第1話 『chaos ‐混沌‐』


 ”死”ってね

 ”歹(骨の断片)”と”人”が組み合わさってできてるんだ

 つまり人が骨になって初めて”死”になる

 ・・・何が言いたいの?

 骨の断片になるまで努力した人間だけが本当に死ねるってことさ

 *

 商業の町『エンベレース』。
 そこは世の中の戦いから少し離れた大規模な港町。
 戦いに疲れた戦士たちが、この町で休息をとるにはもってこいの憩いの場でもある。
 名前のとおり、商業が発達した町で、いたるところに商店街が開かれている。この町の流通の網はとてつもなく広い。
 そのため、この町で手に入らないものはないというまで、全ての物がそろっている。それも世界の名産品から強力な武器まで。
 この町は常に賑やかだ。静寂という言葉を知らない唯一の町かもしれない。
 周りがうるさいから会話も自然と大きな声になる。それに合わせてさらに大きな声を出す。それが繰り返され積み重なりここまでうるさいほど賑やかになったのだろう。
 この男はその賑やかさが好きではなかった。彼は今、海の見える酒場で酒を飲みながら、そう思っていた。
 酒場の中は傷ついた戦士たちがほとんどを占め、あつぐるしいくらいだ。
 先ほどから聞き耳を立てていれば、「〜を倒した」だとか「〜ギル稼いだ」という声があちこちから聞こえる。
 どいつも自慢の好きな戦士がそろってる。
 彼は人との関わり自体が大の苦手である。そのために一人でいることをいつも願っていた。
 話すのが下手でコミュニケーションが取れない。人と話していると息苦しさを感じる。
 そんな人間なのだ。
 その願いが叶わないのはきっと、目の前にいる彼女のせいだろう。
 机の向かいにいる女性は酔いがまわったのか、顔を赤らめて周りの客に混じってはしゃいでいた。
 彼女は数ヶ月前から一緒だ。彼がついて来いといったわけではない。彼女のほうから勝手についてきたのである。
 彼女は彼とまったく性格が違う。むしろ正反対と言ったほうが適当だ。彼が無口に対して、彼女はやかましいくらいおしゃべり。
 何でこの二人が一緒にいるのかと彼はよく考えるが、いつも途中で断念してしまう。
 この問いは一生わかんないだろうと彼は思っている。
 「ねぇねぇ、ビールお代わりしてもいい?」彼女がいきなり聞いてきた。
 「ああ、勝手にしろ」彼女のほうを向かずに彼は答える。
 「やった。すみませ〜ん、ビールお代わり〜」彼女が奥の店員に向かって叫んだ。
 よく飲むな、と彼は思った。
 「なぁ、そこの包帯の兄ちゃん」隣にいた太った剣士らしき男が話しかけてきた。
 包帯の男は、この場では彼を示す最もわかりやすい言い方だろう。
 彼は顔と腹に包帯が巻かれており、それを目印で呼ばれることが多い。
 ミイラ男扱いされることは幾度もありもう慣れてしまったため、たいした怒りも起こらなかった。
 彼は呼ばれたほうを向いた。
 「兄ちゃん、見かけない顔だがどっから来た?」
 普通は見ないだろと言いかけたが言葉になることはなかった。
 「武器の町『カーネージ』」ぶっきらぼうに答える。
 「ほぉ、また遠いところから来たな。そっちの姉ちゃんもか?」彼女のほうを示して言う。
 「違う。魔法の町『ダウンファール』だ」
 「なるほど、どうりで・・・」男は彼の答えに納得したようだ。
 彼女は魔法の町で育った根っからの魔法使い。魔法の腕もそこらの魔法使いよりは飛びぬけて腕がいい。
 男が納得したのは彼女の服装のことだ。彼女は基本的な魔法使いのように大きな帽子と布の少ない身軽な格好をしている。
 あれこれ身に着けるより、シンプルな方が魔法を使う際に邪魔にならないのだ。
 「ところで、その背中にしょってる剣と腰についてる刀、両方兄ちゃんの剣かい?」男は指差して言う。
 「ああ」俺が持ってるんだ、当たり前だろ、と彼は心の中で思う。
 「なんで2本も持ってるんだ」
 「敵によって使い分ける」
 「へぇ、面白いねぇ。背中の剣は使えるのか?」
 「どういう意味だ」
 「そんな馬鹿でかい大剣、使いこなせるって事さ」
 男がそういうのも無理はない。彼が背負っている剣は軽く人間の身長ぐらいあるからだ。
 「当たり前だ、使えなきゃこんなもん持たないだろ。普通」
 「おっ言うねぇ。俺、そんな強気な奴、好きだぜ」男は笑いながら言う。
 お前みたいな奴に好かれてもうれしくない、そう彼は思った。
 「武器の町って言うからには、その武器も地元で作ったもんかい?」男がさらに質問を続ける。
 「ああ、そうだ」
 「名前は?」
 「刀は”黒刀・龍爪牙”大剣は”ヴァルキリーブレイド”」
 「・・・!」男が少し驚いた。「確かヴァルキリーブレイドっちゃぁ、使い方次第で能力が上がるっていうあれか?」
 「その通りだが?」
 「そりゃぁ、また凄い物を・・・。この世に何本もない”能力成長種”の武器を持ってるとは・・・」男はそう言って、武器を眺めながら酒を飲んだ。
 「大変だ!」突然、長身で細い男が入り込んできた「ゴブリンどもが襲ってきやがった!手の空いてるものは手を貸してくれ!」
 「おっと、出番だ」太った男は剣を持ち、立ち上がった。「兄ちゃんも行くだろ?」
 「酒、まだ飲んでない」彼はジョッキを振りながら答える。
 「へへ、じゃあ先行ってるぜ」男は店から出てった。
 酒場にいたほとんどの人間が出て行った。
 残ったのは彼ら二人と店員ぐらいだけだった。
 急に天国が訪れたように静かになった。
 彼女も最後の一滴まで酒を飲んでいる。
 「ねぇ、早く行こうよぉ」彼女がジョッキを置いて酔った口調で言う。
 「酔ってるのに戦えるのか?」
 「いいもん。私の出る幕じゃないもん」
 「誰がやるんだ」
 彼女は肘を机にのせ、手の甲に顎をのせながら満面の笑みで彼を見つめた。
 つまり彼がやってくれると。
 そう言いたいようだ。
 彼はため息をついて残りの酒を飲み干す。
 その後無言で立ち上がって、出口に向かっていく。
 「あ〜、待ってぇ、私も行くぅ」後ろから彼女がついてくる。

 *

 外に出てみるとそこらに赤い血が飛び散っていた。
 でも倒れているのはゴブリンばかり。
 血の持ち主は全部こいつららしい。
 左から物が崩れる音と喚き声。
 彼の足は自然とそっちに向かった。
 途中、彼女がこける。
 酒の飲みすぎだ。
 「来ないならおいてくぞ」彼女に向かって言う。
 「先行っててぇ、すぐ追いつくからぁ」本当にかなり酔っている。
 彼は彼女を置いて、ずんずん進む。
 広い大通りに出る。
 その先に暴れている一匹のゴブリン。
 あれは親玉のキングゴブリンか。
 身長はかるく5mはある。
 他に敵は見当たらない。
 あいつを倒せば終わりか。
 ゴブリンに近づく。
 「おお、兄ちゃん。やっときたか」先ほどの太った男が壁に寄りかかっている。
 肩を抑える右手が赤い。
 やられたようだ。
 「気をつけろよ、でかい図体の割には攻撃が早い」
 「そうか」彼は男を気にせずゴブリンに向かう。
 「おい、兄ちゃん」男が叫ぶ。
 でも彼はまったく聞いていない。
 「大丈夫よぉ、あいつむちゃくちゃ強いからぁ」彼女がやっと追いついて男の横に寄りかかる。
 「そうか?そうは見えないけど・・・。体細いし」
 「大丈夫ぅ、私が言うんだから間違いない」彼女が胸を張って言う。
 「あんたに言われてもなぁ」男は少し困った顔をする。
 ゴブリンの周りにも数人の剣士らしき人物が戦っていた。
 ゴブリンは相変わらず、手に持った棍棒を振り回している。
 その棍棒もゆうに3mはある。
 皆、それに苦戦してなかなか攻撃できないでいた。
 「おい、どいてろ、俺がやる」戦っている全員に聞こえるように叫ぶ。
 「おい、お前一人でやる気か?」彼の近くにいる長身の剣士が言う。「やめとけ、ここは力を合わせて・・・」
 「邪魔だ!とっととどけ!死にたいか!」彼が再び叫ぶ。
 周りにいた剣士どもが多少躊躇いながらしぶしぶ引き下がっていった。
 彼とキングゴブリンの一騎打ちとなる。
 彼は背中の大剣を手にする。
 ゴブリンが混合を振りかざす。
 一気に振り下ろされる。
 棍棒は彼の真上から地面に叩き付けられた。
 地面は衝撃で地鳴りを上げる。
 だがそこに彼の姿はない。
 彼はすでに隣の家の屋根の上。
 当たる瞬間に避けていた。
 彼が跳ぶ。
 位置はゴブリンの真上。
 彼が大剣を振りかざす。
 落下がはじめる。
 ゴブリンも棍棒を振り回す。
 彼が大剣を振りおろす。
 ゴブリンが棍棒を振る。
 一瞬の交わり。
 一瞬の高揚感。
 まるで花の散る瞬間のように。
 風の音。
 切った音か。
 振った音か。
 棍棒が地面に叩きつけられる。
 彼が地面に着地する。
 一瞬のスローモーション。
 時の停止を感じる。
 その直後に赤いしぶき。
 それは、
 キングゴブリンから。
 ゴブリンの体が傾く。
 頭から股まで真っ二つ。
 棍棒は大根のように真っ二つ。
 赤いしぶきは止まらない。
 ゴブリンが倒れる。
 ズンという重い音。
 彼が再び大剣を背負う。
 「やったぁ〜。流石!」
 彼女が駆け寄る。
 彼女が彼に抱きつく。
 彼の無表情だった顔が少し歪んだ。
 「すげぇ」長身の男が言う。「あの化け物を一人でやっちまいやがった」
 「そうだ、思い出した」太った男が言う。「あいつら前に聞いた事がある」
 「何?どこで」男が振り返る。
 「お前も聞いた事ないか?あの噂」
 「噂?」

 風の噂だが、”傷の華”と呼ばれている2人組みの男女がいると聞いたことがある。
 男は逆立った金髪で顔に包帯を巻き、馬鹿でかい大剣を振り回す。
 女の方はスタイルがよく、青と紫の布の薄い服と大きな帽子をかぶっている魔法使い。
 二人とも比べられないくらい強く、A級ランクのクリーチャーでもいとも簡単に倒してしまう。
 主に賞金稼ぎの仕事をしており、彼ら二人の手で数多くのクリーチャーが倒されたとか。

 「そんな夢物語のような噂だ」
 「それって、まさか・・・」
 「ああ、間違いない。あの二人のことだ」
 二人は彼らをじっと見つめる。
 とても強そうには見えない。
 彼らはじゃれながらこちらに向かってくる。
 一方的に彼女のほうが突っ掛かっているようにしか見えないが。
 「”傷の華”ってのはどっからきたんだ?」
 「ん?それか?二人の名前だそうだ」
 「名前?」
 「男の名は”リーザル”。殺して傷つける事を表す”殺傷”という意味だ。それが”傷”」
 「女のほうは?」
 「女の名は”ピアニー”。春に咲く赤い大きな花の”牡丹”という意味。それが”華”。その二人が合わさって”傷の華”ってわけだ」
 「なるほどね。皮肉な名だな」
 「全くだ。こんな名前だと曰く付きって感じがするな」
 「曰く付き?」
 「わけありって事。なんか背負ってるんじゃない?宿命とかさ」
 「言われてみればそうかもな。」
 「そういうこと。そのうち何かやからかすぜ」
 「魔王を倒すとか?」
 「ここはジョークを言う場じゃねぇっての」太った男は軽く頭を殴る。
 「ワリィワリィ」
 「さて、飲みなおそうぜ。あいつらと」太った男は壁から背を離し彼らの元に歩く。
 「そうだな」長身の男もそれに続いた。

 *

 それは遥か彼方の物語。

 この世に殺すための武器と魔法が認められた世界。

 突然変異によって繁殖した”クリーチャー”と呼ばれる生物が存在する世界。

 誰もが剣を手に取り、戦うことを決断した。

 それが今という名の時代。

 逆らうことのできない時代という川の流れ。

 その流れを歩く二人の人間。

 宿命も義務も運命さえも背負い込んだ剣士と魔法使いのストーリー。



 それは遥か彼方の物語。

 終

 

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後書き

初めてのシリーズ物。結構長く続けるつもり。主人公は前、日記にも載せた看板息子、娘のリーザルとピアニーです。
書いてて思ったんですが、やっぱり戦闘って書くのが難しいと思いました。自分で言うのもなんだが氷護の時と同じで、読んでる人が想像しにくいと思う。もっと書き慣れたいと思う。

それと最初の簡単な詩は、特に物語と関係がない。ただ、入れたほうが綺麗というかかっこいいというか、まぁそんな感じでいれた娯楽みたいな物とでも思ってください。毎回入れるので、気に入ってくれれば嬉しいです。

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