり魔法剣士が立っていたが、タイジュの葉を見せたら一目散に責任者を呼んでくれた。
 やはりギルド以上の値がついた。袋いっぱいに詰めてきたので、相当な値に跳ね上がった。
 時計を見ると既に4時。色々と時間をかけすぎたようだ。
 宿屋に戻る途中、買い物をし、食事も済ませる。品揃えがよく、思った以上に充実した買い物となった。そのおかげで宿屋に着いたのは6時を過ぎた頃となってしまった。しかし、それでも金は有り余っていた。
 宿屋でチェックインし、部屋へと向かう。鍵を手して開けようと思ったが、異変に気づいた。
 鍵がかかってなかった。
 朝を思い出す。
 確かにかけたはずだ。
 ドアを勢いよく開く。
 散らかった形跡はない。
 むしろ片付いている。
 だが、そんな物後回しだった。
 「あ、おかえり〜。遅かったね」
 「何でお前がいるんだ?」
 「優しい盗賊さんに開けてもらったのよ」ピアニーは微笑んで言う。
 「どうしてここが俺の部屋だと?」
 「宿屋の主人と顔見知りなの」
 「なるほどねぇ」リーザルは顔に手をあて、ため息をつく。「用件は?」
 「泊めさせて。それと、旅に連れてって」
 リーザルは少し驚いて「一方的だな。他の人に頼んでくれ」と答える。
 「強い人がいないもん。私より弱い人と一緒にいたくない。」ピアニーが歩み寄ってくる。「それに前々から旅に出たかったのよ」
 「強い人間なんて幾らでもいるだろう?何も俺じゃなくても・・・」
 「やだ、リーザルじゃなきゃ駄目」ピアニーが語調を強くして言う。
 リーザルは頭を抱える。出来ればここからトンずらしたいところだ。
 なにより、これ以上何言っても聞かないような気がしてならない。
 「・・・わかった。一緒に連れてってやるよ」
 「やった!ありがとう」ピアニーが抱きついてくる。これにはリーザルは顔をしかめた。
 「と、とりあえず離れろ。色々話すことがある」
 「は〜い」ピアニーが離れる。
 まず、ピアニーをベッドに座らせ、リーザルは窓の冊子に体を預ける。
 「ついてくる以上は両親のことを話してもらう。家を離れてここに来るには何か訳があるんだろ?」
 ピアニーの顔が少し曇る。「わかったわ」そう言って口を開き始める。
 「私の両親、特に母のほうなんだけど・・・、貴族に対して異様なほどの執着心があるのよ」
 「どういう意味だ?」
 「えぇっと、何代か前の人が貴族出身で相当なお金持ちだったらしいのよ。だけど何かが原因で堕落したみたいなの。で、それを母が知って心底悔しがったのよ。そのおかげで、母は貴族になろうといろんな事をやっては失敗してきたみたいなの。それで妥協して今の父になったんだけど・・・」ピアニーがそこで話をきる。
 「その父も弱気な人間でさ、母に反論はするのにすぐ負けちゃうのよ。そのおかげで私は昔から母に貴族になれ貴族になれってうるさく言われてるのよ。だから、もう嫌になっちゃって・・・」
 「なるほどな」リーザルは腕を組みながら聞いていた。「事情はわかった。しょうもないな」
 「でしょ?」
 「誰かに旅に出る事言ったのか?」
 「キースさんには言ったわ。リーザルと一緒って言ったらとっても驚いてたわ」ピアニーはくすくす笑う。「家には置手紙を置いてきた」
 「まぁ、それでいいか」リーザルは頭を掻く。
 「もう、質問はない?」
 「あぁ、そうだな。特にないな」
 「じゃあ、私なんか食べてくる。リーザルは食べた?」
 「食べてきた」
 「そ、じゃあ行って来る。もうお腹ぺこぺこ」そう言ってピアニーは部屋から出てった。
 部屋が静寂に戻る。
 さて、どうしようか。
 面倒なことになったとリーザルは思う。
 ピアニーと一緒にいると、なぜか一生引きずり回されそうな気がする。
 あくまで勘だ。
 でも絶対的な気もする。
 断ればよかったかな。
 しかし、あの状況では断れないな。
 流石に。
 とりあえず風呂に入ろう。
 昨日からまともに入ってない。
 浴室は入り口の隣だったな。
 リーザルは向かう。
 蛇口をひねり、風呂に湯をはる。
 そして浴室から出る。
 あ!
 しまった!
 リーザルは1つ重要なことを忘れていた。
 どうした物か。
 この部屋には
 ベッドが1つしかない。

 *

 だってね、牡丹の花言葉は「高貴な貴族」なのよ

 貴族・・・?

 そうよ。貴族。

 なんで貴族なんだい。

 私の何代か前の人間が高貴な貴族だったのよ。

 ほぉ。

 でも、今は普通。なぜだかわかる?

 いや、さっぱりだ。

 貴族殺しの罪をきせられたのよ。

 えっ・・・。

 殺人事件があったのよ。貴族の中で。その罪が私の家系の人間にかかった。

 ・・・。

 屈辱でしょ?何もしてないのに罪を着せられるなんて。

 ・・・あぁ。

 だから、私の家系はまた貴族に戻れるのよ。いや、戻るべきなのよ!

 ・・・。

 私が出来なくても、子供がやってくれる。それが出来なくても孫がやってくれる筈よ。

 ・・・・・・。

 必ず、貴族に戻って、栄光を咲き誇ってやるわ!その時は手伝ってよね。

 ・・・あぁ、わかった。

 ピアニー。頼むわよ。あなたなら出来るはずよ。きっと・・・いえ、必ず・・・

 終


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後書き

第3話目となる殺傷と牡丹。ピアニーとの出会いについてでした。
連載物に後書きなんかいるのかと疑問に思うかもしれませんが無理やり入れます。今回の主は会話と戦闘シーンの2つ。会話が今回多くて、行数が稼げました(別に稼がなくても良いが)。戦闘はやはり難しいです。背景や動きを文章で伝えるのが難しいということがしみじみと伝わってきます。でも、前よりは成長しているかなと思います。

連載物って後書き書きにくいですね。あまり内容にも触れられないし、書くこともその内出てくるかもしれないし。やはり次からは書かないほうがいいかもとか思ったりします。それはその時の気分で決めます。
では今回の後書きはこれくらいにしておきます。

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