「冷たき力の末裔」 1 過去 私は普通ではない。 そんなことはずっと前から知っていた。 きっと、 生まれたときから知っていたであろう。 この「力」のことは。 友人も知らない。 私の兄弟も知らない。 私の親もきっと知らない。 あるいは知らない振りをしているかもしれない。 でもそんなことはどうでもいい。 誰も知らなければ、 知らない振りをしてくれるのなら、 私は普通の人間でいられる。 皆と仲良く過ごすことが出来る。 誰も知らなければ、 この「力」を持ってしまったことを後悔はしない。 むしろ、喜んでいるくらいだ。 持っていれば、 私は特別でいられる。 特別であることに、 自信を持って生きていける。 たとえどんなことがあっても、 この力は私を勇気付ける。 私は特別なんだ、と。 でも、 「力」自体はとても恐ろしい。 潮の満ちた海のように、 燃え盛る炎のように、 敵軍のトロイの木馬のように。 なぜなら、 この「力」は人を守ることが出来るのと同時に、 人を傷つけることに使うことが出来るからだ。 役立つものに化けて自分に牙を向く。 そんな「力」だ。 もちろん、 そうならないように「力」を抑える。 決して人前では見せない。 自由自在に操ってやる。 それでも、私は不安だ。 この「力」がいつ私を呑み込むかわからない。 いつ人を傷つけるかわからない。 初めてこの「力」を使ったときは それはそれは恐ろしかった。 人間がこんなことが出来るなんて 夢にも思わなかった。 でも私はそれを消し去った。 きっと、私の頭がプラス思考だったんだろうね。 すぐに希望という存在へと変えてしまった。 それが私のいいところであり、 悪いところでもある。 人間って単純に出来ているなって、 このとき思ったな。 とにかく、 この「力」は普通ではない。 人に対して使ってはいけない。 そう思ったわけだ。 きっと幼かったからであろう。 否、誰でもそう思うであろう。 前置きが長くなってしまったな。 喋りすぎるってのもよくないので、 ここらで切り上げることにしよう。 ではまた後で。 2 日々 「・・・・・ぞ・・ろ」 何かが聞こえる。 「・・・護・・・間だ・・・・きろ」 誰かの声だ。 「早く・・中・ぞ・・・氷護・・・きろ」 名前を呼ばれてる。 「授業中だぞ!早く起きろ!氷護!」 「へ?」 僕は顔を上げる。 突然、何かで叩かれた。 その反動で僕は机に頭をぶつけた。 僕は頭を押さえながら顔を上げる。 目の前には日比野先生が立っていた。 「雨神、授業中寝るとはいい度胸だ。」 先生の顔は笑ってはいるものの声は確実に怒っていた。 「すみません、先生。」僕は一応謝る。 「これで何度目だね?雨神」口調が強くなる。「確かこれで163回目ではないのかね?」先生はかけている眼鏡を上げながら言った。 「先生よく覚えてますねぇ」僕は笑いながら言う。 再び叩かれ頭をぶつける。 「何度も茶化すな。こういうパターンは139回もやっている。今は君を叱っているときだ。君は黙って聞いていなさい」 「先生、それもう144回聞きました」 またもや叩かれ頭をぶつける。 「違う、141回だ。3回多い」先生は真面目な顔で言う。 「そんなことはいいですから早く授業をやりましょうよ」 先生は黒板を指差し「そんなにやりたいなら今言った問題を解いて御覧なさい」と言った。 黒板を見る。 5秒ほど考えた。 「先生、あれ習ってません」 「授業の始まりに教えたはずだ。さては、授業の始めから寝ていたな?」 「あっ、正解です」 電光石火のごとく殴られまたもや頭をぶつける。今のが一番力が入っていた。 「いててて・・・。先生、今の本気ですか?」 「10分の1ぐらいだ」もちろん力のことである。 「本気では殴らないんですか?」 「人を殴るのは趣味ではない。それに私の手が痛くなる」 「そうですよ。先生は高齢だから安静にしてなきゃ。殴るのなんかやめて。確か今年で63歳では・・・」 また殴られた。今までで一番大きな音がした。 「私はまだ50代だ!!私の体の心配するなら君がもっと真面目になりなさい!まったく・・・」 そういって先生は黒板の前に戻っていく。 「ちぇ〜」僕は後頭部を押さえながら言う。 「馬鹿だな氷護も」隣の席のうるさい刈亜が話しかけてきた。 「うるせぇな。楽しくてやってんだからいいだろ」僕は刈亜を睨んだ。 「お前も悪だなぁ」刈亜がクスクス笑いながら言う。「そのうち先生に殺されるぞ。」 「そんときゃぁ、そんときよ。」僕は少し大きな声で言ってしまった。少し先生がこっちを睨んだ。 「まぁ、せいぜい気をつけろよ。まっ俺はそんなことないけどね。優等生だから」刈亜は前を向いた。 この俺が殺されるわけがないだろ。ましてやあんな普通の人間に。 僕はそう思った。 やろうと思えばいつでも人を傷つけられる。 いつでも殺せる。 だけど、それは心の中にしまって置くことだ。 この世は平和すぎる。 争いなんてほとんどない。 毎日怯えることにならない。 争いなんてもっと遠い国のことだと思っている。 まさに日本はそんな状態だ。 第一、死なんてすぐ隣にある。 人はいつ死ぬかなんてわからない。 僕は窓の外に目をやる。 一機の飛行機が飛んでいる。 飛行機雲が一直線に伸びている。 まるで永遠に続く道のように。 人間のほとんどはこの道を歩いていると考えていると思う。 自分は寿命まで生きられる。 90歳や100歳まで生きられる。 そう思っているものが多いと思う。 人はいつ死ぬかなんてわからない。 ふとした瞬間に落とし穴が待っているものだ。 車や飛行機に乗れば交通事故が起こるかもしれない。 家の中に居てもいきなり火事になったりするかもしれない。 道を歩いていても空から何か落ちてくるかもしれない。 別に考えすぎと言われても気にしない。 本当に起こりえることなのだから。 「雨神!!」 「へ?」僕は前を向く。 またもや頭を殴られ机にぶつける。 「お前また人の話を聞いていないな?」先生の口調がかなり強い。「指名しても全然答えない」 「え?僕指されていたんですか?」 「そうだ。3回呼んだ」 「全然聞こえませんでした」 また殴られた。 「次はしっかり聞いてなさい」先生は教卓に戻っていく。 僕はまだ頭を抑えている。 「おい、これで何回殴られた?」刈亜が言う。 「427回」僕は答える。 「違う。419回だ」先生が教卓から言う。 「うわ、先生地獄耳。閻魔大王みたい」刈亜が叫ぶ。 「何!!!」先生が刈亜に近づこうとする。 「うわ〜、すみません。殴るのだけは勘弁してください」刈亜が頭を下げ手を合わせる。 生徒全員が笑った。 3 環境 僕の名前は雨神氷護(アマガミ ヒョウゴ)。R高等学校に通う普通の高校3年生だ。正確には表向きは普通である。 クラスの中ではムードメーカーとして女子から下級生まで学校中で人気のある男だ。ただ不真面目なことが多く、授業中の居眠りはおろか、遅刻の数も星の数ほど。先生達の間ではS級ランクの警備体制がひかれている。いわば、絶滅危惧種より珍しい超要注意人物。学力は9段評価で中の下。悪くはないがもっとあったほうがいいと言うくらい。 最も中のよい友達は、切札刈亜(キリフダ ガイア)である。変わった名前だとよく思う。中学からの同級生で常に一緒にいた。外見はかなりのイケメンで女子からの人気は絶大だが、性格が気障で自慢が多いのを理由に嫌っている奴も多い。ほとんど顔のよさで生きているような男である。 僕の学校全体の立場として、風紀委員会に務めている。風紀委員て言うのは、簡単に言えば学校全体の校則や規則を取りしまる機関のことを言う。例えば服装を見たり、持ち物を検査したり、遅刻者を調べたりする。何でこんなところに僕がいるのかとても不思議だ。一応3年生なので何かしら委員会に入らなければならなかったのだが、僕がなかなか挙手しなかったもんで、自動的にこの配役となってしまった。まったくおかしな話である。ちなみに部活は陸上部で種目は砲丸投げや円盤投げなどの投擲競技が専門である。 僕の家は学校から自転車で40分くらいのところ。距離にして10キロ位。流石にこの距離を毎日自転車で往復しなくちゃならないと考えると、とてもしんどい。行きは坂道で楽なのだが、上りはとにかくきつい。陸上でマラソンをやるよりきつい。しかしこれでも一番近い高校を選んだつもりだ。田舎に住んでいる僕が悪いと思ったが、住んでしまった以上仕方がないということであきらめた。いつだか1人暮らしをしたいと両親に提案してみたが、猛反対され、結局その夢は実現していない。そのせいで遅刻しているといっても過言ではない。 「なら、早く起きるように工夫すればいいじゃないか?」と先生に聞かれたことがある。 「無理ですよ。僕はいつも夜中の1時に寝ているんですよ。忙しくて」僕はこう答えた。 「そんな時間までなにやってんだ?」 「テレビゲームです。今ちょっと難関に差し掛かってなかなかクリアできな・・・」もちろん、そこでまた殴られてしまった。 こんな風になかなか早く来れない。まったく困ったもんだ。 家族構成は両親に加え、妹と弟が1人ずつ。祖父と祖母もご健在。そして犬が二匹と、妹がハムスターを一匹飼っている。ペットも入れて合計10人の家族。はたから見れば結構の大家族だ。年齢は両親が40前後で祖父母が70前後。妹は1つ年下の高校2年生で、弟は更にその下の高校1年生。3人も高校生がいるのだから、僕ぐらいが1人立ちした方がいいと思っている。 というわけで、僕はどこにでもいるような少し素行の悪いの高校生だ。毎日勉強やって、毎日部活やって、毎日友達とふざけあって、毎日を過ごしてきた。少なくとも第3者の客観的な目で見れば、僕は普通の人間だ。間違いなく。 それは今までも、 そしてこれからも変わらないはずだった。 4 家庭 家に着いた。 やはり自転車を使っても、予想通りに40分前後に到着した。6時15分に学校を出て、6時55分に着いたのだから間違いない。 自転車をいつものところに置き、家に入る。 「ただいま〜」家中に聞こえる声で言う。 「お帰り」奥から母親の声が聞こえる。「もう、夕ご飯出来てるわよ」 「へ〜い」僕は急いで上がり自分の部屋に駆け込む。即効で制服を脱ぎ、普段着に着替え洗面所に向かう。洗面所で手を洗い、ついでに顔も洗う。そしてリビングに向かい席に着いた。6人とも自分の決まった椅子に座っている。僕が帰ってくるのを待っていたようだ。 「お兄ちゃん遅ーい」妹が言う。「おなかペコペコだよ」 「悪い悪い。じゃあ、食べようか」頭を触りながら言う。 「いただきま〜す」全員でそろって言う。それが家族のしきたりだからだ。 僕は黙々と食べ始める。流石に部活で疲れただけあって、腹がかなり減っていた。今日の夕食はハンバーグだったので2杯ほどお代わりをしていた。 僕は夕食の時間はほとんど話さない。話すのはほとんどが妹で家族みんな妹の話に相槌を入れながら会話をしている。祖父母は毎日この時間が楽しみだという。 妹は天然系のキャラクターである。つまり少し思考が遅いと言うか、ぼけていることが多い。わざと自分でボケを入れなくとも、勝手に入ってしまうのが彼女の話し方である。口調も外見の年齢より、かなり低く設定されているようだ。 弟はその逆である。普段の生活でもほとんど話さない。口にチャックでも付いているのではないかと思うほど無口である。話すのは単語だけの場合が多く、文章で話すことは天文学的な確立より低い。 「〇〇君たらね〜、授業中寝ちゃってね。先生に立たされたりしてたの」妹がまるで小学生のような口調で話す。 「ほぉ〜、それは困ったね」祖父が言う。 「でねぇその子ね、次の授業でも寝てたもんで、放課後先生に職員室に呼ばれちゃったの」 「そうかい、そうかい」祖母が相槌を打つ。 そんな感じでいつも通りに夕食が終わった。 弟はすたすたと自分の部屋に戻っていき、妹はテレビのある居間に足を進める。母は皿を片付けせっせと洗い、父は席を立たずに煙草を吸っている。祖父と祖母は居間で編み物やら読書を始める。そして僕はみんなの行動を見届けて自分の部屋に行った。 部屋に入ると僕は何かが急激に冷めてしまう感覚をいつも感じている。というより、別の誰かに体を奪われたようになる。多分、一人になることが原因なのかもしれない。 友達と一緒にいるときはいつも周りを気にして明るく接するムードメーカー。でも今の自分は、自分のことしか考えない冷たい感情だけが体を取り巻いている。光を遠ざけて、影の中に潜む魔物のような感じだ。 まるで二重人格のように正反対だ。 こういう状態になると自分だけが別世界にいるような錯覚に陥る。みんなとは世界が違う、レベルが違う、次元が違う。僕だけがみんなより先へ抜き出ていて、遅れているみんなを嘲笑っている。 そんな傲慢な性格になる。 怒り、悲しみ、苦しみ、恐れ、寂しさ、痛み、酷い、醜い、衰え、呻き、叫び、狂い、消える、朽ちる、殺す、斬る、撃つ、潰す、恨み、怯え、虚しさ、嬲る、乱れ、闇、影、屑、無、悪、黒、血、骨、そして死。 そういったワードが爆発的に頭をよぎり、消えていく。 突然、ふと我に戻る瞬間がある。それは部屋に戻ってから2時間以上は経過している。 その間何をしていたのかまったく覚えていない。 そうして毎日時間が過ぎていく。 今日も宿題があったな。 早くやんなきゃ。 5 事件 遅刻した。 結局、その後宿題やらゲームやらをやっていたせいで寝るのがやたらと遅くなった。そして当然の末路である「寝坊」を引き起こしたのである。 学校へは8時までに行かなくてはならないのだが、時計は7時50分を指していた。それは今までの記録を塗り替えるほどの新記録であった。 父も母も仕事が早いため、すでに家にいない。弟と妹は僕より偏差値の高い遠い学校に行っているためいない。祖父と祖母は農家を営んでいるので午前中は朝早くから畑に行っているためいない。結果、家にはほぼ毎日僕しかいない。つまり起こす人がいないのである。 性格がああいう性格なので、自分で時間通り起きれたらいいものである、といつも思うが目覚ましをかけてもまったく目が覚めない。 だから毎日遅刻する。もうこれは直しようがない。 僕は布団を跳ね除け制服に着替える。 昨夜準備した鞄を持って部屋を飛び出し朝食であるパンを咥える。 自転車に飛び乗り全速力でこぐ。 この間僅か3分。 毎日やっていると流石に慣れてくる。 片手でハンドルを握りながらパンを食べる。 行きはほとんどが坂道なのでハンドルの操作だけで十分だ。 パンを食べ終わったらギアを重くし、ペダルをこぎ始める。 幸いこの道の車の出が少ないのでスピードを出しても事故を起こさない。 今のところそういった事故は起きていない。 流れるように学校の校門を潜り抜けた。 これでも30分はかかっている。 この時間ではもう授業が始まっている。 僕たちのクラスは他のクラスに比べ、学力の低いものがそろっている。そのため日比野先生が他のクラスに追いつこうと、朝、もう一時間授業を増やしているのだ。他のクラスは9時までに学校に行けばいいのだ。めんどくさいことである。 自転車を指定の場所に置く。 鍵を閉める。 走って玄関に向かう。 靴を上靴に履き替える。 さらに走る。 僕の教室は3階。 階段が結構きつい。 廊下の突き当たりにある階段を上る。 踊り場でUターン。 再度Uターン。 Uターン。 Uターン。 3階に着く。 まっすぐの廊下を駆け抜ける。 僕の教室は3年1組。 まず化学室。 生物室。 視聴覚室 その隣が3年1組だ。 「すみませ〜ん、遅れました〜」僕は叫びながら教室のドアを開ける。 「雨神!入っちゃ行かん!!」日比野先生が叫んだ。 「氷護!来るな!」刈亜も叫んでいる。 僕は何のことかわからなかった。 考えようとした。 しかしその前に僕は後方に飛んだ。 6 二人 「よう、久しぶりだな」 「なんだ、お前か。どうした」 「お前が消えたから出てきただけだ」 「消えた?」 「そう、正確には意識がだがな」 「意識が?なぜ?」 「俺が知るか」 「何が起こったの?」 「俺が知るか」 「中にいるんだから見てるだろ」 「お前の目が俺の目なんだ。前に言ったはずだぜ」 「そうだっけか」 「そうだ」 「じゃあ、どうしよう」 「待ってろ」 「戻れないの?」 「だから待ってろ。気がつかなきゃだめだ」 「先生や刈亜がなぜ叫んでいたかわかる?」 「やばかったからだろ」 「何があったんだろ」 「教室に知らない奴が居た」 「えっ?」 「そいつが何かした。間違いないだろ」 「そんなの僕知らないよ。本当は見えてるんじゃないの?」 「お前の観察力が足りないだけだ」 「あっそう」 「そいつが銃を持っていた」 「えっ?本当?」 「俺はお前の見た映像をもう一度見られる。間違いない」 「じゃあ、何?僕は撃たれたってこと?」 「多分そうだろ。パシュって音もした」 「僕聞いてないよ」 「サイレンサー(消音機)付だ。あの状況で聞こえるほうがすごい」 「さっき、俺は知らないって言わないっけ?」 「からかっただけだ」 「こんな時にからかうなよ」 「焦っているお前を相手に話したって意味がない。だからからかって落ち着かしただけだ」 「あっそう。他に見れたことは?」 「日比野先生が倒れていた。多分撃たれたんだろ」 「日比野先生が!他のみんなは」 「映像の限り負傷者は見られない」 「じゃあ、早く戻らなきゃ」 「戻ってどうする」 「助けるに決まっているだろ」 「どうやって?」 「あれを使う」 「あれを使うって言うのか?」 「当たり前じゃないか!」 「いいのか?人前で使って」 「この際、迷ってなんかいられない」 「だけど、完璧に操れるのか?」 「何とかするさ」 「もしも仲間に当たったら?」 「当たらない」 「自信はあるのか?」 「・・・・」 「ふぅ、わかった俺が補佐する」 「ほんと?」 「嘘ついてどうする」 「わかった」 「俺ができるのは力の強弱の調整だけだ。使い方は任せるから自由にやれ」 「わかった」 「そろそろ時間だ。言っておくがお前が死んだら俺も・・・・・!」 7 冷徹 「ちぇ、はずしちまったぜ」 知らない声が聞こえる。 「貴様!死んでないだろうな!」 これは刈亜の声だ。 「肩に当たったんだ。まだ死んじゃいないさ」 死ぬ?誰が? 「氷護が死んだら絶対お前を殺す」 いつもの刈亜の声ではない。とてつもなくドスの効いた声だが、どことなく悲しい響だ。 「お前が?」銃口を刈亜に向けた。「笑わせるな。今の状況をわかってんのか?」 そうか。俺が撃たれたのか。 「お前の人質だろ。それくらいわかる」 くそっ、体が動かねぇ。 「口をもっと慎んだらどうだね。君のこの2人のようになっちまうぜ?」 2人?あぁ、先生も撃たれてたっけ。 「そうだ、刈亜・・・。もっと口調を弱めろ・・・」日比野先生が言う。いつもの喋り方ではない。 「お前の目的はなんだ」口調を変えずに刈亜は言う。 「目的?」ニヤリと笑う。「そんなの簡単だ目的は『ゲームをする』ことだ」 「ゲームだと?」口調が強まる。 「そうだ。俺が主人公となり、どれだけ罪を犯せるか。警察に捕まったらGame Overだ」 「ふざけるな!!殺人をゲーム扱いするな!」 「違うな。」強い眼差しを刈亜に向ける。「人間にとってのゲームは人生そのものだ。人間は限られた選択肢を選びながら生き抜いていく。殺人もそんな選択肢の内の一つだ」 「人生とゲームはまったくの別物だ!一緒にするな!」刈亜が叫ぶ。 「だったら何だというんだ。人間の人生なんてちっぽけで無力だ。今ここに2人の人間が死にかけている。簡単に死ねる。簡単にセーブデータを消せるんだよ。まさにゲームそのものじゃないか」 「人生はリセットは出来ない。それだけですでにゲームとは呼ばない」 「そう。確かにその通りだ」微かに笑う。「常にオートセーブなんだよ。この世界は。人間は過去にも未来にも行けない。それをわかっていながら悔やんでいる奴が多すぎる。俺の友もそうだった。それがあまりにも虚しく儚い。」目を細めた。悲しい顔にも見える。「だからこそ俺は今を楽しむんだよ。常にオートセーブされるこの世界に悔いなど無意味に等しい。悔やんだ奴が悪い。俺はそんな奴になろうとは思わない」 「だから殺人を選んだのか?」刈亜の声がいっそう低くなる。 「ああ、そうだ。最も危険なゲームを演じて楽しんでるんだよ、俺は」 「馬鹿馬鹿しい!殺人が楽しいだと?とんだいかれた野郎だ!そんな奴が俺や氷護を殺れるかよ!この狂乱者が!」 「忠告を聞いていなかったようだね『口を慎め』とな。一人ぐらい死なないと懲りないのか?」銃口を氷護の方へ向けた。 その瞬間。 待っていたように刈亜が奴に向かって走り出した。 刈亜の席は教室の中心。 奴との距離は10mほど。 確実に奇襲をかけられる。 刈亜は肩から突っ込んだ。 誰かの叫び声を聞いた気がした。 しかしもう遅い。 勢い任せにぶつかる。 奴の行動が遅い。 銃口はまだ氷護の方へまだ向いている。 顔はこちらを向いている。 成功する。 そう思った。 奴との差が1mに詰まったとき。 それは一瞬で崩れ落ちた。 彼は小さな発射音を聞いた。 それと同時に足に激痛が走る。 何人かの悲鳴が上がった。 彼は肩から床に滑り込んだ。 気が遠くなる。 「残念だったな」 刈亜は仰向けに寝転がる。 その真上には奴の顔。 「銃は一丁だけだと思ったのかい?」 奴はさっき右手に銃を持っていた。 今は両手に持っている。 左手のは右手のと違うタイプだ。 よく見たら奴のズボンに穴が開いている。 そこから撃ったのか。 いい腕だ。 「やはり警告が聞こえていなかったようだね。では罰ゲームに廊下にいるあの子に死んでもらうことにするか」奴は刈亜から顔を離す。 「やめ・・・ろ・・・」精一杯出したつもりだったがまったく声が出なかった。 奴は氷護の方へ向かう。 刈亜はもう動けず、奴の姿を見るしか出来なかった。 奴が氷護の前に立つ。 「じゃあな。友達のためだと思って死にな」奴が銃口を向ける。 「全く、本当に馬鹿馬鹿しいな」氷護が喋る。 「お前意識が・・・?」刈亜が言う。 「話を全部聞いていたが、お前に馬鹿な頭には本当に呆れる。刈亜の言ったとおり、お前には俺や刈亜は殺れねぇよ」 「お喋りはそこまでだ。後は天国で言いな」 「無駄だ」氷護が言う。 しかし誰も聞いていなかった。 再び発射音が教室に響く。 それと同時に高い超音波のような音が響いた。 弾は氷護の額に当たり、頭が後ろに反った。 また悲鳴が上がった。 誰もが絶望を感じた。 だが終わりではなかった。 氷護の反った頭が再び戻った。 その反動で額に当たったはずの弾が床に落ちた。 弾が跳ねる音が妙にはっきり聞こえる。 弾が当たったはずの額に傷や痕はない。 弾は貫通しなかった。 氷護は瞑っていた目を開ける。 「ば・・・馬鹿な・・・」奴が驚愕の声をもらす。 「言ったはずだ。お前に俺は殺せない、とな」 「確かに・・・弾は当たった・・・なぜ?・・どうして・・」奴の声が震える。混乱状態に陥っているようだ。周りの人たちも目を見開いている。 「なぜかって?」氷護がにやりと笑う。「決まってる。僕が普通ではないからだ」 氷護の声を聞いて、奴が後ろに下がり始める。 「氷護!早く殺れ!」どこからか声が響く。 「わかってるよ!」氷護は叫ぶ。 氷護は床に手を当てる。 「セブリド!」氷護が叫ぶ。 同時に奴の左側の床から氷の柱がななめに突き出した。 柱は奴の肩に当たり奴を吹き飛ばした。 奴の左手から銃が落ちる。 飛ばされながらも奴は体制をとり銃を構える。 「クソッ!!」右手の銃から2つの火が氷護に襲い掛かる。 氷護の胸と腹に当たる。 しかし、さっきと同じ。 キンという金属音がした。 当たっても衝撃を与えるだけだ。 「な・・・なぜだ・・当たってるのに・・」 氷護は再び床に手を付けた。 「ルド・セブル!」 奴の横の壁から氷が飛び出す。 今度のは柱ではなく氷柱がであった。 氷柱は右手の銃を貫き、壁に刺さる。 奴は完全に無防備となる。 顔はもう何も考えていないような顔だった。 「とどめだ!セブル・ゼガルグ!」 氷護の周りが氷に包まれていく。 壁も、 床も、 戸も、 窓も、 天井も、 全て。 氷に包まれていく。 それは奴をも飲み込んだ。 「うわぁぁぁぁ・・・・」奴は叫んだ。しかし虚しく響くだけだ。 奴は凍った。 完璧なオブジェと化した。 こうやって見ると光が無数に反射しとても綺麗に見える。 しかし、氷の中の悪を考えるとその気持ちもすぐに失せた。 氷護は床についていた手を放す。 楽な姿勢になり大きく息を吐いた。 この時間が無限に続いたら・・・という予想を考えた。 「死んだのか?」刈亜がほふく全身で出てきた。 「死んではいない。皮膚の周りを凍らしただけだ。心臓は止まらないし、細胞も死なない。」氷護の声は弱弱しい。 「お前そんなことが出来たのか・・・・」刈亜が小さな声で言った。 「ああ、子供のときからな。難しかったぜ。これを扱うのは」 「銃の弾が当たったがなぜ効かなかったんだ?」 「ああ、俺の皮膚を凍らせたんだ。氷の強度も自由に変えられるもんでね、鋼鉄並に硬くしておいた。」 「そうか・・・」刈亜の声もとても悲しく聞こえた。氷護は刈亜がどんな気持ちでいるかよくわかっていた。 「とりあえず、誰か救急車と警察を・・・誰か頼む・・・あれ?」氷護の意識が薄れていった。急に背景が動いた。頭に衝撃がきた。刈亜の驚く顔を見ながら氷護の意識は消えていった。 8 終始 次に私が目覚めたのはそれから3日後だった。もちろん病院の中である。 3日も目覚めなかったのは、肩の傷と極度の疲労だと言っている。慣れないことをしたんだ。当たり前の末路だ。 刈亜と日比野先生も同じ病室だった。刈亜は右足を、先生は腹を撃たれたそうだ。2人ともやはり疲れているようだった。 私を含む3人は撃たれた事による衰弱で軽い風邪を引いていた。これはすぐ治るだろうと思った。 僕たちを襲った犯人の事情聴取を刈亜を通して警察から聞いた。奴の目的は刈亜が聞いたとおり、ゲームをしたかったと言っているそうだ。全ての死に対するゲームを。 私は1つ、恐れていた事態があったが、それは刈亜が阻止してくれた。おかげで私はずっと病院で過ごすことが出来た。それはこの場で話したくない。想像にお任せする。 学校のみんなも見舞いに来てくれた。多少ぎこちない部分があるものの、避けなかったことだけはとてもうれしかった。 もちろん家族の皆も見舞いに来た。しかし、来たのは祖父、祖母、弟、妹だけであり両親は来なかった。認めたくはなかったが、事実である以上受け止めなくてはならない現実だった。 弟妹の2人は両親と逆で、この能力を恐れずに凄い凄いとはしゃいでいてくれた。弟もこのときばかりはなぜか笑顔を見せてくれた。おかげで暗い気持ちにならなくて済んだ。 祖父母は、両親のことは気にするな、といつもの笑顔で言っていた。いつもと変わらない顔も、このときは悲しい顔に見えた。 僕たち3人は同時に病院を退院した。気をきかしてくれたのであろう。もちろん、誰がとは言わない。それからは再び、何も変わらない日々が続いた。あの事件に関わった人間、誰もが変わることのなく日常を過ごしていた。僕に気を使っているのだろうかと予想したが、これは口が裂けても絶対に口に出来ない。 しかし、私だけは変わった。この能力が世間に知れた以上、人並みには生活出来ないことは理解していた。この事を中の奴に聞いてみたが、答えは「お前の好きにすればいい」と言うだけである。 選択肢は3つ。 1つ目はこのままこの能力があるなしに関係なく過ごす。 2つ目は誰にも見つからずひっそりと消えていく。 3つ目は能力を利用して生きていく。 だがそれは考える必要がなかった。もうずっと前に考えたことがあったからだ。もう迷いなど何一つなかった。 その迷いがないおかげで私はここにいる。 この地位にいる。 私は今のこの環境に誇りを持っている。それは『僕にしか出来ないこと』を見つけ出すことが出来たからである。 今のこの地位にたって、やっと犯人の言っていたことが間違ってはいないことに気がついた。 人生はゲームであるということだ。 解釈は人それぞれ違うが人生とゲームは同じものである。 ゲームを遊び道具として解釈すればまったくの別物だ。 テレビゲームを例にとって見れば、結局、プレイヤー=主人公でありそれを操作し正しい選択肢を選んでゴールを目指す。 これは人生そのものとはいえないだろうか。 ゲームは人生を簡略化したものだと思う。ゲームではセーブさえすればリセットして、またやり直せるし、ゲームオーバーになっても終わりではない。選択肢となる道は複数とあるが、所詮到達するのはゲームオーバーかクリアの二つ。人生は全てが逆だ。やり直すことも出来ない。生き返ることも出来ない。選択肢は無数とあっても全て到達するところが違う。全ても道の先には死が待っていて、クリアなどは存在しない。あるとしたら途中経過こそがクリアのゴールである。 ゲームは人生の不便なところを補ったものに過ぎない。 こうやって考えれば人生=ゲームの方程式も立てられる。 意見が違っていたっていい。それは人の価値観。刈亜のように絶対的に否定してもいい。 それも一つの選択肢かもしれない。 私の枝分かれした道はまだ無数とある。選択肢はまだ残されている。それがあるこ、それが私の人生であり、私のゲームである。 この地位に立っても刈亜だけはたびたび会うことがある。唯一、私の親友の中で近い環境で仕事をしている。 きっと刈亜と離れることはないであろう。 さて、そろそろこの冒険紀の幕を閉じようと思う。 長くなりすぎたかもしれない。 最後に一つ言っておきたいことがある。 私がこの地位に付いたには自分自身に誇りを持ち、どんなことも逃げないでいたことが最も大きな理由である。 たとえ、人から軽蔑されようが、嫌われようが、自分自身に自信を持ち、自分自身を誇りに思い、進みたいところに真っ直ぐ向かうことが大切である。たのは、肩の傷と極度の疲労だと言っている。慣れないことをしたんだ。当たり前の末路だ。 刈亜と日比野先生も同じ病室だった。刈亜は右足を、先生は腹を撃たれたそうだ。2人ともやはり疲れているようだった。 私を含む3人は撃たれた事による衰弱で軽い風邪を引いていた。これはすぐ治るだろうと思った。 僕たちを襲った犯人の事情聴取を刈亜を通して警察から聞いた。奴の目的は刈亜が聞いたとおり、ゲームをしたかったと言っているそうだ。全ての死に対するゲームを。 私は1つ、恐れていた事態があったが、それは刈亜が阻止してくれた。おかげで私はずっと病院で過ごすことが出来た。それはこの場で話したくない。想像にお任せする。 学校のみんなも見舞いに来てくれた。多少ぎこちない部分があるものの、避けなかったことだけはとてもうれしかった。 もちろん家族の皆も見舞いに来た。しかし、来たのは祖父、祖母、弟、妹だけであり両親は来なかった。認めたくはなかったが、事実である以上受け止めなくてはならない現実だった。 弟妹の2人は両親と逆で、この能力を恐れずに凄い凄いとはしゃいでいてくれた。弟もこのときばかりはなぜか笑顔を見せてくれた。おかげで暗い気持ちにならなくて済んだ。 祖父母は、両親のことは気にするな、といつもの笑顔で言っていた。いつもと変わらない顔も、このときは悲しい顔に見えた。 僕たち3人は同時に病院を退院した。気をきかしてくれたのであろう。もちろん、誰がとは言わない。それからは再び、何も変わらない日々が続いた。あの事件に関わった人間、誰もが変わることのなく日常を過ごしていた。僕に気を使っているのだろうかと予想したが、これは口が裂けても絶対に口に出来ない。 しかし、私だけは変わった。この能力が世間に知れた以上、人並みには生活出来ないことは理解していた。この事を中の奴に聞いてみたが、答えは「お前の好きにすればいい」と言うだけである。 選択肢は3つ。 1つ目はこのままこの能力があるなしに関係なく過ごす。 2つ目は誰にも見つからずひっそりと消えていく。 3つ目は能力を利用して生きていく。 だがそれは考える必要がなかった。もうずっと前に考えたことがあったからだ。もう迷いなど何一つなかった。 その迷いがないおかげで私はここにいる。 この地位にいる。 私は今のこの環境に誇りを持っている。それは『僕にしか出来ないこと』を見つけ出すことが出来たからである。 今のこの地位にたって、やっと犯人の言っていたことが間違ってはいないことに気がついた。 人生はゲームであるということだ。 解釈は人それぞれ違うが人生とゲームは同じものである。 ゲームを遊び道具として解釈すればまったくの別物だ。 テレビゲームを例にとって見れば、結局、プレイヤー=主人公でありそれを操作し正しい選択肢を選んでゴールを目指す。 これは人生そのものとはいえないだろうか。 ゲームは人生を簡略化したものだと思う。ゲームではセーブさえすればリセットして、またやり直せるし、ゲームオーバーになっても終わりではない。選択肢となる道は複数とあるが、所詮到達するのはゲームオーバーかクリアの二つ。人生は全てが逆だ。やり直すことも出来ない。生き返ることも出来ない。選択肢は無数とあっても全て到達するところが違う。全ても道の先には死が待っていて、クリアなどは存在しない。あるとしたら途中経過こそがクリアのゴールである。 ゲームは人生の不便なところを補ったものに過ぎない。 こうやって考えれば人生=ゲームの方程式も立てられる。 意見が違っていたっていい。それは人の価値観。刈亜のように絶対的に否定してもいい。 それも一つの選択肢かもしれない。 私の枝分かれした道はまだ無数とある。選択肢はまだ残されている。それがあるこ、それが私の人生であり、私のゲームである。 この地位に立っても刈亜だけはたびたび会うことがある。唯一、私の親友の中で近い環境で仕事をしている。 きっと刈亜と離れることはないであろう。 さて、そろそろこの冒険紀の幕を閉じようと思う。 長くなりすぎたかもしれない。 最後に一つ言っておきたいことがある。 私がこの地位に付いたには自分自身に誇りを持ち、どんなことも逃げないでいたことが最も大きな理由である。 たとえ、人から軽蔑されようが、嫌われようが、自分自身に自信を持ち、自分自身を誇りに思い、進みたいところに真っ直ぐ向かうことが大切である。 本当はこの地位につくまでも語りたかったが、そうすると書ききれなくなってしまう。 言いたいことは全て書いた。 後は君次第だ。 私とは違う道も全て希望を持つ限り、 誰もが同じ道を進んでいる。 迷わずに進め。 人生にリセットボタンはない。 世界警備連合軍 総合特殊部隊第一隊長 「氷の鬼神」 雨神 氷護 記 「冷たき力の末裔」 終 |
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| 後書き ホームページに載せる2作目の作品ということで、前回よりは数段うまくかけているような気がする。僕は性格上、こういう不思議な能力と言ったものが好きなのでそれを使える人間、そしてその後をテーマに書きました。氷は僕のイメージ上、最も好きな能力なのでこんな風になりました。 今回一番書きたかったのはバトルシーンである。本当のところ、戦闘をどうやって書くかずいぶん迷ったんだが、結局こういう形に落ち着いた。やはり、バトルシーンを書くのは難しいと再確認しました。文章力がないのでわかりにくいかも。 哲学的な部分も多く含めたので、構成に結構時間がかかった。最後の終わり方もずいぶん悩んだ。 今回よくないのは文書だけでなく、背景である。前回のは改行がほとんどなので違和感を与えなかったが、今回は長い分が多くて背景と重なり醜くなってしまった。おかげで長い文を無理やり改行したので、変な部分が多い。一マスあいていないところは前文とつながっていると考えてください。 まあ、全体的にはよかったと思います。 |